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2022.11.26

注目の若手アーティストが語る、アートの楽しみ方

過日開催され、大好評を博した現代アート展『WHAT CAFE × WHYNOT.TOKYO EXHIBITION』。この度、同展に参加した新進気鋭の作家4名による座談会を実施。日本のアート業界の未来を担う面々に、いまの思いを伺いました。

CREDIT :

文/武田一希 写真/品田健人 特別協力/WHAT CAFE

新進気鋭の若手アーティストたちの、アートへの情熱とは?

右上から時計回りに、西村昂祐さん、高屋永遠さん、塙康平さん、小倉正裕氏、山脇紘資さん。
▲ 右上から時計回りに、西村昂祐さん、高屋永遠さん、塙康平さん、山脇紘資さん。
近年、アートへの関心はますます高まるばかり。今やインテリア感覚で作品を購入して自宅に飾るなど、より身近に楽しむ人が増えています。その流れの中で、気鋭の若手アーティストたちも続々と頭角を現しています。

実際に、過日、東京・天王洲のアートギャラリーカフェ「WHAT CAFE」で開催された『WHAT CAFE × WHYNOT.TOKYO EXHIBITION』展では、総勢29名の若手アーティストが参加し、約160点の作品が展示・販売されました。
▲ 東京・天王洲のアートギャラリーカフェ「WHAT CAFE」。
▲ 東京・天王洲のアートギャラリーカフェ「WHAT CAFE」。
そしてこの度、同展に参加した新進気鋭のアーティスト4名による座談会が実現! ご協力いただいたのは、「WHYNOT.TOKYO」を主催し、作家としても活動する高屋永遠さん、今年東京藝術大学大学院に入学したばかりで早くも活躍する西村昂祐さん、学生時代にアートアワード「CAF賞」に入選した塙 康平さん、国内外で展覧会を多数開催する山脇紘資さん

それぞれのステートメントは本記事の最後に記載しますが、いずれも日本のアート業界の未来を担う面々です。アート界でまさに挑戦の只中にいる彼らに、アートへの思いを語っていただきました。
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作者自身が選ぶイチオシの作品とは

── まずはご自身の作品に関して、ご説明ください。今回の展示におけるイチオシ作品も教えていただきたいです。
▲ 高屋永遠さん。
▲ 高屋永遠さん。
時間の流れを滝の水の流れとして落とし込んだ作品。
▲ 時間の流れを滝の水の流れとして落とし込んだ作品。
高屋永遠さん(以下、高屋) 私の作品は、西洋絵画の古典的な技法を自分なりに再解釈しながら、岩絵の具など和の要素を入れたり、色彩にとことんこだわったりと、さまざまなアプローチを織り交ぜています。また私自身、“存在”や“時間”といった概念に関心があるので、それを作品制作を通して探求していて。

これらの作品は静と動、直線と曲線など対極にある要素の共存を試みていて、時空間の経験を滝の水の流れとして落とし込んでいます。自分の関心のあることを詰め込んだという点で、とても気に入っているんです。
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西村昂祐さん
▲ 西村昂祐さん。
西村さんの代表的な技法である転写を用いた作品
▲ 西村さんの代表的な技法である転写を用いた作品。
西村昂祐さん(以下、西村) 僕は歴史上の人物など広く認知されているイメージを、転写の技法を使って複製することを作品の特徴としています。その行為によって、ひとつの情報を変化させていくことに面白みを感じていて。伝言ゲームのようなイメージと言えばわかりやすいでしょうか。

この作品をイチオシに選んだ理由としては、情報が広がった先の変化し果てたイメージをもっとも表現できていると思うからです。
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山脇紘資さん
▲ 山脇紘資さん。
狼の群れは人間社会の縮図と考える山脇さん。人間が作品と対峙する構図が大切であると言います。
▲ 狼の群れは人間社会の縮図と考える山脇さん。人間が作品と対峙する構図が大切であると言います。
山脇紘資さん(以下、山脇) 絵は一般的には鑑賞物ですが、僕の作品は絵の方がこちらを見てきているイメージで。あくまで動物は人間を映し出すための表現方法で、僕が作り出したいのはそれに人間が対峙する構図であって、作品単体では完成しません。

この考えは、山水画に影響を受けていて。あれは山が巨大で人は自然に対してこんなにちっぽけなんだ、ということを表現しているわけですが、それに通じる思いを作品に乗せているんです。

