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2018.09.20

嫁入り前の娘が満月の晩にしてはいけないコトって本当は……。

日本には月に関する不思議な言い伝えが数多く残っています。古代の日本人は月に何を見たのでしょう? 民俗学者の新谷尚紀氏に教えていただきました。

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文/木村千鶴 監修/新谷尚紀(國學院大學教授)

「嫁入り前の娘は月見団子を食べてはいけない」

突然ですが、月見に欠かせない月見団子にこんな言い伝えがあるのをご存知ですか? こればかりではなく、月に関する言い伝えは数多く残っています。そもそも明治6(1873)年の改暦まで、日本人は月の運行に基づいた「太陰太陽暦」で生活をしていました(実は、まだ150年も経っていません!)。つまり今よりもずっと月と密接なつながりをもって生きてきたのです。「秋の月見」の習慣もそのひとつ。

「現在では不可解に思える言い伝えにも、古えの日本人の考え方が息づいているのです」と語るのは民俗学者の新谷尚紀教授。今年の中秋の名月もすでに目前。日本人が月をどうとらえ、月とどう付き合ってきたかを知ると、月見はより感慨深いものになるはずですよ。

まずは月見のおさらいを

「現在、月見といえば十五夜をイメージする方が多いでしょう。しかし、日本古来の月見は、十五夜の中秋の名月(旧暦8月15日)と、月遅れの十三夜(旧暦9月13日)に行われるのが一般的でした。秋の澄み切った空にひときわ美しく映った月を眺めるというわけです。月見が文献に現れるのは平安時代の頃からで、中国の“観月の宴”が日本の貴族に伝わったとも言われています」

ただし、日本各地の月見の風習を見てみると、中国とは源流が違うと思われるもの、つまり、日本のオリジナルがいくつか見られるとのこと。

「月は夜空を見上げれば誰にでも見えるものですから、異国に教わらずともできるのですね。月を鑑賞する習慣は日本では縄文時代からあったと考えられます。そして、月見の原型が呼び名として各地に残っているのです」

芋名月・栗名月の呼び名の意味するものは?

「それが、『芋名月』(=十五夜)と、『豆名月』『栗名月』(=十三夜)。実は、芋・栗・豆は、稲作以前の、この日本列島に住んでいた人たちの主食でした。特に栗は縄文時代にすでに栽培されていた形跡があり、これらは不作にならないので、貴重な食糧となっていたのです。芋や栗が実りを迎える秋は、ちょうど空気も澄んで月も一層美しく見える。そこに収穫物への感謝を捧げたのが原初的な月見でしょう」

先生によると、いまや常識と思える月見団子は新しいものだそう。

「月見団子を供える風習が始まったのは、江戸時代後期から。比較的新しい風習なのです。ただし、お供え物が変われどその意味合いは同じ。月を見るという行為には、鑑賞するという審美的な意味と、収穫の感謝という信仰的な意味とがあるのです」
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その昔、満月は豊かさの象徴だった

「月は満ちるとまん丸になり、しかも黄金に輝いています。欠けてその姿を消しても、時とともにまた満ちる。そんな月の性質に古代の日本人は豊穣性を見たのでしょう。古代の月見は秋の収穫への感謝だけではなく、年の初めに豊作を祈るためにも行われました。そのタイミングは小正月(1月14日頃)。

小正月は、月見のほかにも1年の豊作を祈願する行事がとても多い日。年の初めの満月には最も力が宿るとされていました。その日の祈りを始めとして祈願は季節ごとに行われ、それが毎年繰り返されるのです。何事も“最初が肝心”とよく言いますよね。それは、最初にいい運気を持ち込まないと、1年がダメになってしまうということ。1年の最初の満月がその年の豊作を祈る一番のチャンスだったのです」

ところで、秋の月見はなぜ2回行う?

冒頭で、秋の月見は十五夜と十三夜の2回あったと述べましたが、そのどちらかだけを見る「片月見は縁起が悪い」という言い伝えも残っているのだそう。いったいどういう意味なのでしょうか。

「これは日本独自のもので、一般的には江戸時代の遊里で生まれた験担ぎだと言われています。意中の遊女と十五夜を過ごしたら、月遅れの十三夜もともに過ごさなければ縁起が悪いという意味。つまり、客寄せのため、というのがよくある解釈です」

しかし、この言い伝えにも江戸期以前には違った意味合いがあったのではないか、と新谷先生は言います。

「十五夜と十三夜の真ん中に9月1日という晦日朔(みそかついたち)があります。つまり新月ですね。秋の月見は、この浄闇(清らかな闇)の中に神秘を見る“闇を挟んだ行事”なのです。月を見ているようで、闇を祈っている。

それでは、片月見のタブーとは何か。それはただ満月を鑑賞するのではなく、月の満ち欠けを意識して、そこに巡りまわる1年を投影し、豊穣性を祈らなければいけないということなんです。そういった気持ちが太古の意識の中にあったんじゃないかな、と」

