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2022.01.30

【vol.15】江戸前鮨/前編

一流の江戸前鮨を食べる前に知っておきたいこと

いい大人になってお付き合いの幅も広がると、意外と和の素養が試される機会が多くなるものです。モテる男には和のたしなみも大切だと、最近ひしひし感じることが多いという小誌・石井編集長(寅年48歳)が、最高峰の和文化体験を提供する「和塾」田中康嗣代表のもと、モテる旦那を目指す連載。今回のテーマは「江戸前鮨」です。

CREDIT :

写真/トヨダリョウ、米山理功(動画) 文/井上真規子 取材協力/ダイナースクラブ(運営会社:三井住友トラストクラブ)

かねてから「和のたしなみを学びたい!」と熱望していた石井洋編集長が、和の達人から様々なたしなみを伝授してもらう連載「モテる旦那養成講座」。案内役は、本物の日本文化体験を提供する「和塾」の田中康嗣代表です。

第15回目となる今回は、江戸前鮨の楽しみ方。江戸前鮨は、江戸のファストフードとして生まれた“握り鮨”が、現代まで受け継がれてきたもの。当時の名残で、カウンターを介して鮨職人と向かい合う鮨屋での振る舞いは、職人からも、居並ぶ食通からも想像以上に見られています。

一流のオヤジなら、鮨屋での作法は最低限クリアしておくべき! とはいえ、正しいルールを知る機会は意外と少ないもの。そこで料理評論家で、江戸前鮨に造詣の深い山本益博さんに、粋な食べ方を伝授いただきました。舞台となるのは、いま東京で屈指の名店と評判の銀座「青空」さん。石井編集長、食べる名人を目指しましょう!

料亭より、鮨屋・焼き鳥屋での振る舞いが難しい!?

田中 今日は、江戸前鮨の名店「青空」さんに来ています。青空と書いて「はるたか」と読むんですね。名店「すきやばし次郎」のお弟子さんがオープンした人気店ですよ。

石井 「はるたか」さん、名前はよく聞きます!  名店と評判ですね。

田中 はい、期待して参りましょう!  そして、今日ナビゲートしてくださるのは山本益博さん。江戸前鮨をはじめ、さまざまな料理に精通する益博さんに、料理を正しく美味しく食べる技術を伝授いただきます。

石井 楽しみです!
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田中 益博さん、こんにちは!  こちらが編集長の石井さんです。

石井 山本さん、今日はよろしくお願いします。レジェンドにお会いできてうれしいです!

山本 いえいえ(笑)。こちらこそ、よろしくお願いします。このお店は、私の大好きなお鮨屋さんなんです。ご主人は、こちらの高橋青空さん。

高橋 お越しいただき、ありがとうございます。よろしくお願いします。
田中 今日は、江戸前鮨の食べ方や作法を学びましょう。料理を作る方はたいてい師匠や先生がいるものですが、料理を食べる方はほとんど自己流になってしまいます。でも実は食べ方にも師は必要です。鮨にしても、その食べ方を教えてもらう機会なんて、ほとんどないですから。

山本 承知しました。実はお鮨屋さんでお鮨を食べるのって、結構難しいことなんですね。

石井 そうなんですね!?  なぜでしょう?

山本 皆さん、料亭では作法を気にしてかしこまるけど、焼き鳥屋で作法がわからないと緊張する人はほとんどいないですよね。でも焼き鳥屋や鮨屋のような、カウンターを挟んで店主と向き合うお店での振る舞いのほうが実は難しいんです。

石井 焼き鳥屋の作法を気にしたことはなかったです……!

山本 料亭は料理が勝手に出てくるし、作法もひと通りできていれば問題ありません。でもカウンターのお店は、常に主人に見られているうえに、作法も店によりけり。例えば、満席の焼き鳥屋で並んでいて、席が空いたらすぐに座りますか?  案内されるまで待ちますか?

