2021.03.20

グーグルの思惑「検索前の世界」とは?

モノや情報を得るためのネット検索が当たり前の今。そんな“検索”を牽引するグーグルが新たに描いているのは、検索不要の「検索前の世界」だった!

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文/山本康正(DNX Ventures インダストリー パートナー)

記事提供/東洋経済ONLINE
いま私たちは自分が欲しいモノや情報を求め、ネットで検索をします。しかし、検索などする前に欲しいものが提示されたら、どんなに便利でしょうか。

自身がこれまでメイン事業としてきた「検索」自体を不要にし、「検索前」の世界に進出しようとしているのが今のグーグルだ──。そう言うのは、『2025年を制覇する破壊的企業』の著者であり、ビジネスとテクノロジーをつなぐベンチャーキャピタリストである山本康正氏です。グーグルの今後の思惑とは何か。同氏に聞きました。
写真提供/shutterstock

「検索」自体を不要にする今のグーグル

グーグルがわれわれの生活を変えようとしています。それは自身がこれまでメイン事業としてきた「検索」自体を不要にしてしまうことです。

例えば、毎週金曜日の夕方になると、「レストラン」というキーワードを検索するユーザーがいたとします。そしてその傾向を、グーグルはデータとして持っている。その結果、金曜日の夕方にブラウザを立ち上げると、自動でおすすめのレストランをグーグルが紹介してくれる。

技術的に十分可能なサービスであり、このようなサービスこそ「情報を整理して使えるものにする」という、グーグルのミッションそのものでもあると言えます。

また、グーグルは検索以外にも、数多くの事業を手がけてきました。そしてその多くの事業をM&Aで手に入れてきました。「検索前」の世界に進出できるのも、このような複数の事業のシナジーによるものです。

これまでの買収先は200社以上、投資金額は3兆円以上にもなります。特徴的なのは、成長企業を囲い込むようなかたちで買収してきた点です。

例えば2006年に買収したユーチューブ。当時、グーグルもユーチューブと似たような動画サービスを内製していましたが、ユーチューブの成長スピードがあまりに早かったため、買収したほうが得策だと考えたのでしょう。買収金額は日本円でおよそ2000億円。思惑どおり、その後ユーチューブは爆発的に世界に広がっていきました。

アンドロイドを買収したのもインパクトがありました。iPhoneが開発されているとの情報を手に入れたのでしょう。そして、携帯電話市場が拡大するのが見えている中で、このままではアップルに負けてしまうと。そこで、足がかりになる技術・サービスを開発している企業を探し出し、買収したわけです。

初代iPhoneの発売は2007年。グーグルがアンドロイドを買収したのは2005年ですから、先見の明があり、動きも早い。私は2013年から2017年にグーグルに勤務し、ユーチューブ関連のサービスに携わっていたこともあり、このあたりのグーグルのビジネスセンスはまさに肌で感じていました。

検索サービスでも、グーグルは積極的な買収をしかけることで、当時の市場を握っていたヤフーを、3年ほどの後発でしたが追い抜きました。さらには広告出稿サービスのアプライドセマンティクスも買収し、グーグルアドワーズを強化し一気に拡大し、収益化したうえで検索市場のシェアを拡大していきます。

グーグルの近年の動向で目立つのは、クラウド、人工知能まわりの技術開発ならびにさらなる積極的な買収です。2013年に買収したイギリスの人工知能開発会社、ディープマインドは代表例です。

さまざまな事業からビッグデータを集められる体制を築いたグーグルが、次にそれを人工知能に読み込ませ、より個人個人の嗜好に合ったサービスを提供していく、そんな思惑が垣間見えます。

また、人工知能周辺では、自動運転領域にも進出。Waymo(ウェイモ)という子会社を作り、アリゾナ州のフェニックスという都市で、ロボタクシーの実験を進めています。
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GAFAが強いのは“体験”を軸にしているから

こうしたいわゆるGAFAが、業種の壁を簡単に超えていく理由は、彼らはそもそも、ハード、ソフトを意識していないからです。大切にしているのは、ミッション、ビジョンです。

