2017.06.05
「モテる」方法は進化生物学に秘密が? 外見? 性格? それとも?
「刺激」というと男女の恋愛に欠かせない重要な要素だが、なにもヒトだけが刺激にときめくのではない。たとえば、観賞魚のグッピーはオスのお腹にあるオレンジや赤の斑点が、配偶者を探すメスを刺激する。そんな生物学的視点から、「モテ」の秘密へ迫る
- CREDIT :
文/宮竹貴久(進化生物学者)
全ては女性の気を引きたくて
しかし、そもそもなぜグッピーのメスはオレンジ色を好むのだろうか。その答えは餌にある。卵を産みたいグッピーのメスは、餌をより多く食べようとする。そんなメスが反応するのは大好きな餌のオレンジ色だと考えられている。つまり、オレンジ色に刺激を受けるというメスの感覚をオスが利用したというわけだ。
これはセンサリー・バイアス仮説と呼ばれている。メスの「センサー(刺激を検知する仕組み)」に「偏り=バイアス」があって、派手な色や、餌と似た美味しそうな色から受ける刺激に敏感なメスを前に、その刺激を強く誇示するオスがモテるという仕組みである。
いったんこのような感覚的な好みがメスに生じると、オスが発する刺激は世代を超えてどんどん強くなるよう進化し、その刺激を好むというメスの性質もより強くなる方向へと進化する。地球上にじつに色とりどりのファッションをまとった野生生物のオスが棲息するのは、この仕組みのためである。野生の生物界はモテるために頑張ったオスたちで満ち溢れているのだ。

それでもオスたちは努力する
愛の巣であるこのあずま屋作りのポイントは、いかに青い色で巣を飾り付けられるかにかかっている。この鳥のメスは、青色の刺激に惹かれる。森に棲むオスは青い色をした鳥の羽根を、街に棲むオスは青色の洗濯バサミやペットボトルの蓋を必死に運んできては巣のまわりに散りばめてメスにアピールする。
ときにはせっかくちりばめた青い装飾品がライバルのオスに奪われてしまうこともあるけれど、それにも落ち込むことなくオスは再び青い飾りを集めてはメスへのアピールを欠かせない。青だけではなく、黄色や白の飾りが人気になることもあるらしく、ファッションはときによって変わる。

トロント(カナダ)での最近の研究によると、145個より目玉の数が多いときは、メスは目玉の数が多いオスにより惹かれるのだけれど、目玉が144個より少ないときには数は関係なかったそうだ。ちなみにもっとも目玉模様の数が多いオスは169個だった。
これはカナダのクジャクであったが、日本のクジャクでは目玉の数ではなく、オスの鳴き声によってメスの恋心は揺さぶられるようだ。そう。ファッションは、ところによっても変わるのである。
オス、諦めを許されざる者
果たして、野生に生きる彼らから我々が学べることは何であろうか。見た目磨きの重要性?それは確かにそうだ。しかし、「見た目が100%」の野生とは違い、ヒトの世界ではしばしば「見た目が90%」と言われる。ここがヒトの女性の難しいところだ。残りの「10%」は、もしかしたら知性であるかもしれないし、経済力や優しさといったものかもしれない。
ヒトに生まれた我々は見た目に加え10%の何か、より高度の何かを提供できなければ、DNAを残すことができないのだ。それを過酷と呼ぶのは簡単だ。しかし諦めたオスは野生の生物界では生き残ってはいない。過酷な運命を受け入れた上で、男たちにとって常に全力の努力が大切であることを野生のオスたちは教えてくれる。

●宮竹貴久
進化生物学者。岡山大学大学院環境生命科学研究科教授。博士(理学)。著書に『恋するオスが進化する』KADOKAWAメディアファクトリー新書、『「先送り」は生物学的に正しい 究極の生き残る技術』講談社+α新書、など。