石井 お店の雰囲気にもよりますかね? 
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山本 そうですね。すぐに座ってほしい主人もいるし、案内するまで待ってほしい主人もいる。お鮨屋さんも同じで、もてなしの仕方や求められる作法も、主人によって十人十色なんです。だから僕は、今でも初めて行くお店はすごく緊張します。

石井 益博さんでも緊張されるんですね。

山本 相撲の初顔合わせは、生涯で1回だけですよね。鮨屋でも、最初の1回目があとに響くんです。だから最低限の作法を踏まえつつ、職人へのリスペクトの気持ちを持って振る舞うことが大切。

田中 第一印象は大事です。最初の訪問でその店での自分のポジションが決まってしまいますから。

山本 鮨屋の親方は、鮨をひとつ食べるのを見れば、その人がどれだけ鮨を知っているかすぐにわかってしまう。だから格好つけたり、知ったかぶりしても意味がありません。相手はプロフェッショナルで、こっちは完全なる素人ですから。

石井 格好つけるのではなく、リスペクトの気持ちを持って握り手と向き合うということですね。

【ポイント】

■カウンターの店での流儀は主人次第。その分、作法は難しい
■カウンターでの振る舞いは、職人にも客同士にも想像以上に見られている
■鮨屋では、最低限の作法と職人さんへのリスペクトの気持ちが必要。知ったかぶりは意味がない

江戸前とは、“江戸スタイル”のこと

山本 ところで、編集長は“江戸前”の意味をご存知ですか?

石井 江戸の前海である東京湾で穫れた魚を使った鮨、という意味ですよね?

山本 実は「江戸前」という言葉は、鮨ではなく、鰻から出てきたもの。現在の東京に匹敵するエリアの河川を泳ぐ鰻を「江戸前の鰻」と呼んでいました。それが、お鮨に転用されたのです。

石井 鰻から!

山本 そしてもうひとつ。これは僕の考えですが、江戸前の「前」は“イン・フロント・オブ”の意味だけでなく、「自前」「男前」「お点前」などの言葉に含まれる、“流儀”や“スタイル”という意味もあるのではないかと。

田中 “江戸スタイル”ということですね。

山本 冷蔵庫がない時代、鮪を醤油樽の中に漬けて保存したり、こはだのような小ぶりの魚を酢と塩でしめたり、穴子を煮つけたり。二寸五分という小ぶりのサイズで握るのも江戸前鮨の流儀です。そういうものが、江戸スタイルとして定着していったのではないかと。だから北海道の鮨職人でも、九州の鮨職人でも江戸スタイルで握れば、「江戸前鮨」になるわけです。

石井 なるほど!  それは江戸前鮨を食べるのに知っておくべきことですね。
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山本 それから江戸前鮨のカウンターには、結界があるのをご存知ですか? 

石井 結界!?  知りません!

山本 鮨屋のカウンターには、“つけ台”を置く一段上がった部分がありますよね。ここに「握る側」と「食べる側」を隔てる結界が存在しているんです。
石井 越えるべきではないテリトリーみたいなもの?

山本 そうです。カウンターでは、「握る側」と「食べる側」の向かい合う距離が大切になります。近すぎれば息苦しいし、遠すぎるとつけ台に届かず鮨が出せなくなる。最適なのは、互いに結界を挟んで一尺五寸(45cm前後)をキープすること。20〜25cmのお箸を縦につないで置いてみると、ほとんどのお店でつけ台に到達するはず。この結界を超えないのが、江戸前の流儀なんです。

田中 お箸にも面白い話がいろいろありますね。
山本 この両側が細くなっている箸は、両口箸といって、神様がもう片方を使って共に食べるという意味が込められています。でも僕は、鮨屋でも日本料理屋でも「神様、ごめんなさいね」って心の中で唱えながら両方使います。日本料理ならお椀をいただくとき、鮨ならお箸に鮨ダネの脂がついたり、甘いツメがついたりした時に使うんです。

石井 考えたことなかったです……。すべてに意味があるんですね!

【ポイント】

■江戸前鮨とは、江戸前の海で撮れた魚を使うと同時に、江戸スタイルの握り鮨
■カウンターには職人さんとの間に超えてはいけない結界がある
■両側が細い祝い箸は、本来、片方を神様が使うという意味がある
■しかし箸先にツメや魚の脂がついたら、次の鮨につかないように反対側も使ってよい

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鮨屋では「酢飯」「お茶」「のり」が大事な要素

田中 鮨屋に入った時は、まずお茶を吟味しろと言いますよね。

山本 きちんとした鮨屋は、お茶からして美味しいんです。お茶は、鮨屋の品格を決めると言っても過言ではありません。僕にとっては、鮨屋の「酢飯」「お茶」「のり」がとても大事な要素です。

石井 お茶はサービスのひとつという捉え方しかしてなかったですね。確かに、そういわれると美味しいです!