例えば、狼の群れは人間社会の縮図だと思っているのですが、彼らは視線のやりとりが重要なコミュニケーションツール。それって、自分が生きている世界に似ているなぁ、と。さらに見た目も美しいから、多くの人に注目していただいています! なので、僕が選んだというよりも、周りの人が選んでくれたという方が正しいかもしれません。
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塙康平さん
▲ 塙 康平さん。
実在する場所を描いた「見晴らしの丘」(下)
▲ 実在する場所を描いた「見晴らしの丘」(下)。
塙 康平さん(以下、塙) 僕が絵を描き始めたのは物心つく前からでした。僕は小さい頃は学校から帰ると、誰に見せるわけでもなく自分のために絵を描いていたんです。また、美術館や画集で絵を見ることも好きで。そのことが自分にとっての助け、いわば生きる上で救いになっていたんだと思います。今は、自分が作り手として作品を通して誰かにとっての癒しに、図らずもそうなっていたらうれしいです。

今回のイチオシ作品は、「みはらしの丘」という5cm四方の小さな作品です。この丘は実在する場所で、それをモチーフにしています。この作品は、丘に咲く花をひとつひとつ描写するというよりは、実際に足を運んだ時の心情や忘れたくない思い出を降り積もらせていくような意識で描きました。
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「美大生ってカッコいいという気持ちで、絵を描き始めました(笑)」(山脇)

── なるほど。皆さんコンセプトがしっかりしているので、ただ綺麗な作品というだけでなく、じっと見ていると感情を揺さぶられるような気がします。そもそも、絵を描き始めたのは何がきっかけだったのでしょう?

山脇 実は、絵は元々好きじゃなかったんです(笑)。でも勉強が嫌いで、だけど三流大学には行きたくないなって。そこで美大生ってカッコいい、というヨコシマな気持ちで絵を描き始めたんです。やっぱり、モテたいっていう気持ちが僕にもあるので(笑)。
山脇紘資さん
▲ 山脇紘資さん。
高屋 LEONっぽいね(笑)。私は、ロンドン大学ゴールドスミス校出身なのですが、入学には作品の提出とプレゼンがありました。在学中は写真や映像制作をする傍ら、ペインティングをしていたのですが、やっぱり絵を描くことが本当に好きで現在はペインティングを専門に活動しています。

西村 そうなんですか。やっぱり国によってアートに対する価値観というのは大きく違っていますよね。最近では日本独自の価値観を見出そうとするギャラリーが増えたり、イラストレーターをはじめとした他のジャンルからキュレーションしたりすることも多いです。
 確かに。日本の美術館では話してはいけないという風潮がありますが、ドイツで開催されるドクメンタという世界最高峰の国際美術展に行った際、大人はもちろん、小さい子供たちも作品の前で話し合っていたんです。欧米では日常的な風景かもしれないけれど、僕にはすごく素敵に映りました。

アートは人の思想にスパイスを加えるものだと思いますが、自分の解釈を話し合うことで世界観がより広がるのかなぁ、と。その結果、今の自分より少し前に進む気がするんです。自分を進化させることもできるし、相手のことを理解することもできる。日本のアートを楽しむ環境も、そんな風になったらうれしいですね!
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「アートを楽しむ第一歩は、とにかく実物を見てみること」(西村)

西村昂祐さん
▲ 西村昂祐さん。
── 皆さんの熱い思いがひしひしと伝わります。日本でもアート市場が盛り上がってきていますが、世界と比べるとまだまだ差は大きいですよね。アート初心者に対して、その楽しみ方を伝授いただけますか。

西村 初心者の方には、美術館やギャラリーなどに行って、とにかくアートに触れていただきたいです。必ずしも購入する必要はなくて、実物を見るだけでもネットで見るのとは違う感じ取り方ができると思うので。

あと最近は、主に具象化されたアートが盛り上がっていますが、一見しただけでは理解しづらいような作品を作る作家にも注目してほしいです。そういった人たちからしか感じ取れないものもあるので、ぜひいろんな作品を見に行って価値観を広げていただきたいですね。

山脇 なるほど〜! それももちろん理解した上で、僕は逆にアートは買わないとわからないと思います。実際に所有しなければ理解できない部分もあると思いますし、アートに限らず身銭を切った事実が重要だったりするじゃないですか。アートを理解するためにいろんな方法がありますが、自分ごとにすることがやっぱり大切なのかな、と。
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「アートは所有者の思いが加わることで、完成すると思う」(高屋)

高屋 もちろんコレクションしていただけたら大変ありがたいですよね。自分の作品を持っていただいている方の中には、季節で飾る作品を変えたり、子供や孫に引き継ぎたいと考えてくださる方もいらっしゃいます。

