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2019.02.07

知ってる? 80年代、ポップスに革命を起こした英国プロデューサーとは?

「ラジオスターの悲劇」のバグルスから、イエスのヴォーカリストを経て、80年代の重要プロデューサーとなったトレヴァー・ホーン。その最新作は、なんと当時の曲をオーケストラでカバーしたものだった?

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インタビュー/小野島大 文/松永尚久

80年代の華やかなサウンドには仕掛け人がいた?

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(c)Stuart Anning
日本が、いや世界が最も煌びやかだったといえる「1980年代」。その頃の街を鮮やかに彩った楽曲を多数制作してきた、イギリスの大御所プロデューサーであるトレヴァー・ホーン。彼が作り出してきた音楽の魔法、それが現在にどんな影響をもたらしているのか?本人の貴重な発言や当時の写真などで振り返りつつ、完成したばかりの最新アルバムの魅力を紐解く。

 現在、クイーンを題材にした映画『ボヘミアン・ラプソディ』が社会現象化するほどの人気を獲得するなど、音楽シーンでは「懐古」的な作品の中から、新たなエキサイトメントを見いだす風潮が生まれている。また、ほかにも「昭和」時代の華やかさを振り返るようなムーブメントが、音楽だけにとどまらず、ファッションなど多様なカルチャーからも感じ取ることができるはずだ。

 なかでも、最も華やかな「昭和」時代として幅広い世代に注目されているのが、1980年代といえよう。(当時)新進気鋭のドメスティック・デザイナーズ・ブランドに身を包み、高級な外車を乗り回し、夜な夜なディスコやクラブなどで踊りあかし、あらゆるきらめきをまとった人も、LEON世代のなかにはいるのではないだろうか。そんな煌びやかな風景を彩るために欠かせなかったのは、音楽といえよう。特に、この時代はミュージック・ビデオをメインに流す専門TVチャンネルが話題になったり、ラジオや雑誌などいたるメディアで、最先端の洋楽情報が発信されていたことにより、多彩なミュージシャンやジャンルのサウンドが、街に溢れていたような気がする。
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エレクトロを融合したポップスの生みの親、トレヴァー・ホーン

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 だが、実はそれらヒット曲の多くには、影の「仕掛人」がいるのだ。例えば、マイケル・ジャクソンなどを手がけたアメリカのクインシー・ジョーンズや、ホイットニー・ヒューストンなどで知られるカナダのディヴィッド ・フォスターなどといったプロデューサーの存在だ。彼らは豊富な音楽経験や知識をフル稼働させながら、斬新かつ流麗なサウンドを築き、現代でも歌い継がれる名曲を量産し続けている。もちろん、ビートルズなどを生んだ音楽都市イギリスでも80年代を代表するプロデューサーがいる。それがトレヴァー・ホーンだ。

 79年発表の「ラジオ・スターの悲劇」のヒットで知られるバグルスや、イエスのヴォーカリストを経て、80年代よりプロデューサーとして本格始動したトレヴァー。当時、あまり浸透していなかったシンセサイザーやサンプリングなどの「エレクトロニック」な機材を駆使して制作した楽曲の数々は、それまでの「人間の生演奏」だけで構築してきた音楽スタイルとは一線を画したもので、多くの人に衝撃や「未来」のイメージを与えたのだった。トレヴァーは、当時のことをこう振り返る。

「当初は、いろいろな人や同業のプロデューサーが僕に『オマエ何やってるんだ?』『これは何だ?』っていつも質問されていたのを覚えている。一応ひと通り説明してみるんだけど、みんなちゃんと理解するのに数年かかった。説明するのは結構大変だったよ。以前ロサンゼルスでレニー・クラヴィッツに会ったときに、彼が話してくれたんだけど、最初にイエスの『ロンリー・ハート(Owner of A Lonely Heart)』を聴いたとき、今まで耳にしたことがない曲で、あまりにもびっくりして車を止めたらしいんだ。『何だこれ!?』ってね。とりあえずレコードを買って、僕が一体何をしたかったのか、どうやって作ったのか、何度も聴きこんで自分なりに解釈したらしい。他の人たちにとってみれば、一体何が起こっているのか見当もつかなかったみたい」
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 その斬新なサウンドは、幅広い音楽リスナーを瞬く間に魅了。フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの「リラックス」や、ペット・ショップ・ボーイズ、ABCから、(80年代以降になるが)ベル・アンド・セバスチャン、t.A.T.u.など、今でも耳に強烈なインパクトを残す名曲を多数手がけてきた。