山本 意識して飲むと美味しいでしょ(笑)。
石井 お鮨の前にお茶をいただくと、リセットできる感じがしますね。

田中 そういえば鮨屋は、粉茶が定番ですね。

山本 粉茶は、エスプレッソみたいなもの。超特急で美味しいお茶を出さないといけないですからね。

石井 ちなみに私は鮨屋で、とりあえずビールを頼むことが多いのですが……。

山本 まったく問題ないと思います。最近はつまみから食べる人が多いし、やっぱりお酒が合いますよね。ただ鮨は酢飯が基本で、酢飯に合うのはやっぱりお茶じゃないかなと思いますね。
山本 ちなみに海苔の条件としては、色、香り、艶、口どけ、薄さ、味わい。これが揃っていると素晴らしいのですが、なかなかパーフェクトなお店は少ないですね。

高橋 海苔は「香りがいい」「味がいい」ってわかってくださる方が多いです。日本人は子供の時から海苔を食べる習慣があるからでしょうね。

山本 コンビニのおにぎりでさえ、海苔とお米が別々になっていますからね。それぐらい日本人は海苔に敏感なんです。
山本 そして一番大事なのが、酢飯。鮨は、お米を美味しく食べるための料理だと僕は思っています。鮨ダネばかり気にしてしまいがちですが、主役はあくまで酢飯。茶碗に盛った米ではなく、プロがわざわざ握った酢飯を食べているわけですから。

田中 職人もタネより酢飯を褒められるとうれしいと言いますよね。

山本 そうですね。職人は魚を引き立てるために、酢飯の温度や酢加減、握りのサイズや硬さまで気を配って、繊細な技術で素早く酢飯をつかんで握ります。その職人のこだわりを受け止めてほしいんです。

石井 酢飯が主役とは考えてもみなかったです!  職人のこだわりが凝縮されているんですね。鮨への視点がガラッと変わりました。
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田中 鮨はその温度を楽しむことも大切です。常温、冷ため、少し温かめなど、鮨ダネごとに温度が違うんですね。白身やひかりものは少し冷たい方が美味しいし、海老や鮑は茹でたてで少し温かい方が美味しい。素材の旨みを引き出す、最適な温度があるんです。

山本 昔から鮨は人肌がいいと言われていますが、舌にのって違和感のない温度だから。それに、握りやすい温度でもあります。今、ハルさんが鮪を切りつけているけど、これも常温に戻すために握るまで少し置いておくんですね。
石井 温度で楽しむっていう感覚はなかったです。こうやって意識するポイントを教えてもらうと、鮨屋での緊張がほぐれるような感じがします。

【ポイント】

■鮨屋にとってお茶は非常に大事。お茶が鮨屋の品格を決めると言ってもいい
■江戸前鮨の主役は、鮨ダネより酢飯。鮨とはお米を美味しく食べるための料理
■酢飯が鮨ダネの旨味を引き立てる
■鮨ダネによって美味しい温度が違う。鮨は温度を楽しむべし

食べ方は見られている! 食べる名人を目指せ

石井 ところで鮓を食べる時の作法ってあるのでしょうか?

山本 よくこんな感じに肘をついて食べる人や足を組んで食べる人を見かけますが、いただけないですよね。
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田中 食べる側も、つくり手をリスペクトする気持ちが大事ですからね。

山本 職人だけでなく、店内にいる食通たちも周囲の食べ方をよく見ています。僕は以前、25歳の中国人の方を「すきやばし次郎」に案内した時に、それまで見た中で一番美しい食べ方をしていたんです。姿勢がすごく良くて、うにやいくらのような軍艦巻きのお鮨でも上半身が動かないんです。

石井 若いのに素晴らしい。

山本 彼はパイロットだと言ってましたね。あとはだいぶ以前にお見かけした、上野の時計屋さんにも感心したことがあります。ご老体の方で微動だにせず食べているのですが、鮨が出てくる時だけカメレオンのようにシュッと手を伸ばして素早く口に運ぶんです。鮨はできたてが美味しいですから、出されたらすぐに食べるのが作法です。見ていてすごく美しくて、「食べる名人ってこういう人を言うんだ」って。そのふたりを目標に、いつか食べる名人になるんだって頑張ってきました(笑)。
石井 食べ方の名人になるっていいですね!  僕も目指したいです。

