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2019.06.30

そこのアナタ、自分の怒りをうまくコントロールできてますか?

職場においてすぐブチ切れるような上司は論外だけれど、必要な時に部下を叱れない上司もまた困りもの。いまや怒りの感情を上手にコントロールするのは大切なビジネススキルのひとつなのです。日本アンガーマネジメント協会の安藤俊介さんに話を伺いました。

CREDIT :

文/井上真規子

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オヤジの皆さま、職場で部下や後輩を叱りつけたり、大声で怒鳴ったりしていませんか? 逆に、ここぞの場面で怒ることができず、つい甘い態度をとってしまう人もいるのでは?

どちらにしても、「またやってしまった……」と後悔する場合が多いのではないでしょうか。
実はすぐに怒ってしまうことも、きちんと怒れないことも“怒り”をうまくコントロールできていない証拠なのです。

アメリカのビジネスシーンでは、感情をコントロールできない人間は幼稚でリーダーの素質がないとみなされることはよく知られた事実。もちろん日本でも、やたら怒りっぽいオヤジがモテるはずはありません。

こうした社会的背景のなかで、怒りをコントロールするためのメソッド法「アンガーマネジメント」が世界で浸透しつつあります。この「アンガーマネジメント」とは、どのようなもので、どういう効果があるのでしょうか。アメリカからアンガーマネジメントを導入した、日本アンガーマネジメント協会の安藤俊介さんにお話を伺いました。
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怒りっぽいアメリカ人が生んだ、メソッド

「アンガーマネジメントは、1970年代に米国の西海岸で自然発生的に生まれました。はじめは米国の犯罪者の矯正プログラムとして利用されていましたが、次第にビジネスシーンでも重要視されるようになり、一般的な訓練法としてアメリカで広く使われるようになったのです」

アメリカ社会は、日本よりも建前を大事にする傾向が強い、と安藤さん。喫煙者や肥満の人が“自己管理のできないだらしない人間”とみなされ、出世枠から外されてしまうのがわかりやすい例です。そして、感情のコントロールができない人間も同様の評価を受けるのだとか。

「アメリカ人はもともと、非常に怒りっぽい人たちです。一方で、セクハラ、パワハラで訴訟が起きるなんてことも日常茶飯事。もし訴えられて賠償金を支払うことになれば、会社そのものが潰れてしまうケースも少なくありません。だからこそ、怒りをコントロールするためにこのメソッドが広まっていったのだと思います。スティーブ・ジョブズは厳しく怒ることで有名でしたが、才能があった人間だから通用したことで、一般的には難しいでしょうね」

アンガーマネジメントは、日本にも10年以上前に導入されており、現在は企業の人材育成や管理職研修などにも取り入れられるほど必要不可欠なメソッドとなりつつあるそう。

そもそも、怒りとはなんなのか?

「実は私自身、短気な性格をどうにかしたいと長年悩んできました。特に仕事で人と衝突することが多く、物事がスムーズに進むことがほとんどなかったんです。それが、ちょうどアメリカに駐在していた頃に、アンガーマネジメントの存在を知り、学び始めました」

すでに10年以上アンガーマネジメントの訓練を積んできた安藤さんは、以前ならいちいちイラついていた細かいことが気にならなくなり、自分自身もすごく楽になったそう。

「アンガーマネジメントでは、まず怒りの感情の正体を理解してもらいます。これを知るだけで意識が変わります。怒りとは、防衛感情の表れ。身の危険を察知する信号のようなもので、危険が迫っていると感じたら咄嗟に怒りを発して危険を遠ざけようとします。生きて行く上ではとても大切な感情なんですね。怒りは悪いものと捉えられがちですが、決してそんなことはないのです」

例えば、相手に怒りをぶつけられたら、それは相手があなたやあなたの行動に対して身の危険を感じ、防御体制をとったということ。怒りの正体を知っていれば、“いきなり”怒られた!ではなく、自分が実はその前に先制攻撃をしかけていたことに気付けるようになるのです。

「怒りとは、言い換えれば相手へのリクエストです。あなたのここが嫌、変えてほしい、と相手に伝えることが本来の目的。そのために、自分の怒りと向き合ってコントールし、それを相手にぶつけるのではなく、冷静かつ具体的なメッセージとして伝えることが重要になるのです」
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怒りを引き起こす“コアビリーフ”とは?

