80年代の華やかなサウンドには仕掛け人がいた?

現在、クイーンを題材にした映画『ボヘミアン・ラプソディ』が社会現象化するほどの人気を獲得するなど、音楽シーンでは「懐古」的な作品の中から、新たなエキサイトメントを見いだす風潮が生まれている。また、ほかにも「昭和」時代の華やかさを振り返るようなムーブメントが、音楽だけにとどまらず、ファッションなど多様なカルチャーからも感じ取ることができるはずだ。
なかでも、最も華やかな「昭和」時代として幅広い世代に注目されているのが、1980年代といえよう。(当時)新進気鋭のドメスティック・デザイナーズ・ブランドに身を包み、高級な外車を乗り回し、夜な夜なディスコやクラブなどで踊りあかし、あらゆるきらめきをまとった人も、LEON世代のなかにはいるのではないだろうか。そんな煌びやかな風景を彩るために欠かせなかったのは、音楽といえよう。特に、この時代はミュージック・ビデオをメインに流す専門TVチャンネルが話題になったり、ラジオや雑誌などいたるメディアで、最先端の洋楽情報が発信されていたことにより、多彩なミュージシャンやジャンルのサウンドが、街に溢れていたような気がする。
エレクトロを融合したポップスの生みの親、トレヴァー・ホーン

79年発表の「ラジオ・スターの悲劇」のヒットで知られるバグルスや、イエスのヴォーカリストを経て、80年代よりプロデューサーとして本格始動したトレヴァー。当時、あまり浸透していなかったシンセサイザーやサンプリングなどの「エレクトロニック」な機材を駆使して制作した楽曲の数々は、それまでの「人間の生演奏」だけで構築してきた音楽スタイルとは一線を画したもので、多くの人に衝撃や「未来」のイメージを与えたのだった。トレヴァーは、当時のことをこう振り返る。
「当初は、いろいろな人や同業のプロデューサーが僕に『オマエ何やってるんだ?』『これは何だ?』っていつも質問されていたのを覚えている。一応ひと通り説明してみるんだけど、みんなちゃんと理解するのに数年かかった。説明するのは結構大変だったよ。以前ロサンゼルスでレニー・クラヴィッツに会ったときに、彼が話してくれたんだけど、最初にイエスの『ロンリー・ハート(Owner of A Lonely Heart)』を聴いたとき、今まで耳にしたことがない曲で、あまりにもびっくりして車を止めたらしいんだ。『何だこれ!?』ってね。とりあえずレコードを買って、僕が一体何をしたかったのか、どうやって作ったのか、何度も聴きこんで自分なりに解釈したらしい。他の人たちにとってみれば、一体何が起こっているのか見当もつかなかったみたい」

「80年代に作られた音楽は、オリジナルから<ほんの一歩だけ遠ざけた>だけというか。ポップ・ミュージックでもみんなちゃんとまだ演奏していた。最近はみんな演奏しない曲が多いよね。レコードも実際に人が演奏した音とテクノロジーによって作られたものが一緒になっていたんだ。時には荒く雑な演奏のものもあったけど、言いたいことをちゃんと伝えることができていた。まだ当時はテクノロジー自体が新しい存在だった。そこでいきなり80年代前半に(テクノロジーの導入と共に)いろいろとコントロールできるようになってきた。テクノロジーを理解している人にとってみれば、今までできなかったことがコントロールできるようになって、音楽を巧みに操ることが可能となった」

その実験的なサウンドは現代のサウンドにも大きな影響を与えた?
彼の手がけたヒット曲が登場して以降、サンプリングを多用したヒップホップ、さらにエレクトロニックをよりディープに追求したサウンドも市民権を獲得するなど、より親しまれる音楽の幅が広がったのではないだろうか。現在ではサブスクリプションなどの登場によって、ジャンルや世代など問わずにそれぞれが「いい」と思った音楽を聴くことがスタンダードになっている状況。そのきっかけを、彼の手がけた音楽が与えたと言って過言ではないのかもしれない。
時代は「昭和」から「平成」そして間もなく「新年号」へと移り変わっていく状況。トレヴァーは現在も、そのクリエイティビティを止めることはない。最新作『トレヴァー・ホーン リイマジンズ 〜 ザ・エイティーズ・フィーチャリング・ザ・サーム・オーケストラ』では、彼が80年代に手がけた名曲の数々を中心に、壮大なオーケストラ・サウンドと、ロビー・ウィリアムズやオール・セインツなど豪華なヴォーカリストを迎えて再構築した内容になっている。

オリジナルの持っている「輝き」を大切にしながらも、当時では感じられなかった美しい「旋律」なども感じられる内容。時代を超えて愛される「名曲」とは何か? が改めてわかる内容になっている。つまり、「あの頃」が蘇ると同時に、時を経て生まれる「旨味」や「深み」も堪能できる、とても贅沢な内容だ。

● トレヴァー・ホーンの名曲がオーケストラサウンドでリメイク
『トレヴァー・ホーン リイマジンズ ~ ザ・エイティーズ・フィーチャリング・ザ・サーム・オーケストラ』
トレヴァー・ホーン(ユーマ)3000円(CD2枚組) 発売中
・ 収録曲より
「ルール・ザ・ワールド(オリジナル:ティアーズ・フォー・フィアーズ)」
ヴォーカリスト:ロビー・ウィリアムズ
https://youtu.be/rCOs75JHlIU
収録曲などの詳細はレーベルサイトをチェック
http://www.umaa.net