デートが盛り上がったなら、当然期待したくなるのが彼女との“次”のお約束。とはいえ、あからさまに前のめりになるのは野暮。会話の流れで「じゃあ、次は……」とさり気なくお誘いいただきたいものです。そこで頼りになるのが、西麻布の「長谷川稔 Lab.」。なにしろこちら、美味しい料理を楽しんでいるうちに、次のデートの口実までできてしまうという、なんともありがたい一軒。そのカラクリを確かめるべく、いざ西麻布へ。
カウンターはひとつなのに、レストランはふたつ!?
夜遊び上手なオヤジさんには言わずもがなでしょうが、西麻布界隈で「バルビゾン」といえば、知る人ぞ知る店との出会いが期待できる場所。今宵のお目当て「長谷川稔 Lab.」も、西麻布交差点からほど近い「バルビゾン92」の3階にひっそりと看板を出しています。
扉を開けると、目に飛び込んでくるのはU字を描く12席のカウンター。一見するとひとつのレストランですが、実は左側の6席がフレンチの「amphis」、右側の6席がイタリアンの「無垢」。カウンターだけでなく、目の前のキッチンまで中央を境に分かれ、ひとつの空間でふたつのレストランが営業しているのです。

今回、私が席に着いたのは左側の「amphis」。目の前ではフレンチが次々と仕上げられていく一方、ふと右側に目をやれば、「無垢」のゲストにはまったく別の料理が運ばれていく。あっちで一体どんな料理が食べられるのか妙に気になりますが、まずは目の前のフレンチに集中です。
「amphis」の厨房に立つのは、フランス料理歴20年以上、神泉の人気ビストロ「urura」でシェフを務めた高橋一男さんと、洋食店を経験後、「キュイジーヌ[s]ミッシェル・トロワグロ」などの名店を中心に12年間フランス料理を学んだ中島慎弥さん。

▲ こちら高橋一男さん。下の写真が中島慎弥さん。店名のamphisは古代ギリシャ語で「両方」を意味し、異なるキャリアをもつふたりがタッグを組みます。

▲ 中島慎弥さん。
そんなふたりによるフレンチと聞けば、さぞや王道のコースが待っているのかと思いきや……。この日のおまかせコース(全12品・3万250円)のメニューには、「玉ねぎとオニオン」「ブイヤとベース」「sea the salad」、そして「なぽりたん と とうもろこし と おむらいす」の文字が。3万円超のフレンチで、ナポリタンにオムライス!? 俄然、気になります。
「次は何?」が止まらない、予測不能な12品
そんな期待を裏切ることなく、「amphis」のコースは幕開けからちょっと意外です。

▲ 「amphis」のコース、1品目は「陸・海・牛」。
1品目は「陸・海・牛」。この日は、青梅のシャーベット、ヤングコーンのフリット、鳥貝のタルト、春巻き、メルバトースト、冷やしトマトという6種のフィンガーフードのあとに、牛肉や鮑を合わせたパイ包みが登場。黒トリュフをたっぷり削って仕上げます。
▲ いきなり牛肉や鮑を合わせたパイ包みが登場。
普通ならコースのクライマックスを飾るような肉料理が、さっそく登場するとは面白い。パイ包みは焼き上がった瞬間が最も香り高く、状態もいいから、最初に供するんだそう。いきなりのご馳走に、この先への期待が高まります。
続いて登場するのが「amphis」のスペシャリテ“玉ねぎとオニオン”。玉ねぎの旨みを凝縮させたスープなのですが、驚くのはその温度。ひと口いただくと、熱い! でも、この熱々こそが狙い。食べ進めるうちに温度が下がると、人は味をより感じやすくなるため、玉ねぎの甘みがさらに濃く感じられるようになるそう。淡路島産玉ねぎのおいしさを、これでもかと堪能できます。

▲ 「amphis」のスペシャリテ「玉ねぎとオニオン」。
その後も、「夏穴子」「ブイヤとベース」「sea the salad」と、名前からして気になる料理が続々。

▲ ブイヤとベース。九絵からとった濃厚なスープと魚介を、サクサクの衣の中に閉じ込めた独創的な逸品。
さらに、もう一度しっかり肉を食べさせてくれるのが「あいち鴨 神経締め」です。神経締めによって仕立てた鴨の味わいを受け止めるのは、羅臼昆布の水出しと鴨の煮込みを使ったソース。旨味を重ねながらも、後味は意外なほど軽やかです。

▲ 「あいち鴨 神経締め」は羅臼昆布の水出しと鴨の煮込みを使ったソースで。
ここまで食べ進めて感心するのが、コース全体の“抑揚”です。一皿ごとに温度の高低差がついているので、メイン級の料理が複数回登場しながらも、意外と食が進んでしまう。お見事!
極め付けは、〆の「なぽりたん と とうもろこし と おむらいす」。まず現れたナポリタンは、なんと炒められていない。しかも、麺は驚くほどもっちり。昔ながらのナポリタンを思わせる親しみやすさがありながら、食感はまるで別物です。

▲ 〆の「なぽりたん と とうもろこし と おむらいす」。
続くとうもろこしのスープは、その日の朝に採れたとうもろこしにミルクと少量の塩を合わせただけという潔さ。余計なものを足さないからこそ、とうもろこしそのものの甘さが際立ちます。
そして、最後は自家製ケチャップで仕立てたオムライス。フレンチのコースを食べてきたはずなのに、ナポリタン、コーンスープ、オムライスという洋食の王道が続く。この肩肘張らない展開も「amphis」らしさ。

▲ 一見玉子焼きのようですが……。

▲ カットすると自家製ケチャップで仕立てたオムライス。
サプライズに満ちたコースは、デート目線で考えると実にありがたい。「次は何?」「熱っ!」「ここでナポリタン!?」と、料理が次々に会話のきっかけを作ってくれるんです。同じタイミングで驚いて、笑って、また次を待つ──そんな時間を積み重ねていけば、ふたりの距離も自然と縮まるでしょう。
そして、ここからが「長谷川稔 Lab.」の“ちょいズルい”ところ。「amphis」を楽しんでいる間にも、お隣の「無垢」の様子がチラチラと目に入ってくるんです。「あっちも美味しそう」と彼女が興味を示したなら、しめたもの。あとは、「じゃあ、今度はあっちにしてみる?」と、さらりと誘うだけ。
ちなみに「無垢」は、全15品のうち5品をパスタが占めるという、こちらもかなりの個性派。わざわざもう一度訪れる理由としては十分でしょう。ほ〜ら、次のデートのお約束までできちゃいました。メデタシ!
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● 甘利美緒
フリーライター。新卒で大手企業のコーポレートコミュニケーション企画部に配属された後、出版社で雑誌編集に携わり、独立。著名人のインタビューや、レストラン・ホテル・旅などライフスタイルの分野を中心に、取材・執筆を行う。現場の空気や自身の実感が伝わる文章を紡ぐのが信条。
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