2019.05.18
【第3回:嘘】
人を傷つけない、いい嘘をつけるのが大人なんです
怒涛の昭和~平成を生き抜いてきた梅沢富美男さんが考える「男の生き方、身の処し方」とは? 常に一本芯の通った、炎上を恐れぬ本音コメントは世の迷えるオヤジ&コヤジのバイブルですぞ!
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構成/紺野美紀 写真/内田裕介 イラスト/ゴトウイサク

初めてのデートで自分をさらけ出すバカはいないだろう? 前にも言ったけどさ、「役者は見てきたように嘘をつき」って。相手の話にうまく乗るんだよ。もし、彼女が「フランス料理が好きなんです」って言った時には、実は和食が好きでも「僕も好きです」って言っちゃえばいいの。
もっと仲良くなって「実は……」って言った時に笑い話になるような嘘は、どんどんつけばいいと思うね。少なくともその方が、恋愛はうまくいくよ。
よく夫婦の間でも「嘘だけは許せない」とか「隠し事のない関係を」とか言うけどさ、俺なんてしょっちゅう嘘言ってるよ。俺の場合、嘘と言うより少し話を盛っちゃうクセがあるんだけどね(笑)。
女房も「人間なんて隠し事があって当たり前。詮索しない方がいいこともある」って言ってる。とは言っても、俺の嘘は女房には全部バレてる気がするけどな。ただ、気付かないフリをしてくれてる(笑)。それも優しい嘘だよな。
嘘をついた後は、いい嘘になるようにフォローしろ
ご祝儀をくれたお客さんから食事に誘われることなんてしょっちゅう。でも若い女性と中年女性のふたりから誘われた時が困るんだよ。筋としてはご祝儀の高い方に行かなきゃならない。でも俺も若かったから若い方に行きたい。で、時には、嘘ついて、そっちに行っちゃったりね。正直、そんなことも全部面倒くさくなって舞台をやめようと思ったこともあるくらい。
そんな時、おふくろは「嘘をついた後には、必ずフォローしなさい。良い嘘になるように誠心誠意尽くしなさい」って言ってたよ。もちろん、そんなフォローったって、若いうちは出来ないよな。
俺だって、たくさん失敗もしたし、人を傷つけたこともあった。でも、そうやって経験を積むことで、人を傷つけない良い嘘がつけるようになっていくんだよ。それが大人の男ってもんだと思うね。

「カラスは白」って言われても、いったんは白ってことにしておけ
一見、頭ごなしに聞こえるかもしれないけど、これは社会人として大事なことだと思う。例えば、会社で上司が間違った意見を言った時に、みんなの前で「それは間違ってます」って言ったらどうなる? 「お前の言う通りだ。指摘してくれてありがとう」なんて言ってくれると思うか? んなわけないよな。
上の者は自分が発した言葉を否定されると、か~っと頭に血が上るんだよ。そうすると、それが正しいか間違ってるかなんて関係なく「なんなんだ、お前!」ってなるのよ。
だから、みんなの前では一回「はい、分かりました」って言うの。で、後でふたりきりのときに「僕はこう思うんですけど」って言えば「そうかもしれないな」って案外素直に聞いてくれるものなんだよ。
上の者が「カラスは白」って言ったら、まずいったんは白ってことにしておけ(笑)。そういう風に上手に嘘がつけるようになることが社会人として大事なことだと俺は思うよ。

● 梅沢富美男(うめざわ・とみお)
1950年11月9日、福島県福島市生まれ。血液型B型。俳優・歌手・タレント。剣劇一座「梅沢劇団」の創設者で大衆演劇のスターだった梅沢清と娘歌舞伎出身の竹沢龍千代の5男として生まれ、1歳5か月で初舞台。15歳で本格的に役者の道へ。1976年、女形に転向し「下町の玉三郎」として大ブレイク。1982年には『夢芝居』で歌手デビューし50万枚を超えるヒットに。現在は「梅沢劇団」三代目座長として年間180日舞台に立つ傍ら、テレビにも数多く出演。バラエティや情報番組での歯に衣着せぬ直言コメントで人気を得ている。