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2019.09.20

レクサスのデザインは世界に通用したのか?

世界に通用する日本初のプレミアムカーブランドとして登場して早20年以上。レクサスがこだわり続けてきたデザインの哲学とは? その内側で迫る。

CREDIT :

取材・文/小川フミオ

自動車史上、最速でブランドになった理由とは?

レクサスが開発されているデザインセンター(愛知県豊田市)を訪問する機会に恵まれた。ストリクトリーコンフィデンシャルな実際の仕事の現場は、普段は部外者立ち入り禁止だが、プレス向けにレクサスのデザイン哲学をお披露目してくれるプレゼンテーションが充分すぎるほどおもしろかった。

デザインとはフシギなものだと言われる。すべてが数値化、定量化されるクルマづくりのなかで、ほぼ唯一感覚的に作られ、しかもそれが売れ行きにもっとも大きな影響を与えるからだ。

1989年に米国でデビューしたレクサスは、自動車史上最短で”ブランド”になったと評される。実際に米国の路上で見かけると、たとえばレクサスRXなどは、かなり目をひく。目立ちっぷりは日本の比ではない。
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発売がうわさされている「レクサスLCコンバーチブル」のスタイルもデザインと生産技術のコラボレーションで実現した
レクサス車の成功にはデザインの貢献が大きいのだが、しかし、デザインとひとことでいっても、美の創造だけを意味してるわけではない。じつは自動車のかたちをつくるときには、デザイン部と生産技術部というツートップが仕事をする。これは意外に思うひとも多いのでは?

プロは”このクルマ、デザインいいね”とはあまり言わない。かわりに”よくこのかたちを作ったね”と言う。美しいデザインをすることはそれほど難しいことではない。それを実際に量産する技術こそ、注目されるのである。

冒頭でレクサス・デザインセンターのプレゼンがおもしろいと書いたのは、力点が置かれていたのが、生産技術だったからだ。これこそクルマ好きなら注目するべき部分なのである。

レクサスに限らずだが、通常、量産車は、デザインがほぼ確定した時点で、量産できるかを生産技術の担当者が検討しはじめる。既存の技術で出来れば簡単だけれど、複雑なカーブなどは新しい手法を生み出さないと出来ないことも少なくない。
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「レクサスLCコンバーチブル」もアルミニウムを外板に多用しながら複雑で大胆な造型を実現している
いま生産技術で注目されているのは、アルミニウム板の取扱いだ。レクサスでは、今後、軽量化(軽い=省燃費化)に貢献するという理由でアルミニウムをボディパネルにも積極的に使っていく方針だ。しかしアルミニウムは曲げに強くなく、小さく曲げると割れてしまうという性質を持つ。

「とはいえ、すぐにデザイナーに”出来ません”なんて言いたくないじゃないですか。”アルミをこんなに曲げられるのか?”と最初は疑問に思っても、なんとか工夫して、量産ラインに載せられるような作りかたを工夫したいんです」

デザインセンターで出会ったレクサスの生産技術の担当者はそう語った。精度と面品質(歪みや凹凸のない面)と生産性を、生産技術はつねに考えながら、デザイナー案を現実のものにするべく粉骨砕身の努力をしているのだ。

レクサス車でとりわけ苦労したのは、アルミニウム板の使用を拡大した大型高級クーペ「LC」(2017年)でした、と生産技術のひとは明かす。ドアのパネルに(じつは)複雑なカーブを入れて、実際の厚み以上に、張り出し感と奥行き感を出したい、というのがデザイナーの望みだった。金型まで見直して、それを実現したそうだ。
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「LF-1 limitless」の複雑な面も量産できるというのがすごい
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徹底した作り込みに込めた思い

素人目には、たしかに美しいカーブだな、ぐらいにしか見えないが、プロには”すごいな”と思える仕上がりなのである。見た目のいいものは、じつは、生産者がはんぱない努力をした結果だということだ。

扱いにくい素材で複雑な形状のボディを作るのは、いまのレクサスの挑戦(のひとつ)という。「挑戦がないと進歩がないですから」という生産技術の担当者の言葉が印象的だった。

レクサスでは「クラフテッド crafted」という言葉をよく使う。レクサスでデザインを担当する須賀厚一部長によると、最後まで徹底的に作りこむこと、を意味するそうだ。
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フルスケール(実物大)のクレイモデルはデザイナーの意図を汲みながらモデラーがていねいに面づくりをしていく大事なプロセス
さきのLCのドアもおそらくクラフテッドの一例だろう。見た目は滑らかなカーブが印象に残るぐらいだが、それもレクサスデザインの狙い。「純」(シンプル)をベースにしながら、「純度」を高めていく。それによってレクサスでないと体験できない美を生んでいくそうだ。

デザインセンターでは「LS」の内装のプレゼンテーションも多かった。読者でも知っている方はいるかもしれないが、LSは内装の品質に凝っている。たとえばシート表皮を縫い合わせたステッチ。通常の「5ミリピッチ縫製」より目の細かい「3.5ミリピッチ縫製」を採用している。

「3.5ミリピッチ縫製」では、縫製スピードが30パーセント遅くなり、塗ったラインをまっすぐに通すのも難しくなるそう。しかし、表皮のシワやズレを防ぎ、きめ細かいシルキーな質感を生むためには、見た目とともに、これが重要と判断したのだと説明される。

専門職人と共同開発したドアトリムオーナメントの切子(きりこ)調カットガラス、手作業で折り紙を折るように形作るドアトリムのハンドプリーツなども、LSを特徴づけている。製作に時間がかかるため、限られた数しか供給できないそうだが、それでもかまわない、という姿勢で、「いいもの」を供給していくという。
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日本の技と現代の先進テクノロジーを組み合わせるのがレクサス(LS)の内装の特徴で、写真は切子職人とともに開発したドア内張りのガラス製のオーナメント(オプション)
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私にとっておもしろいのは、これらをきちんと顧客に伝えていこうというレクサスの姿勢だ。「お客さまから(上記のこだわりの数々を)アートピースとして認めていただき、オーナーとゲストがクルマ談義と共に交わす文化論のきっかけともなれば」(レクサス)というだけあって、販売店ではレクサス車の成り立ちを説明できる専門家を配置していくのだそうだ。

さまざまな要素が興味ぶかいので、説明を受けたものを羅列していくと、まるでPRのようになってしまったのではと、一抹の不安もある。だが、自動車のデザインセンターを訪問しても、どうしても”葦の髄から天井を覗く”ということわざどおり、ごく一部しか見られない。レクサスが、それ以上に視野を拡げてくれたのは事実なのだ。

デザインとはいかに広い範囲をカバーし、かつ奥行きの深い概念であるか。レクサス・デザインセンターを訪れてそれがよくわかった気がする。デザインではやはり強いこだわりを感じさせるマツダなど、他社も訪れてみたいと思った。
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● 小川フミオ / ライフスタイルジャーナリスト

慶應義塾大学文学部出身。自動車誌やグルメ誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。活動範囲はウェブと雑誌。手がけるのはクルマ、グルメ、デザイン、インタビューなど。いわゆる文化的なことが得意でメカには弱く電球交換がせいぜい。

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