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2021.07.10

1枚15万円! 「葉っぱアート」に心癒されてみませんか?

小さな葉っぱに緻密な切り絵を施す、‟リト@葉っぱ切り絵”というアーティストをご存知だろうか? サラリーマン生活では怒られっぱなしの発達障害による偏った集中力やこだわりを活かすために選んだ道は、アート作品をSNSへ投稿し続けることだった。

CREDIT :

リト@葉っぱ切り絵(葉っぱ切り絵アーティスト)

記事提供/東洋経済ONLINE
今年5月のある日。丸善丸の内本店の入り口に、朝9時の開店前から行列ができていた。並んでいる人の目的はこの日に東京での初作品展を迎えるアーティストの作品。コロナ対策により抽選のうえ整理券が配布され、会場に入れるのは1人ずつだ。そして開店後、1番の整理券を引き当てた女性が、展示された30点の中から選び抜いて購入したのは、全作品の中でもいちばん高額な15万円の作品だった。

展示されている作品はすべて、葉っぱでできたアート。小さなリアルの葉っぱ1枚1枚に、緻密で精巧な切り絵が施されている。リト@葉っぱ切り絵というアーティストの手によるものだ。驚くのは、彼がこの葉っぱ切り絵を始めたのは、2020年のことで、それ以前はサラリーマンだったということだ。なぜ会社勤めをやめてアートの道に入ったのか、なぜ「葉っぱ切り絵」だったのか、初の作品集『葉っぱ切り絵コレクション いつでも君のそばにいる 小さなちいさな優しい世界』を上梓したばかりのリトさんに語ってもらった。
▲ 15万円で販売された葉っぱ切り絵作品。「みんなの夢を乗せて」(写真提供:リト@葉っぱ切り絵)

怒られっぱなしの会社員だった

今は「葉っぱ切り絵アーティスト」を名乗っている僕ですが、もともと美術の勉強をしたり、絵を描くのが得意だったりしたわけではありません。ここにたどり着くまでには、さまざまな模索がありました。

大学を出て就職したフードサービス関連の会社には7年間勤め、その後2回転職。けれどその間、上司にはずっと怒られっぱなしでした。自分では真面目に仕事をしているつもりでも、他の人とリズムが噛み合わないのです。
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▲ 15万円で販売された葉っぱ切り絵作品。「ボクもそのおふとんで寝てみたい」(写真提供:リト@葉っぱ切り絵)
例えば、「マグロを切って」と言われて切っていると「いつまで切っているんだ」と怒られる。「もっと適当でいいんだよ」と言われて適当にしていると「もっとちゃんとやって」と怒られる。

たしかに子どもの頃に母に「要領が悪いんだから」と言われたことはありましたが、学生の頃まではとくに目立った問題がなかったので、いったい自分に何が起きているんだろう、と途方に暮れるばかりでした。

同じように困っている人がいるのではないかと調べていて出合ったのが「ADHD(注意欠陥・多動症)」という言葉です。ADHDの特性と言われる項目をチェックしていくと、ほとんどが自分に当てはまる。

病院に行くとやはりADHDの診断。発達障害の診断を受けて感じたのは、ショックではなく、むしろ安堵でした。これでやっと怒られっぱなしの生活から脱出できる、と退職しました。
▲ 自分に言い聞かせたメッセージのような作品。「焦らなくてもきっと芽は出るよ」(写真提供:リト@葉っぱ切り絵)
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自分の「弱み」で勝負できる場所へ

診断を受けてから、発達障害について書かれた専門書を読んだりしてもみました。そうすると、例えば多すぎる忘れ物を減らすことはできるのですが、それでもゼロにはできない。どんなに自分が頑張っても“普通”の人と同じスタート地点には立てないのだ、ということに気づいたのです。

自分自身がマイナスのスタートになってしまう場所では、プラスを生み出せないのは当然です。かといってもう30代。ここから新たなスキルを身につけて一人前になるのは時間がかかりすぎるし、資金もない。では、自分が最初から持っているもので勝負できる場所に、身を移せばいいのではないか。

自分自身がすでに持っているもの。それはコンプレックスです。ADHDの特性である「過剰な集中力」や「こだわりすぎる」という性質。

“普通”の会社員として生きていくにはデメリットでしかなったこの「弱み」を「強み」に変えられる場所で生きていこう。

そう考えて思い浮かんだのが、アートの道でした。「ひとつのことに集中すると、周りの声も聞こえなくなるくらい没頭しすぎてしまう」という性質は、会社員としては「弱み」でしたが、アート制作には「強み」として生かせるはずだ、という確信があったのです。

生活していかなければいけないけれど、お金も学歴も技術もコネもない。まったくゼロの僕が、アートの道で仕事を見つける方法として選んだのはSNSへの投稿です。いわば就職活動です。「毎日1作品投稿する」と決めて、ボールペンイラストからスクラッチアート、粘土絵付けといろいろチャレンジしてみました。切り絵も、そんな試行錯誤のひとつでした。
▲ 贈られることだけが幸せじゃない。あなたに受け取ってもらえることが嬉しいんだよ。「小さなおくりもの」(『葉っぱ切り絵コレクション いつでも君のそばにいる 小さなちいさな優しい世界』(講談社)より)
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アートの中でもとりわけ細かさが要求される切り絵は、細かい作業に集中し始めると何時間でも没頭し続けられる自分に向いている、という直感がありました。

ところが、「なかなか悪くない作品ができた」と思って投稿してみて気づいたのですが、切り絵世界は、レベルの高い作品が数限りなく溢れているレッドオーシャンでした。一生懸命時間をかけて制作しても、同じような作品が溢れているSNSではあっという間に埋もれて、まったく注目してもらえないのです。