では、現代人が怒りとして感じる「身の危険」とはどういうものでしょうか。

「私たちのなかには、“コアビリーフ”と呼ばれる信念のようなものがあります。こうあるべき、という物事に対する尺度のようなものです。人は普段、このコアビリーフに基づいて行動しています。このコアビリーフは人によって違っていて、これが裏切られた時に人は怒りを感じます」

例えば、仕事にはこういう服を着るべき、新人は朝早く出社すべき……といったコアビリーフに反したことが起きると、怒りの感情となったりします。人はこのコアビリーフの許容度が狭いほど怒りやすく、広いほど怒りにくくなります。

「もし、コーヒーはブラックで飲むべき、と考える人が2人いるとします。しかし1人は、砂糖もミルクも一切入れるべきではないと考え、1人はどちらかなら入れてもよいと考える場合、2人の許容度は大きく異なっていることがわかります。この許容度は、経験や環境に影響されて広がることもあれば、狭まることもあります。もちろん、コアビリーフそのものが変化していくことも。

例えば前者が美味しい砂糖入りブラックに出合い、砂糖なら入れてもいいと考えるようになった場合、許容度は広まったことになります。あまりの感激に、ブラック限定だったコアビリーフがカフェラテも美味しいと一変するかもしれません。

コアビリーフはこうした外的環境に大きく左右されますが、意識的に自分で変えていくことも可能です。なかなか怒りをコントロールできないという人は、まず自分のコアビリーフを自覚し、許容度を徐々に広げていく訓練をしていくことになります」
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怒りをコントロールするための、明快な考え方

アンガーマネジメントでは、怒りを感じたら、まずは怒りを抑える練習を行います。

「反射的に怒ってしまうという人も多いかもしれませんが、怒りをコントロールする第一歩として、怒りの感情に反射しないということが大切です。これが衝動のコントロールです。怒りを感じたら、まず6秒待つこと。

そして衝動的な怒りを抑えることができたら、次にそれが自分の“怒りレベル”のどれくらいに位置するかを客観的に捉えます。具体的には、0~10(0=穏やかな状態、10=人生で感じた最も強い怒り)でどの程度なのか、点数をつけます。

怒りがコントロールできない理由は、そもそも自分のいま感じている怒りのレベルがわからずに、毎回全力で怒ってしまうため。実は怒りの度合いって、意外と低いレベルの場合が多いのです」

こうした自分の怒りの状況を把握するためにアンガー・ログ(怒りの記録)をつけることも大切なのだそう。

「優秀なスポーツ選手は、練習する際に、工夫した内容と過程を記録しておくためのノートを持っています。アンガーマネジメントも同じで、怒りをコントロールする練習と考え、自分の怒りの度合いや抑えた過程などを記していくことで、その反省を生かしながら上達することができるようになるのです。怒りが強い人でも、根気強く繰り返すことで、必ずコントロールできるようになっていきます」

きちんとリクエストを相手に伝えるために

そして一旦冷静になったら、次はその怒りの原因となった感情や思いを相手に伝えるべきかどうかを判断します。

「基準は、もし自分が超ご機嫌だった時にも、その相手に怒りをぶつけるかどうかを考えてみるとよいでしょう。ご機嫌な時なら怒らずにいられるな、相手を許容できるなと思ったら怒りを外に出さないようにします。徐々にそうした訓練を繰り返していくと、広げた輪ゴムがゆるくなるように、次第にコアビリーフの許容度も広がっていきます」

人は機嫌が悪い時に、許容度が狭まる傾向があります。しかし機嫌によって怒ったり、怒らなかったりすることは避けるべき、と安藤さん。

「対する相手は、同じことで怒ったり、怒られなかったりすると、本当はこの人は何で怒っているのかわからなくなってくる。それではリクエストは確実に伝わりません。自分の中のルールを決めて、これは機嫌が良くても許容できないと確信した時にだけ、傷つけることなく要望を伝えるのです。

何度怒っても、わかってくれないというのは、自分の伝え方に問題があると思ってください。感情に任せて怒って主張をしても、相手には理解してもらえず、聞きたくないと思われることもあるでしょう。怒りに支配されてしまうと、必要なことも伝えられず、怒りそのものに振り回されて自らもベストパフォーマンスを発揮できなくなっていくのです」
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怒れない日本人が急増中!?