自分よりも購入してくれた人の方が作品との付き合いは長くなることを考えると、そこから自分では思いもよらない新しい解釈が生まれることもあると思います。作品は完成しただけで終わりではなく、作品と鑑賞とで成り立つというか。鑑賞者がいて、アートに息吹が生まれることに気付かされます。

その点、今回のグループ展には幅広いお客さんにお越しいただいて、多種多様な価値観を発見できました。初心者だからと遠慮する必要はないと思います。作品をどのように感じ取っていただいてもいいんです。むしろ、思ったことを作家にシェアしてほしいなって。アートは循環し続けるものだと思うので、いろんな人と一緒に関わっていけたらうれしいです!
高屋永遠さん
▲ 高屋永遠さん。
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「街中にあるアートとの出会いも大切に感じてほしい」(塙)

 アートの楽しみ方としては、そうですね……。僕の場合は自分の中にある「何か気になる」ということや、作品との偶然の出会いを大切にしています。「なぜかわからないけど、どうしても気になるな」という展覧会に行くと、そこで思いがけず心を動かされる作品との出会いがあったりします。

また、今回のグループ展では想像以上にたくさんの方に作品を見ていただける機会となりました。作品の設営中に、カフェに来ていた小さな男の子が、僕の作品を見て「これ、きれい!」と言ってくれたことがすごくうれしくて。その子は既に忘れているかもしれないけれど、心の片隅に残ってくれていたらうれしいです。それもやっぱり偶然の出会いですよね。

高屋 とても素敵な考え方だと思います! 作家が生きている場合は、在廊している時に行くなどして、ぜひ会話をしてほしいです。自分の想像し得ないいろんな発見があると思います。それは鑑賞者だけではなく、作家自身にも言えることですね。
塙康平さん
▲ 塙 康平さん。
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アートをコミュニケーションツールとして使えるのが、現代のモテる大人かも?

山脇 高屋さんが言うように、作家の意図していない部分も鑑賞者の思いによって引き出されることで、より作品が美しくなるんですよね。自分はこの作品でこういう意思表明をしているけど、たとえそれとは異なっていても、鑑賞者に何かを感じ取っていただけたらうれしいです。そこに価値があると思うんです。いま、アートは「自己表現から共有へ」「物から場へ」変わってきているのかなって。

高屋 とっても同感! アートは多くの場合、人に見られるものじゃないですか。そして、見えない何かを動かす力がある。決してひとりで完結するものではなくて。それは一種の“コミュニケーション”や“愛”とも言えるのかな、って。そんな観点から深く見てみると、LEONさんの考える “モテ”にもつながっていくのかもしれません。なんか、勝手に締めモードに入ってしまいましたが大丈夫ですか(笑)?

西村 あれっ、もうこんな時間! あまり座談会ってやったことないですが、皆さんとのお話が楽しくて、話し込みすぎちゃいましたね(笑)

── 予定の時間を大幅にオーバーするほど盛り上がった今回の座談会。新世代ならではの思いや楽しみ方は新鮮であり、これまでの常識に捉われることなく、純粋にアートの魅力を多くの人に伝えたいという気持ちが強く伝わってきました。

今後もこの4名の作家からは目が離せません! 改めて、彼らのステートメントは下記にてチェックしてくださいませ。
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高屋永遠(たかや・とわ)

● 高屋永遠(たかや・とわ)

【作品へのステートメント】
私の絵画空間の位相への関心は、「存在とは何か」を問う形而上学的な探究と結びつきながら発展していきました。

絵画空間の中では、何かが「存在する」とした時の個体性や形態が示されるのではなく、その物体または自然現象が感覚器官への作用によって心に生じさせた主観的な性質が多元的に現出していきます。知覚の痕跡を空間の位相として変換することが私の作り出す作品の経験です。

そうして創造された空間は、記号論的な観点においても、透視画法の視点からも、多元的であると言えます。

そこには、過去、現在、そして未来といった区分は存在しません。顔料から作られた不定形の形態と色面とを融合させることで現象的な絵画空間を作り出します。

【プロフィール】
1992年東京都生まれ。ロンドン大学ゴールドスミスを卒業後、現在は東京を拠点に活動。2019年より、美術分野で活動する個人の交流やと連帯を目的にアーティスト・ラン・スペース whynot? をオープン。多拠点のプロジェクトへと発展する形で、継続的に美術を通したコミュニティー形成に取り組む。

西村昂祐(にしむら・こうすけ)

● 西村昂祐(にしむら・こうすけ)

