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2017.10.12

ウィスキーをもっとも美味しく飲むために、大切な二つのこととは?

夜風が肌寒く感じられる季節になると強い酒が飲みたくなるものです。例えばウィスキーをストレートで。あるいはロックで。酒の楽しみを知り尽くしたエッセイスト、オキ・シローは、ウィスキーをどのように楽しんだのでしょうか。その豊穣なる夜をご紹介。

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文/オキ・シロー

「ストリップ・ティーズ風ウィスキー」

今までに、一体どのくらいの量のウィスキーを飲んできたことだろう。ぜんぜん見当もつかないが、数ある酒の中で、ウィスキーが断然多いことだけは確かである。
 
そして、その飲み方はまったく気まま。その時々で好き勝手に、良くいえば自由にやってきた。若かった頃は、好きな作家や小説、映画、関わった女の影響などをもろに受けて、決まった銘柄のウィスキーを、決まった飲み方しかしない、なんて時期も時々あったが、近頃はそういうこともまったくない。
 
銘柄も昔ほどはこだわらないし、ストレートでやるか、ロックでやるか、それとも水で割るか、ソーダで割るか、あるいはカクテルにするか、そのスタイルはもっぱらその時々の体調と気分次第である。時にはコーヒーや紅茶にたっぷり注ぎこんだり、ウーロン茶で割ったりもする。
 
“ウィスキーは生(き)でやるべきだ”といったような、いわば酒道とでもいうべき見識をもった人から見れば、無節操この上ない飲み方だろう。でも、今までそんな風に飲んできてしまったし、これからもそうだろう。
そんなぼくでも、ウィスキーを飲む時にこれだけは、と多少こだわるものが二つある。それは「水」と「氷」である。
 
ウィスキーがいくら上等でも、水がまずかったら、まったく無惨な水割りを飲むことになる。また、そんな水がチェイサーだったら、舌を洗い清めるどころか、却って汚し、ストレートで飲むウィスキーの味を台無しにしてしまう。酒の値段に比べれば、水なんてたかが知れている。そのわりには、水の味に占める比重は大きい。これからもせいぜいこだわって、うまい水でやりたい。
 
氷は、生きた固い氷、アイス・ピックで割ったばかりのものが最上。特にオン・ザ・ロックの時は、割りたての鋭く尖った氷山のごとく大きい氷を使いたい。そこへウィスキーを注ぐと、キシキシとかすかに氷がきしみ、何かささやきかけてくるような気がする。やがて、その尖った角が溶けて、丸味をおびてくるとともに、ウィスキーもまるく舌になじんでくる。この経過が実に楽しい。酒場で、キューブ・スタイルの氷が出てくると、ぼくは心底がっかりする。自宅では我慢するとしても、酒場ではあのキラキラと光る、固い割りたての氷でやりたいと思う。
 
ウィスキーを飲む時に、ぼくがこだわるのはこの二つだが、あとはグラスをいくらか気にする。ぼくが好きなのは無色透明、いっさい飾りがなく、薄手で大ぶりのものである。また、高級と称される酒場や招かれた家などで、極上のグラスに出会うことがあるが、あれは酒より器に気を取られてしまい、ちょっと憂うつだ。やはり、わが分相応のグラスで、余分な神経を遣わずに飲むのがいちばん楽しい。
 
ウィスキーそのものの飲み方は、本当に自由気まま。その時の気分で好きなようにやっているが、飲みはじめてから終わるまでの一日に限っていえば、飲み方のスタイルに多少の傾向はあるようだ。
 
大抵は水割りかハイボールからはじまり、あっちの酒場、こっちバーと飲み歩き、途中からオン・ザ・ロックになることが多い。仲間も一人消え、二人離れて、その日最後の酒場はほとんど独り。相当わがままのきく店なら「グラスをビターでふいて」なんていって、ストレートをすすったりもする。
 
どうやら僕のウィスキーは、深夜にむかい酔うにつれ、ソーダや水、氷など余分なものを次第に脱ぎ捨て、最後は裸のウィスキーになる傾向にあるようだ。いうならば、ストリップ・ティーズ風ウィスキーとでもいったところか……。
「今夜は何を飲もうか」オキ・シロー著(TAC出版)
「今夜は何を飲もうか」オキ・シロー著(TAC出版)1991年に刊行され、2015年に復刊。読むほどに飲みたくなる名エッセイ集だ。
●オキ・シロー/コラムニスト

メンズ・マガジンのチーフエディターを経て、執筆活動に入る。主に酒をテーマにした掌編小説やエッセイなどを発表。著書に『ヘミングウェイの酒』(河出書房)、『寂しいマティーニ』(幻冬舎文庫)など。本文章は、『今夜は何を飲もうか』(TAC出版)より再掲。

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