2018.07.02
万葉から昭和まで「I LOVE YOUの伝え方」教えます
古代の貴人が詠んだ歌から、漱石、芥川、谷崎のラブレターまで。変化してきた恋愛コミュニケーション術について考えます。
- CREDIT :
文/秋山 都 イラスト/ゴトウイサク

[古代~江戸]歌で交わす互いへの想い
額田王
紫のにほへる妹を憎くあらば人妻故に吾(あれ)恋ひめやも
大海人皇子(天武天皇)
[明治~昭和]文豪たちの恋
「アハヽヽ。さうして其原文は何と云ふのです」
「Pity's akin to love」と美禰子が繰り返した。美しい奇麗な発音であった。
――『三四郎』(新潮文庫)
さらに時が経ち、大正の世へ
文ちゃん
僕は、まだこの海岸で、本を読んだり原稿を書いたりして暮らしてゐます。何時頃うちへ帰るか、それはまだはっきりわかりません。が、うちへ帰ってからは、文ちゃんにこう云う手紙を書く機会がなくなると思いますから、奮発して一つ長いのを書きます。
(中略)
貰ひたい理由はたった一つあるきりです。さうしてその理由は僕は、文ちゃんが好きだと云ふ事です。
(中略)
勿論昔から好きでした。今でも好きです。その外に何も理由はありません。
僕のやってゐる商売は、今の日本で一番金にならない商売です。そのうえ僕自身も碌に金はありません。
ですから生活の程度から云へば、何時までたっても知れたものです。
それから僕は、体も頭もあまり上等に出来上がってゐません。(あたまの方は それでも まだ少しは自信があります)
うちには父、母、叔母と、年寄りが三人ゐます。
それでよければ来て下さい。僕には 文ちゃん自身の口から、かざり気のない返事を聞きたいと思ってゐます。
繰返して書きますが、理由は一つしかありません。僕は文ちゃんが好きです。それでよければ来て下さい。
この1年後、大正6年のラブレターには
手紙も数多く残されており、松子宛てのラブレターにはこんなフェティッシュなものも。
と、古代から昭和までI LOVE YOUの伝え方を早足で振り返りました。手書きがキーボードやタッチパネルになり、歌がポエムや散文になり、絵がLINEスタンプへと進化しても、人が人へ伝えたいことは昔も今も同じなのかもしれません。「あなたが好きです」というピュアな気持ち、もっともっと伝えたいなと思います。
参考図書:
『谷崎潤一郎の恋文』(中央公論新社)
『世紀のラブレター』(新潮新書)