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2021.01.14

「芸能人格付けチェック」をワイン愛好家の視点でチェック!

5000本以上のコレクションを持つ日本随一のワインコレクターで、多い時は月に3桁の金額をワインに費やす超愛好家だからこそわかる、真にスマートで男女問わずモテるワイン道ってどんなもの? ちょっとイタいワインおたくや面倒くさい半可通など、周囲の反面教師からも学ぶ、ワインのたしなみ方入門です。

CREDIT :

文・写真/吉川慎二 イラスト/Isaku Goto, オキモトシュウ(吉川慎二氏)

2021年最初の今回は、元日に放送されたテレビ番組「芸能人格付けチェック! 2021お正月スペシャル」(ABCテレビ制作・テレビ朝日系列)を取り上げます。

モテるワイン道入門~ワイピの目で見た「芸能人格付けチェック」

在宅でのお正月、ワイン片手にお正月の定番人気番組「芸能人格付けチェック」を楽しんだ方もたくさんいらしたのでは? 

出演者が「高級品」と「安物」(失礼!)を判別する問題に挑戦し、正解すると自身のランク(芸能人格付け)がアップするというおなじみの内容です。料理や音楽、絵画などいろんな分野から出題されますが、お正月の特番には必ずワインが登場します。誰もが知るような「最高級ワイン」(正解)と通常価格(多くの場合数千円程度)の「お値打ちワイン」(不正解)を比較して当てる趣向です。

筆者も毎年楽しみに見ていますが、その理由は「ツッコミどころが多すぎて飽きることがない」から。ある意味、我々ワイピと世間一般のワインに関する意識の乖離を痛感させられる時間でもあります。一体どういうことなのでしょうか?  今年の例をとって考察していきましょう。

まず、出題されたワインは次のとおりでした。

正解(最高級ワイン)=Chateau Lafite Rothschild(シャトー・ラフィット・ロートシルト) 1982年
不正解=仏ボルドー産のワイン(銘柄非公表) 1990年(5000円程度)
▲アナタが落としたのは最高級ワイン? それとも安いワイン?
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「最高級ワインの値段を盛りすぎ!」

まず、最高級ワインのお値段について、「一流ホテルで飲んだら100万円は下らない」と紹介されます。確かに、Lafiteは本コラムでも何度も取り上げているフランスのボルドー・メドック地区の格付けで“第一級”の称号を与えられた「五大シャトー」のひとつですし、1982年は、良質のヴィンテージ。ワイン愛好家垂涎のワインであることは間違いないでしょう。

しかし、世界最大のワイン検索サイト「ワイン・サーチャー」によれば平均価格は40万円弱。ホテルのワインリストの価格はそれよりも高いのが通常ですが、2.5倍の100万円はいかがなものでしょうか?  小売価格で2万円台のドン ペリニヨンが20万円になるホストクラブとまでは行かないにせよ、いくらなんでもお値段インフレ過ぎです。

もちろん探せば、100万円でオンリストしているホテルは見つかると思います。しかし、それは内装やサービス、雰囲気を含めての話で、ベンチマークとして適正でないのは明らかです。番組演出の都合で何としてでも大台に乗せたかったのでしょうか? この手法を取るならば、LEON編集部による「多いときは月に3桁の金額をワインに費やす」の筆者プロフィールも「4桁」になってしまいかねません(笑)。
片や、不正解のワインの値段5000円はどうでしょう?  くわしい説明はないものの、ワインリストの価格でないことはワイピの常識から明らかです。ホテルのレストランのワインリストで5000円のワインを見つけるのは難しいどころか、居酒屋で普通にワインをオーダーしてもこのくらいはかかりそうです。

しかも1990年という。これまたグレートヴィンテージ。5000円で飲めるわけがありません。小売価格、しかも発売当時(おそらくは1990年代前半)に5000円で売られていたワインの可能性が高いと判断します(*1)。値段の対比を大きくしたいがために、捏造にならない範囲で極力安い価格を持ち出したのでしょう。つまりは同基準で比較しての100万円vs 5000円ではなくて、「盛りまくって100万円」対「思いっきり値切って5000円」という疑惑があります。
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「デキャンティングをするの? しないの?」

次に、あれっ⁉ と思ったのは最高級ワインを説明する映像です。
最初に、ナレーターの説明。続いて番組専属ソムリエの女性によるワインの解説があり、並行してボトルから勢いよくワインが注がれる動画(シーン①)、注がれたグラスとボトルが並んでいる動画(シーン②)が出てきます。

