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2020.01.06

『スター・ウォーズ』が問いかける永遠の命題「善と悪」の哲学とは?

いよいよ公開となった最新作『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』。このシリーズは壮大なエンタテインメントであるだけでなく、多様な哲学的示唆にも満ちている。フランスで人気の哲学者、ジル・ヴェルヴィッシュの近著『スター・ウォーズ 善と悪の哲学』からその一部分をピックアップする。

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文/ジル・ヴェルヴィッシュ(哲学者)

記事提供/東洋経済ONLINE
シリーズ最新作『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』がいよいよ公開となった。もはや説明不要な世界的人気作品であるこのスター・ウォーズという作品は、壮大なエンタテインメントであるだけでなく、哲学的な観点から見ても非常に示唆に富んだものだ。

そんなスター・ウォーズ作品やジョージ・ルーカスの思想を考察するのが、フランスで人気の哲学者、ジル・ヴェルヴィッシュ。彼の近著『スター・ウォーズ 善と悪の哲学』より、今回は”人間の中にある善と悪“についてピックアップする。

人間は善人か? 悪人か?

沼や森に覆われた惑星・ダゴバでルークが修行中にヨーダは、彼をダークサイドの洞窟に連れてゆき試練を与える。細部はともかく、ちょっと思い出してみてほしい。ヨーダがルークを大木の根元に連れてくる。大木の根がからみあう中に、洞窟の入り口がある。

「そこはフォースのダークサイドが強いのじゃ。悪の領域じゃ。行くがよい」
後はもうご存じだろう。ルークはライトセーバーをもって恐々と洞窟を進み、ダース・ベイダーと対峙する。

ルークがそこで出会ったのは「悪」だったのだろうか。いや違う。ルークが悪の化身の首を切り落とすと、ヘルメットが落ちる。そして壊れたマスクの向こうに現れたのは、ルーク自身の顔だった。

つまり洞窟は、彼の心の内だったのである。彼が向き合うべき相手は自身の暗黒面であった。確かにヨーダはあらかじめ警告していた。そこにお前が見るのは、「自分自身だけ」だろうと。

結局、ルークはこのテストに失敗した。まずライトセーバーを持っていくことで、恐怖心を連れていってしまったのが失敗であり、憎悪に任せて相手を殺そうとしたことも失敗であった。武器も恐怖も捨て、試練に挑むべきであったのだ。

洞窟での闘いは、自分の内にひそむ暗黒面との葛藤を意味する。これは神話にもよく出てくる話だ。テーセウスとミーノータウロスの闘いにしても、怪物の正体は英雄の「暗黒面」にすぎなかった。

「影の面をも人間が持っているということは、何かしら恐ろしいものがある」とスイスの精神科医・心理学者であるカール・ユングは書いている。

フォースの暗黒面はきっとこの考えに発想を得ているのだろう。ユングはまた、人間は善人でも悪人でもない、もしくは1人の人間がよいこともするし、悪いこともすると言っており、これもボバ・フェットやハン・ソロといった「中間的な人間」に通じる。
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悪は心のどこに眠っているのか

では、「暗黒面」とは何だろうか。ユングはこれを人の「影」だとしている。人格の「ネガティブな面」、つまり「隠蔽された不利な性質や、発達の悪い機能や、個人的無意識の総体を指す」というのだ。

この影をスター・ウォーズでは暗黒面と呼んでいるのだが、簡単にいえば意識下に眠る当人も気づいていない性格、あるいはあえて気づかぬふりをしている部分といってもいい。

洞窟のシーンでもわかるように、影とは自分の内なる敵、少なくとも自分にとって受け入れがたい存在、嫌悪している部分を暗示しているのだ。

もちろん誰もが自分は悪ではないと思っているし、それはある意味で間違いではない。自分だけで考えて行動できるという個人レベルでは正しいのである。その限りにおいては、誰もが自分は虫も殺せぬ善人であり、他人に悪いことをするように仕向けられても絶対にしないと思っている。

しかし、人は集まると弱くなる。人が自分で考えるのをやめ、群衆に同化したとき、「そこからはひょっとすると、わけのわからぬことをいう1個の化け物が生まれてくる」とユングは指摘している。

歴史がそれを証明している。ユングは第1次世界大戦の惨劇を思い浮かべながらこう記したのだろう。ジョージ・ルーカスもまた、第2次世界大戦のことを念頭に置いていたに違いない。悪は私たちの中に眠っており、ちょっとしたことで呼び起こされてしまうのだ。

さて、悪は心のどこに眠っているのだろう。
ユングによると、影の部分は肉体からくるという。この点で彼の考え方はマニ教(※古代ペルシャ発祥の宗教派。悪者は悪者らしく、善人は善人らしく、白黒をつけたがる二元論が特徴)に近い。

肉体は性欲や死への欲求など、本能に従う動物に例えられている。頭ではよい悪いを考えていても、肉体は動物であり、本能的に行動してしまうというのだ。

そしてこの動物的な部分を否認したり、無理に抑圧したりすることは避けるべきだとユングは説く。
「われわれはそういう影の部分を抜きにしてはまとまりのある全体を成していることができない」
そもそも自分ときちんと向き合わないからこそ、私たちは無意識界の「闇」に沈んでしまうのだ。
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誰にでもダークサイドは存在する

『ジェダイの帰還』でデス・スターに向かって出発するとき、ルークは自分なら父を救えると信じていた。だがダークサイドから父を救い出すことは、父自身から父を救うことである。

「父さんの中に善の心を感じる。葛藤があるんだ」とルークは言う。それに対してダース・ベイダーは答える。「葛藤などない」。
ユングによると、これはいわゆる悪人に特徴的なことであるらしい。「自分たちには心の影の面などないといって自慢するような患者がいる。自分の心の中には葛藤などないと断言する患者がいる」というのだ。

善人とは暗黒面がない人をいうのではない。誰にでも暗黒面は存在する。むしろ自分の中に悪があることを自覚しているのが善人であり、自分の中の悪を認めようとしないのが悪人なのだ。

完全な善、完全な悪を求めることが悪を生んでいる。自身が絶対に正しいと思い込み、他者を絶対悪とみなすのは宗教に限らず、何かを狂信する人や原理主義者に特徴的な行為である。

人は自分が正義を守る正しい存在だと信じることで、何をしても許されると思ってしまう。目的が正しければ手段は問われない、大義のためなら犯罪も許されるという考え方だ。

世界を敵に回すよりも、まずは自分の中の暗い部分、自分の欠点を認めるほうがいい。
ユングもこう言っている。
「人間が自分の本性の裏側をはっきりと見ることを学び知るようになると、それによって人間は周囲の人々をもよりよく理解し愛することを会得するようになるだろう」

「スター・ウォーズ 善と悪の哲学」

かんき出版刊 本体1600円+税
https://kanki-pub.co.jp/pub/book/details/9784761274603

著者/ジル・ヴェルヴィッシュ
1974年、フランスのルーアン生まれ。ポップ・カルチャーをもとに哲学を語ることを得意とする。高校で哲学を教える傍ら、ラジオやテレビなどメディア出演も多い。

当記事は「東洋経済ONLINE」の提供記事です

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