田中 出された鮨をすぐに食べるのって、大事ですよね。特に冷たいタネは、置いた瞬間に酢飯の温度がどんどん移っていきます。だから出された瞬間が一番美味しい。それなのに、食べずに放っておくのは握った人にすごく失礼ですね。

山本 私が子供時代の話ですが、浅草にある「弁天山 美家古寿司」の親方に気に入られたエピソードがあります。親方が海苔巻きを巻いている時に、僕は「海苔がしけっちゃう、すぐ食べたい」と思ってそわそわしていた。それで親方が海苔巻きを出した瞬間に、焦りすぎた僕の手が親方の手にぶつかってしまった(笑)。でも、それで鮨好きを認めてもらい、可愛がられるようになりました。
田中 握りを出す手とぶつかる人、なかなかいないですよね(笑)!

石井 クロスカウンターみたいになっちゃってます(笑)。最近は鮨の写真を撮る人が増えているけど、あまり良くないのですね。

山本 ダメとは言えません、わたしもやりますから。でも、これも素早くが原則です。僕は鮨屋ではさっと食べて、さっと店を出るのが粋だと思いますね。
石井 お、ガリが出てきました。すっごく綺麗ですね。

高橋 生の生姜を削って、火を入れてからお酢に漬ける人が多いんですが、私は塊のまま漬けてから切って並べています。

山本 しっかり酢が効いていますね。脂の乗った魚のあとに食べると、ものすごく美味しいです。ガリもお茶も、お鮨の合間のインターバルに最適の合いの手なんです。

※後編に続く。

【ポイント】

■鮨を美しく食べるのは難しい。上半身を動かさずさっと素早く食べるのが美しい
■出された鮨はすぐ食べるのが鉄則
■ガリは脂の乗った魚の後に、口直しに食べると美味しい

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青空

住所/東京都中央区銀座 8-3-1 銀座時傳ビル6F
営業時間/17-24時
定休日/日・祝
TEL/03-3573-1144

● 山本益博(やまもと・ますひろ)

1948年、東京都生まれ。1972年早稲田大学卒業。卒論として書いた「桂文楽の世界」が『さよなら名人芸 桂文楽の世界』として出版され、評論家としての仕事をスタート。1982年『東京・味のグランプリ200』を出版し、以降、日本で初めての「料理評論家」として精力的に活動。著書に『グルマン』『山本益博のダイブル 東京横浜&近郊96-2001』『至福のすし 「すきやばし次郎」の職人芸術』『エル・ブリ 想像もつかない味』他多数。料理人とのコラボによるイヴェントも数多く企画。レストランの催事、食品の商品開発の仕事にも携わる。2001年には、フランス政府より、農事功労勲章(メリット・アグリコル)シュヴァリエを受勲。2014年には、農事功労章オフィシエを受勲。
HP/山本益博 料理評論家 Masuhiro Yamamoto Food Critique

● 田中康嗣(たなか・こうじ)

「和塾」代表理事。大手広告代理店のコピーライターとして、数々の広告やブランディングに携わった後、和の魅力に目覚め、2004年にNPO法人「和塾」を設立。日本の伝統文化や芸術の発展的継承に寄与する様々な事業を行う。

和塾

豊穣で洗練された日本文化の中から、選りすぐりの最高峰の和文化体験を提供するのが和塾です。人間国宝など最高峰の講師陣を迎えた多様なお稽古を開催、また京都での国宝見学や四国での歌舞伎観劇などの塾生ツアー等、様々な催事を会員限定で実施しています。和塾でのブランド体験は、いかなるジャンルであれ、その位置づけは、常に「正統・本流・本格・本物」であり、そのレベルは、「高級で特別で一流」の存在。常に貴重で他に類のない得難い体験を提供します。

■和塾
HP/http://www.wajuku.jp/
■和塾が取り組む支援事業はこちら
HP/https://www.wajuku.jp/日本の芸術文化を支える社会貢献活動

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