アマゾンでいえば顧客ファーストです。顧客にとって最高に気持ちのよい買い物体験をしてもらうこと。言い換えれば、おもてなしを意識しているとも言えます。

体験が軸になることで、サービスの質が変わっていきます。例えばアマゾンで買い物をしようとします。すると、やけに肉まんを勧めてきました。その人がコンビニで頻繁に肉まんを購入しているとの体験を、アマゾンがデータとして蓄積。レコメンデーションに反映しているからです。

ただあまりにも肉まんばかりおすすめされては、気持ちのよいものではありません。そこで他の行動、体験履歴を同じくデータ化し、ほどよく心地よい、まさに個人に最適化された体験がネット上でも受けられる、いうなれば究極のおもてなしが受けられる世界を考えています。

自分の体験がデータとして扱われることを、不快に感じる人もいることでしょう。しかしデータの提供を受託することで、商品が10%安く購入できるとしたらどうでしょう。そして、データは秘匿性が担保されているとしたら。データの話に関しては後述しますが、多くの人が受け入れるのではないでしょうか。

そしてデータが蓄積されればされるほど、提供されるサービスのおもてなしのレベルが上がっていきます。
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「検索」する前に欲しい情報が表示される未来

一昔前であれば、良質なハードウェアが欲しい。あるいは同じく、高品質なソフトウェアをインストールしたい。コンシューマーが企業に求める価値やニーズはそこでした。しかしこれからの未来では、間違いなく体験になります。

グーグルの動向などを見ていても、体験がこれからのキーワードになることは明白です。 先ほど紹介した「『検索前』の世界への進出」がそれを物語っています。現時点でのグーグルの役割やビジョンは、利用者が打ち込んだ検索キーワードの最適解を、瞬時に的確に表示することです。

しかし2025年の未来では、もう一歩先をいきます。検索する人の属性、これまでの検索履歴などのデータを分析することで、極端に言えば、グーグルを開いた時点で、欲しい情報が表示されている、そんな未来です。

データ活用においては、プライバシーを配慮し個人を特定しない程度で使用することもポイントですが、本書を執筆している最中に、データは1年半分しか取得しない。このようなアナウンスを、グーグルが出しました。

人の好みは移りゆくものですから、現在最高レベルのサービスを提供するには、直近1年半のデータで十分だと判断してのことなのでしょう。

ユーザー側にとっても、このような明確なプレスリリースがあれば、データの提供を拒む人は減るはずです。そして究極のおもてなしをつねに受けられる生活圏に一度身を置くと、あまりの快適さにそこから離れられない。その結果、GAFAはますます存在感を示していくのです。

『2025年を制覇する破壊的企業』

コロナでテクノロジーの進化は10年早まった!

2020年1月、Amazonはアレクサとガソリンスタンドを交信するサービスのデモをテクノロジーの年次祭典CESで発表した。
これまで家の中のものとしか交信しなかったアレクサを屋外と交信させたこの発表は、Amazonが都市全体のデータを取り、ビジネスを広げていこうという意思を示している。
テクノロジーの進化がビジネス、はたまた我々の生活自体を大きく変えることはいうまでもない。
本書は、Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft、Netflix、テスラ、クラウドストライク、ロビンフッド、インポッシブル・フーズ、ショッピファイという、2025年の世界に大きな影響力を持つ世界最先端11社を分析することで、5年後を読み解く未来予測書である。
著者は、「元・米ニューヨーク金融機関×ハーバード大学院理学修士×元グーグル×ベンチャー投資家」というテクノロジーとビジネスをつなぐ稀代の経歴をもつ。ここでのポイントは、ベンチャーキャピタリストが未来予測をするということにある。
テクノロジーに関する未来予測はさまざまな視点から提示されているが、アカデミア、エンジニア、ジャーナリストが行う未来予測には決定的に欠けている点がある。
それは、ベンチャーキャピタリストが行う「どのように投資し、儲けるか」という観点だ。
なぜなら、テクノロジーはその革新性だけではなく、ユーザーに受け入れられなければ、広く普及することはないからだ。

本書は、そんなテクノロジーとビジネスの交差点にいる同氏がファクトベースで2025年の未来を描くものである。

著者/山本康正 SBクリエイティブ 定価990円
※書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

当記事は「東洋経済ONLINE」の提供記事です
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