秋の2回の月見は、始まりと終わり、そして闇を挟んで満ち欠けするリズムを1年に見立て、祈りを捧げるもの。先生の解釈はスッと心の中に降りてくるようですね。
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月の満ち欠けと女性のバイオリズムの関係

『尾張名所図会. 前編 巻3 愛智郡』岡田啓 (文園)、野口道直 (梅居) 著、片野東四郎(出版者)。日本武尊が宮簀媛に三種の神器のひとつ・草薙の剣を授けた場面。
さて、今までずっと作物に関する豊穣性について述べてきましたが、豊穣性というのは、女性の豊かさにも通じるのです。それはつまり妊娠と出産に関わるということ。

「古事記の中の一節に、日本武尊(やまとたけるのみこと)と尾張の宮簀媛(みやずひめ)が初夜を迎えたときの話が出てきます。

『さ寝むと吾は思へど汝が著せる襲の襴に月立ちにけり』(抱き合おうと思っていたのに、生理がきてしまってはそれも叶わない)と日本武尊が詠むと、

宮簀媛は『君待ち難に我が服せる襲の襴に月立たなむよ』(待ち遠しかったのです。生理がきてしまいましたが、私は構いませんよ)と詠った、と書かれています」

まさか古事記の中に、そんな赤裸々なハナシがあろうとは……。このエピソードはどのように解釈すれば良いのでしょう。

「民俗学者の折口信夫(しのぶ)先生はこう解釈しています。女性の女神的な、豊かな生産性を祈っていた古代では、生理の始まりを、”月が立った”としています。つまり毎月1日が生理の始まりで、14~15日の満月のときに排卵が重なることになる。満月の晩は”子宝が欲しいなら今ですよ、欲しくないときにはアテンションですよ”ということ。1日(ついたち)=月たちにけり、という意味だと。もちろん、これはある意味での”意味づけ“のようなものなのですが……」

確かに、生理のことを”月のもの”と言いますよね。その由来がまさか月の満ち欠けに関係していたとは! もちろん、すべての女性が満月の夜に排卵を迎えるわけではないでしょうが、月の周期は約29.5日と女性のバイオリズムとだいたい合っています。もしかしたら古代では、月と女性のサイクルは一致していたのかもしれませんね。すると満月がサインとなっていた、というのもうなずけます。
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それでは、月見団子のタブーのワケとは?

実は、ここでやっと冒頭の話につながるのです(笑)。“嫁入り前の娘が月見団子を食べてはいけない”というのは比喩のようなもので、その言葉の裏にはちょっとした意味が隠されています。勘の鋭い方はもしかしたら気付いているかもしれませんね。

「折口先生の解釈から私はこの言い伝えを、”嫁入り前の娘は、今夜は性行為をしてはいけない”という意味だと捉えています。というのは、満月が豊穣(排卵)の日だから。聖なる夜は忌み慎むべきということなのではないかと。排卵と、月見団子と、月の類似連想です。すべて豊かさを連想させる丸いものですからね。子宝は喜ばしいもの、でも、嫁入り前に妊娠するのはやはり問題です。それをほのめかすためにこんな言い伝えができたのでしょう」

満月の晩、新嫁がお尻を叩かれる?

「さて一方で、結婚したのに望んだ子宝に恵まれないのも考えもの。日本各地の村々では、昭和30年代頃まで小正月の晩に男の子たちが新嫁のお尻を叩くという行事がありました。しかも“早く子供を産みなさい”という内容の歌を歌いながら。これも月と女性の豊穣性を重ね合わせた行事なのでした。何も知らないと乱暴な行事に思えますが、昔の人の月への考え方を知ると、女性の懐妊を月に願ったものだと分かりますね」

これらのエピソードから、古代の日本人は月に美しさだけでなく、豊穣性を見ていたことが分かるでしょう。農作物の豊作から新たな命の誕生までを祈りながら、家族や恋人など、大切な人とともに眺めてきた月の光。その光を現在も私たちが大切な誰かと眺められるって、実はとてもロマンティックなことだと思いませんか?

■ 新谷尚紀(しんたに・たかのり)

國學院大學文学部及び大学院教授。国立歴史民俗博物館名誉教授。国立総合研究大学院大学名誉教授。1948年広島県生れ。1977年早稲田大学大学院文学研究科史学専攻博士後期課程単位取得。社会学博士(慶應義塾大学)。主要著書に、『柳田民俗学の継承と発展』2005、『民俗学とは何か』2011、『葬式は誰がするのか』2015(いずれも吉川弘文館)、『伊勢神宮と出雲大社』2009、『伊勢神宮と三種の神器』2013、『氏神さまと鎮守さま』2017(いずれも講談社選書メチエ)、『神道入門』2018(ちくま新書)ほか。

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