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2019.10.22

【検証】100%の暗闇で知らない男女が急速に仲良くなるワケは?

「照度ゼロの漆黒の闇」に置かれた時、人はどんな感覚に陥るのか? 闇のもつ不思議な力を体験できる『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』をご紹介します。暗闇による刺激がアナタの人生を変えるかも⁉

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文/木村千鶴

目が慣れたとしても何一つ見えない真の“暗闇”をアナタは体験したことがありますか? 自然に暮らしている中では、「照度ゼロの漆黒の闇」というのはほとんど経験する機会がありませんが、その中では視覚を奪われることで他の感覚が研ぎ澄まされ、さまざまな気づきが得られるといいます。

闇をマイナスではなくプラスに捉えて活用しようという試み

人類にとって夜の闇は動物など外敵からの攻撃にさらされる危険の象徴であり、人はその教えを恐怖という感情に刻んできました。しかし火を起こし、灯りを得ることで闇の危険から解放され、人類は文明を飛躍的に発達させることができました。

それでもなお、意識の奥底で暗闇は恐怖の対象であり、闇のもつイメージは善ではなく悪。シスの暗黒卿ダース・ベイダーの全身真っ黒な姿がそれを象徴していますよね。

しかし最近は「暗闇レストラン」や「暗闇フィットネス」など闇の効果をプラスに利用した試みも注目されています。闇が日常から消えてしまった今だからこそ、改めて闇に注目し、これを活用していこうというトレンドが生まれているようです。

そんななか、1988年にドイツでスタートした『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』は、100%の暗闇を人工的に作り、その中でさまざまな体験をすることを目的としたソーシャル・エンタテインメント施設です。

これまで世界41か国以上で開催され、800万人を超える人が体験。日本では1999年に初開催されました。そして今秋11月、新たなプログラムを以て、『三井ガーデンホテル神宮外苑の杜プレミア』内に新規オープンしました。

この中をアテンドするのはトレーニングを積んだ視覚障碍者。光に頼らず生活をする彼らにとっては、照度ゼロの暗闇空間は日常です。彼らにサポートしてもらいながら、仲間同士、あるいは知らない者同士、見えない森や、清らかな水が流れる暗闇の中を歩き、遊び、マインドフルネスを使って心と体をととのえるのが目的です。
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純度100%の暗闇空間の中で感じる3つのこと

ではこのプログラムを体験することで、人にどんなことが起こるのでしょうか。ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパンの代表である、志村真介さんに話を伺いました。

「自分に起こる変化は、大きく分けて3つ。まず目以外の感覚の豊かさに気づくこと。『暗闇』という漢字にはどちらも音という漢字が入っていますよね。暗闇では特に音に敏感になり、他の五感も研ぎ澄まされます」(志村さん、以下同)

何も見えない状態の時、外的要因で大きく頼りになるのは音と触覚。中ではアテンド(案内人)も体験者も声を出し合い、触れ合いながらさまざまなアクティビティを行います。同じ状況を共有すると、まったく知らない人同士でも何だか仲間意識のようなものが生まれるといいます。

「普段の出会いなら名刺交換などをして『どこの会社の誰さん』として話しますよね。でも暗闇の中で話す感覚は全然違うものです。見えているが故に区別してしまっていることとか、固定観念や既成概念がリセットされる。すると知らない人同士、短時間で仲良くなれるんですね。不思議です」

お互いに相手が見えないことで余計な先入観から解放され心がフラットになるのだそう。

「2つ目は価値観の逆転が起こること。視覚障害のある、これまで弱いと思っていた人が、こんなに頼もしい存在だということがわかります」

暗闇ではシンプルに立場がニュートラルになります。その中で視覚障碍者の人は先輩。経験値の高い、とても頼りになる存在となります。施設の中では全員が白杖を使うことになりますが、またその白杖も心強いパートナーとなります。

「3つ目は触ったものの記憶ですね。目では何も見ていないんだけど、こんなにも自分の中で記憶してるんだ、ということがわかると思います」

いつも手にしているものでも、目で見えているものの感触は、印象的なものを除いてざっくりとした記憶にしか残らないことがほとんど。ですが、暗闇の中で触るものについては触覚以外の情報がほとんどなく、まさに手探りで確かめるので、強く印象に残るのです。
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視覚障碍者は物事を三次元で立体的に情報把握する

暗闇に入ると、普段何気なくしていることが新しい体験となり、いつもとまったく違う感覚が生まれてきます。実際に暗闇を体験することで感覚はどのような刺激を受けるのでしょう?

「通常私たちは二次元の媒体を目にしているから、認識が平面です。例えば富士山をイメージすると北斎の絵のような感じになる。でも視覚障碍者は円錐の、立体的なイメージになるんです。二次元での情報がないので、感覚がリアル。暗闇では、普段の視覚情報に変換して理解するというプロセスがいったん解かれるんですよね」

これまでもっていた当たり前の概念が一度リセットされる感覚でしょうか。でもどちらの感覚が本物かという問題ではなく、両方ともリアル。立つ場所によって見えるものが違ってくるということを知ることが重要なのです。

「目を使っていると表と裏という固定した概念があるけど、視覚を使わなければ、触り始めたところが最初の出発点というだけ。皮膚もそうですよね。表と裏はつながっていて、頬と口の中には連続性がある。どこから中とか明確ではないんです。でもみんな、ここが表という共通認識をもっている。そこからはイノベーションは起こらない。このプログラムを体験することによって、自分の物差しや物の考え、見え方が刺激されます。すると日常にも大きく刺激され、変化が起こるんです」
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暗闇って温かい、人っていいなって思えるような仕掛けがある

では、なぜ暗闇では人にそのような変化が起こるのでしょう?

「普段目から入る情報は視覚野で処理するのですが、目から入る情報は莫大です。脳科学者曰く、暗闇ではそれをしない分、脳内のCPUに空きができ、そのうちにほかの感覚をそこで処理をし始めるそうです。だから色んな能力が高まる感覚があるんでしょうね。これに加え、それまでは『自分』を主語とした考え方だったものが、脳の容量が大きくなると、相手にとってどうしたらいいかを考え、楽しませ、ケアしてあげるという部分が出てくるようです」

それは脳のスペックが1段階上がって自分の意識が拡張するような感覚とでも言えそう。そして、そんな新たな自分に出会うには、安心して暗闇に身を置ける環境が重要です。そのために必要なのがアテンドの存在。

「アテンドがホールドした空間の中だからこそ、まったく知らない人同士でも安心して入れるんです。ここはお茶室のようなもの。刀を置いて位を外し、躙り口から頭を下げて入る。茶室の中ではどんな身分の人も平等に、お茶の心やその宇宙観を楽しむ。これは一つの作法です」

「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」は暗闇体験(イン・ザ・ダーク)にだけ注目されることが多いのですが、基本テーマはダイアログ、つまり対話を大切にしたプログラムです。暗闇体験は自分の内面との対話とともに垣根を越えて他人と語り合うための装置でもあるのです。

「立場をひっくり返すことによって、ものの見方が変わります。暗闇から出てきた時には少し違うところの感覚が養われている。時には目を瞑り、相手の話を聞いてみようという気持ちが生まれます。このプログラムには、暗闇って温かい、人っていいなって思えるような仕掛けがあるのです」

通常の生活で刺激といえば外から受けるものがほとんど。でも、このプログラムでは、実は一番の刺激は最も身近な「自分の中」にあるということに気づかせてくれる。暗闇の力ってやっぱりすごいのです。

■ ダイアログ・イン・ザ・ダーク

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