録画を再生して注意深く見ないと気付かない点かもしれませんが、シーン①ではLafiteに間違いありませんが、ヴィンテージはボカされて映りません。「本当に1982年のボトルなのかな?」と疑問が湧いてきます。しかも、ボトルを持つのは親指が結構奥まで届く、大きい男性の手のように見えます。専属ソムリエなのにどうして自分で注がないのでしょうか。

しかも、シーン②ではグラスにしっかりとした量(あくまでも目測だが120~150ml程度)のワインが注がれているにもかかわらず、隣に置かれた抜栓済みボトル(こちらはハッキリと1982年ヴィンテージの表記が確認できる)の液面はネック(瓶口の細い部分)からややショルダー(ネックの下の広がりが始まる部分)あたりまで残っています。仮に、グラスのワインをボトルに戻したとしたら外にあふれてしまうのではないでしょうか?  グラスの中のワインは本当にこのボトルから注がれたものでしょうか?

さらには、実際に出演者がテイスティングをするシーンでは、何故かワインはすべてデキャンタに入っている状態です。これはつまり、グラスからまたデキャンタに戻したということ? 短い映像に多くの疑問が湧いてきます。
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専属ソムリエの説明コメントについては評価を差し控えたいと思いますが、抜栓やデキャンティングの様子が一切登場せず、コルクも映らない、またデキャンタからグラスに注がれるシーンも見られないのはワイピとしては残念だと感じました。これらのことから湧いたモヤモヤ感をまとめると次の2点です。

1.果たして抜栓のタイミングやサービス温度、グラスの選択など最高級ワインのポテンシャルを発揮するための最良の選択がなされているのだろうか?  万が一、演出目的で間違えさせようと、故意に味わいを落とすような細工をしているのであれば、最高級ワインがかわいそうだ。

2.視聴者の大部分がワインにくわしくないことが前提で、ここまで、意図的に値段に極端な差をつけたり、専門家の難解なコメントを流したりすることが、かえって「ワインは親しみにくい飲み物」「ワイピは特殊な人種」だとの風潮を助長しているのではないか?

もちろん、筆者自身が番組の舞台裏を知るわけではなく、上記の指摘も映像からの推測に過ぎません。しかし、後日SNSをチェックしてビックリ!  有名な作曲家が同番組の「弦楽四重奏」(*2)について次のような投稿をしておられました

「私はいくつかのヴィンテージのストラディヴァリウスの音を、よく生で聴いているので分かりますが、いつも思うのですが、格付けチェックの演奏家はまだストラディヴァリウスに馴染んでいなくて(自分の楽器ではなくて、おそらく収録のためにその時だけ弾いているので)そのポテンシャルを発揮出来ていないですね。ストラディヴァリウスの音はこんなものではありません」

(以上Facebookより引用)

ワインについては視聴者がスタジオと同じものをテイスティング出来ませんが、音楽は聴くことができます。そして、それを聴いた大家が上記のように感じられたということは、やはりワインについても同様の懸念は拭えないのかなあと考えた次第です。

まあ、これはバラエティ番組なので、ワイピにとっての印象よりも世間一般にわかりやすく、インパクトのある演出を目指したとしても無理はありません。救いに感じたのはワインについては自称初心者を含む出演者全員が正解したということです。これは偶然の結果なのでしょうか?  それとも、経験値に関係なく良いワインは評価されるものなのでしょうか?  その場でテイスティング出来なかった私にとっては、真相は永遠の謎。でも、こんなことを考えながら、アレコレ盛り上がることがワイピの特権でもあります。

「モテるワイン道入門」、今年もよろしくお願い致します。

(*1)
検証のため、楽天市場で1990年ヴィンテージのボルドー産赤ワインを検索してみましたが、5000円以下の値段では1件もヒットしませんでした。

(*2)
 通常、弦楽四重奏はヴァイオリンx2とヴィオラ、チェロで構成されるが、番組ではヴァイオリン(すべて名器ストラディヴァリウスx3)とヴィオラの総額46億円の最高級楽器vs市販品(総額106万円)を比較する出題であった。

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● 吉川慎二 / Shinji Yoshikawa

1962年三重県生まれ。
東京大学法学部卒業後、三井住友銀行、メリルリンチ自己勘定投資部門のアジア太平洋地域統括本部長を経て、現在は投資家・経営コンサルタント。
2007年、日本ソムリエ協会のワインエキスパート資格を取得。12年にシニアワインエキスパートへ昇格し、同年に開催された第5回全日本ワインエキスパートコンクールで優勝。14年にはエキスパート資格者で初の日本ソムリエ協会理事に就任、2018年まで2期4年務めた。漫画「神の雫」に登場する吉岡慎一郎のモデルともいわれ、プロフィールイラストは「神の雫」作画のオキモトシュウ氏によるもの。

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