「80年代に作られた音楽は、オリジナルから<ほんの一歩だけ遠ざけた>だけというか。ポップ・ミュージックでもみんなちゃんとまだ演奏していた。最近はみんな演奏しない曲が多いよね。レコードも実際に人が演奏した音とテクノロジーによって作られたものが一緒になっていたんだ。時には荒く雑な演奏のものもあったけど、言いたいことをちゃんと伝えることができていた。まだ当時はテクノロジー自体が新しい存在だった。そこでいきなり80年代前半に(テクノロジーの導入と共に)いろいろとコントロールできるようになってきた。テクノロジーを理解している人にとってみれば、今までできなかったことがコントロールできるようになって、音楽を巧みに操ることが可能となった」
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その実験的なサウンドは現代のサウンドにも大きな影響を与えた?

 トレヴァー・ホーンの作ってきた音楽は、どれも斬新・実験性に溢れながらも、あえてメロディを明快(キャッチー)なものにしたり、バンド・サウンド(人間が楽器を弾いている温かみのある感覚)を散りばめるなど、無機と有機を絶妙な「さじ加減」でブレンドしているところが特徴。だから、耳の肥えた音楽好きからも、ライトなリスナーからも親しまれたのだと思う。また、ロックやポップス、R&Bなど、ジャンルレスに「いい」と思った要素をと積極的に取り入れていた音楽姿勢も、枠を超えて支持された理由ではないかと思う。

 彼の手がけたヒット曲が登場して以降、サンプリングを多用したヒップホップ、さらにエレクトロニックをよりディープに追求したサウンドも市民権を獲得するなど、より親しまれる音楽の幅が広がったのではないだろうか。現在ではサブスクリプションなどの登場によって、ジャンルや世代など問わずにそれぞれが「いい」と思った音楽を聴くことがスタンダードになっている状況。そのきっかけを、彼の手がけた音楽が与えたと言って過言ではないのかもしれない。

 時代は「昭和」から「平成」そして間もなく「新年号」へと移り変わっていく状況。トレヴァーは現在も、そのクリエイティビティを止めることはない。最新作『トレヴァー・ホーン リイマジンズ 〜 ザ・エイティーズ・フィーチャリング・ザ・サーム・オーケストラ』では、彼が80年代に手がけた名曲の数々を中心に、壮大なオーケストラ・サウンドと、ロビー・ウィリアムズやオール・セインツなど豪華なヴォーカリストを迎えて再構築した内容になっている。
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「65人編成のフルオーケストラと一緒にやる機会なんてそう滅多にないし、最近音楽業界もお金の余裕がない中、本当に贅沢な経験だったと思うよ。他の人がよくやるように、ただ単に80年代の曲を選んでストリングスを乗っけるだけでは、不十分でうまくいかないと僕は思っている。ちゃんとストリングスをアレンジしないと、かえってごちゃごちゃになってしまう。僕はクリエイティヴなアレンジにこだわりたかったんだ。コード進行もね」

オリジナルの持っている「輝き」を大切にしながらも、当時では感じられなかった美しい「旋律」なども感じられる内容。時代を超えて愛される「名曲」とは何か? が改めてわかる内容になっている。つまり、「あの頃」が蘇ると同時に、時を経て生まれる「旨味」や「深み」も堪能できる、とても贅沢な内容だ。
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● トレヴァー・ホーンの名曲がオーケストラサウンドでリメイク

『トレヴァー・ホーン リイマジンズ ~ ザ・エイティーズ・フィーチャリング・ザ・サーム・オーケストラ』
トレヴァー・ホーン(ユーマ)3000円(CD2枚組) 発売中


・ 収録曲より

「ルール・ザ・ワールド(オリジナル:ティアーズ・フォー・フィアーズ)」
ヴォーカリスト:ロビー・ウィリアムズ
https://youtu.be/rCOs75JHlIU
収録曲などの詳細はレーベルサイトをチェック
http://www.umaa.net

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