【作品へのステートメント】
画像データを印刷した物に絵具を乗せ、別の支持体に転写する技法で制作しています。この技法によって、ディスプレイに映されていた平滑なイメージをキャンバスや絵具という、明確な質量を持った物に置き換えるのです。

私は、人々に広く認知されているイメージが複製され消費される過程で、様々な形に変化していく社会に、自身の制作を重ねています。

【プロフィール】
1999年兵庫県生まれ。2022年大阪教育大学芸術表現専攻卒業。デカルコマニーという古くからある転写技法を用い、誰もが知る有名キャラクターや 絵画・浮世絵等を表現する。ターナーアワード2019入選。三菱商事アートゲートプログラム2020年度奨学生。

塙 康平(はなわ・こうへい)

● 塙 康平(はなわ・こうへい)

【作品へのステートメント】
何度も見ているはずの景色でも、その日の湿度や季節によって光のあり方が少しずつ違ってきます。

例えば、電車を降りて、高台にある一本道を歩く。そこからいつも見渡せる、遠くにある山の住宅街の明かりは、「見える」というよりも風に乗って私の肌にそっと触れる感じがします。

小さな山々の端にかかる夜空は、低い雲が地上の明かりを反射してふんわりと、どこか妖しげなじれったい色をしている。街灯が反射する、気づかないほど弱い雨粒のような、埃のような光が次々と予測できない動きで流れては闇に消えていく……。

これはほんの一部ですが、それらの景色を見て、感じたことを心に留めて、いつも絵を描き始めます。

【プロフィール】
1991年茨城県生まれ。ドローイングや写真、インスタレーションなどさまざまなメディアを通じて、ロマン的でありながら理性的な詩的空間を作り出す。2013年頃から、鏡面加工された艶のある黒い紙にペンを用いた点描作品を制作するようになる。2019年以降はこの制作に重点を置いている。

山脇紘資(やまわき・こうすけ)

● 山脇紘資(やまわき・こうすけ)

【作品へのステートメント】
“見ることで見つめられ、見つめられることで見える”。動物は、人間にとって古くから使われているもっとも身近な比喩です。ラスコーの壁画に始まり、キャラクターに転用したり、日常会話では「あいつは猿みたいだ」というように、人は人をしばしば動物に例えます。

なので、動物を用いて人を表現することで、より人らしさを広く表すことができるのではないかと思うのです。同時に、僕の作品では、自然の象徴でもある動物を、鑑賞者よりも物理的に大きく描くことが多いです。

これは山水画の“人は自然の中では小さい存在であるとともに、自然の中の一部である”という考えに基づきます。自然は人が掌握できるものではなく、人がその自然という大きな存在に中に入り共存することで初めて生かされるのだと思います。

自然の象徴でもある動物の肖像画を鑑賞者が目の当たりにした際に、鑑賞者は自然という存在と初めて一体化する感覚、いわゆる”生の感覚”が得られるのではないかと思うのです。ですから私は、絵画を鑑賞物(鑑賞者による一方的な鑑賞)というものではなく、実体的にも、心象的にも”鑑賞者を見つめる絵画”として描いています。

鑑賞者と絵画の対等的で精神的な反復運動が生まれる時、その絵画の存在は誰しもが共有できるものとなり、同時に匿名的で普遍的で観る人の個性を映し出す存在、「自分を知る鏡」となるのではないでしょうか。そんな反復運動こそが、私にとっての自然であり、絵画の存在意義なのだと思います。

【プロフィール】
1985年生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科修了。国内外で展覧会を多数開催。2021年には森山大道、五木田智央らが出品するグループ展に参加。翌々年には初のパブリックアートとして北海道日本ハムファイターズの新球場を含めたエリア「HOKKAIDO BALLPARK F VILLAGE」にて作品の常設展示を予定。

■ WHAT CAFE

アート業界の未来を担うアーティストの支援を目的とした芸術文化発信施設。ギャラリーとカフェが融合する800㎡のアート空間で、食事や飲み物を楽しみながらアート作品を鑑賞・購入することができます。

住所/東京都品川区東品川2-1-11
営業時間/11:00〜18:00(不定休)
HP/https://cafe.warehouseofart.org/

■ WHYNOT.TOKYO 

美術家・髙屋永遠の主宰するアートプロジェクト。目黒区に所在したアーティスト・ラン・スペース兼ギャラリー「whynot?」が起源であり、現在は国内外の現代美術のアーティスト、キュレーター、研究者と協働しながら多拠点での展示企画、作品販売、活動紹介を行ないながら、美術を通したコミュニティーの形成に取り組んでいます。

HP/https://whynot.tokyo/

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