「これだ!」葉っぱアートに出合った瞬間

貯金残高は2万円。いよいよ諦めて仕事を探すしかないのか……と追い詰められたとき、たまたまネット上で目にしたのが、スペインのアーティストによる“leaf art”です。それは、紙ではなく葉っぱの上に、森で動物たちが暮らす繊細な切り絵が施されている作品でした。

「これだ!」と閃いた僕は、翌日には近所の公園で葉っぱを探し、なんとか完成させた葉っぱ切り絵作品第1号を投稿しました。
▲ 2020年1月に完成させた最初の葉っぱ切り絵作品。森の中で植物を育てる心優しいロボットを描いている。(写真提供:リト@葉っぱ切り絵)
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葉っぱ切り絵の最初の投稿から1年半。今までに製作した作品は400を超えていると思います。制作を始めて1年の今年の1月には、福岡の百貨店から声をかけていただき、初の個展を開くことができました。

5月には、念願の作品集も出すことができ、ありがたいことに、多くの企業からのお仕事もいただけるようになりました。ようやく自分の「弱み」を「強み」に変えられる場所を見つけることができたのだと思います。

もちろん最初からうまくいっていたわけではありません。葉っぱ切り絵を始めた当初は、それほど反応がなく、「どうしてだろう」と日々模索していました。

自分が好きな恐竜や不思議な生き物、ウルトラマンといったキャラクターをモチーフにした作品を作ることが多かったのですが、今思い返せば裏には、その切り絵の細かい技術を称賛してもらいたい、という気持ちがあったのだと思います。
▲ 見る人によっては、懐かしい恋愛を思い出したり、コロナ禍でガマンしている映画館デートをまたできることを願ったり。さまざまな読み取り方ができるストーリーが1枚の葉っぱの上に広がる。「思い出の作品をキミともう一度」(写真提供:リト@葉っぱ切り絵)
ある日、極限まで細かさを追求して自信を持って投稿した作品への反応が薄く、自分の「すごいだろう」という自信が打ち砕かれるのを感じました。

そこから、自分の技術を見てもらおうとするのではなく、見てくれる人が幸せな気持ちになれる作品を作ろう、と考えを転換したのです。それに、技術だったらこれから葉っぱ切り絵を始めて僕の上をいく人も出てくるかもしれない。それ以外のところで勝負しなければ、という思いもありました。
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▲ 初期の作品。「毎日の積み重ねが君を大きくする」(『葉っぱ切り絵コレクション いつでも君のそばにいる 小さなちいさな優しい世界』(講談社)より)
気づいたのは、リスやクマ、ウサギといった可愛い動物を登場させると、喜んでくれる人が多い、ということです。動物たちを登場させると、葉っぱの上に、どういうわけだか最初から考えていたわけではないストーリーが生まれ、見てくれた人がまたそこにストーリーを考えてくれる。

そのストーリーに「感動しました」「元気が出ました」「涙が出ました」というコメントがもらえるようになっていきました。これは、単に切り絵の技術を見てもらおう、と思っていたときにはなかった反応でした。

「才能」より「継続」

葉っぱ切り絵を始めた当初から決めていたのは「できる限り毎日投稿する」ということです。朝起きたら葉っぱを探しに行き、下絵を描き、2〜4時間かけて切り絵作業をする。毎日それを繰り返してきました。

さらに、時間をかけるのは、じつは作品のタイトルつけです。できれば状況を説明してしまうタイトルではなく、見た人が、葉っぱの上の物語に想像を膨らませる余地を残したタイトルをつけたい。

なかなか思いつかなくて、2時間くらいかかる日もあります。ようやく思いついたタイトルをつけてSNSに投稿すると、深夜近くになってしまう日も。そして翌日になったらまた下絵描き……という繰り返しです。

何もないゼロだった僕が、今こうしてコンプレックスを「得意」に変えて仕事ができている理由。それは何よりも「才能」より「継続」なのだと思うのです。
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リトさん

ADHDの中でも「多動」の性質がなかったため、大人になるまで自分が発達障害であることに気づかなかったという。(撮影:嶋田礼奈)
Instagram @lito_leafart
Twitter @lito_leafart

(構成:下井香織)

『葉っぱ切り絵コレクション いつでも君のそばにいる 小さなちいさな優しい世界』

★「1枚の葉っぱの上に広がる温かい物語に心癒される」と、世界各国のメディアが絶賛!
★「スッキリ」「ヒルナンデス」(日本テレビ)、「サンデー・ジャポン」「アッコにおまかせ」(TBS)など、TVで話題沸騰!
★個展では作品が即完売! 葉っぱ切り絵アーティスト初の作品集
★見て、読んで、幸せな気持ちになれる1冊

空に透かして撮影された葉っぱ切り絵。その精巧さに驚かされるのですが、それだけでなく、見る人の心を揺さぶり、想像力を喚起する物語が、小さな1枚の葉っぱの上に広がっている……。それが、リトさんの葉っぱ切り絵です。

ほぼ毎日SNSで作品を発表するたびに、リトさんのもとには「優しい世界に癒されます」「見るだけで幸せな気持ちになれます」「明日も頑張ろうという気持ちになります」など、多くのコメントが寄せられます。

落ち込んいるとき。心がモヤモヤするとき。さみしいとき。1枚1枚が絵本作品のような葉っぱ切り絵作品集は、ページをめくるたびに、そこに自分だけの物語を見つけられるはずです。

89作品収録。SNS投稿時はタイトルだけだった作品にもすべて、ストーリーを書き下ろし。

リト流・葉っぱ切り絵のメソッドも収録。

リト@葉っぱ切り絵著 講談社 1430円
※書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

当記事は「東洋経済ONLINE」の提供記事です
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