一方で、怒れないという悩みを抱える人も増えているようです。

「いまの20代は、怒られ慣れていないので、叱責すると逆ギレしたり、必要以上に傷ついてしまうことも。これまでの怒り方が通用しなくなっているため、40~50代の上司層が部下に対してうまく怒ることができなくなっています。企業で役員研修を行う際にも、課長クラスから叱り方を教えて欲しいという要望が多いですね」

実は、アンガーマネジメントのプログラムは、アメリカと日本で大きく異なるのだそう。アメリカでは直情的に怒る人のためのプログラムが主流だが、日本では徐々に怒りや感情を溜め込む人のためのプログラムとして変化してきたのだとか。

「もちろん日本人でも直情的に強く怒る人はいますが、全体の割合としてはさほど多くありません。特にいまのアラフィフ世代は、怒れない人が増えているといえるでしょう。家庭でも段々親が子供を怒らなくなっているため、その子供たちも怒られ方、正しい怒り方がわからないまま大人になってしまうのです。ここ20~30年は褒める文化の真っ只中で、その揺り戻しがきているのかもしれませんね」

一方、SNSなどで匿名のまま激しく相手を誹謗中傷したり、怒りをぶつけたりする人が増えています。普段溜め込んでいる不平不満や憎悪を、ネット上でしか発散できないこれらの人々も怒りをコントロール出来ていない人々。

「ある大学の研究で、誰がSNSを炎上させているかを追跡調査すると、大半が30代後半の課長クラスだったそう。意外すぎる事実ですよね。また、怒りが表に出てこないけれど、怒りを強く感じている人もいます。これも、怒りの感情に振り回されている事には変わりありません。怒れない人もアンガーマネジメントで、上手にリクエストとして感情を伝えていくことができれば、きっと楽になるはずです」

LEON読者世代は、最も幸福度を感じにくい年齢?

いつも怒っている人は、どこか不幸そうに見えるもの。不幸だから怒るのか、怒るから不幸なのか。どちらが先かはわかりませんが、怒りは人の幸福度にも影響を与えているといいます。

「怒りが発露しやすい人も、発露しづらい人も、感じている幸福度は様々です。ただ、幸福度が低い人ほど怒りを感じやすいのは確かでしょう」

実はLEON読者世代の40~50代が、もっとも幸福度を感じにくい世代なのだとか。

「幸福のU字曲線というデータがあるのですが、人は若い頃は幸せで、中高年になってくるとだんだん幸福度が下がり、高年になると幸せ度はまたあがってくる傾向があります。40~50代の幸福度が低いのは、家庭、仕事、プライベートすべてにおいて、自分の人生の限界が見えるからでしょう」

人生で、怒りをコントロールできてきた人とそうでない人は、お金、友達、幸せ、いろんなものに差が出てくると安藤さん。

「もちろん、怒りをコントロールできない男性は女性にもモテないでしょう。恋愛や結婚で生じる異性に対する怒りや齟齬は、人生の価値観に関する問題で発生します。夫婦の離婚理由は、大半が価値観の不一致。これは互いの価値観の違いを認めず、一緒であるべきという考えを押し付けるから。最初は恋愛モードで気づかないけれど、後で冷静になった時に、価値観が合っていないと気づくのです」

人は皆、価値観が違うのは当たり前であり、それを認めて受け止めることが大切なのだと安藤さん。

「特に歳をとって頭が硬くなってくると、自分のコア・ビリーフに固執して怒りっぽいオヤジになってしまう人が増えます。相手の女性が若いと世代も違うし、ますます価値観は異なってきます。それを受け止める余裕のある大人なら、いくつになってもモテるんじゃないでしょうか」
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● 安藤俊介(あんどうしゅんすけ)

一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事。アンガーマネジメントコンサルタント。企業、教育現場にあるの第一人者。アンガーマネジメントの理論、技術をアメリカから導入し日本の考え方、慣習、文化に合うようにローカライズする。教育現場から企業まで幅広く講演、企業研修、セミナー、コーチングなどを行っている。

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