2026.05.11
「イル・リストランテ ニコ・ロミート」(ブルガリ ホテル 東京)
世界を旅するシェフ、ニコ・ロミートの“最新”を味わう
スターシェフの姿は、時代とともに変わってきました。テレビで活躍する料理人から、インフルエンサー、そして世界を飛び回る“グローバル・クリエイター”へ——。ミシュラン三つ星シェフ、ニコ・ロミートから、現代のスターシェフ像と、その料理哲学に迫ります。
変わりゆく“スターシェフ”像
スタ―シェフ、という言葉から連想される人物像は、時代によって大きく変遷してきました。かつてはテレビ番組で家庭料理を披露する“料理の先生”として憧れられる存在でした。やがて、何冊ものレシピ本を出版し、家庭にまでその味を浸透させる“ベストセラー作家型”のシェフへ。そして2000年代以降は、予約が取れない人気店を持つ“贅沢な食体験の象徴”、さらにはSNSで話題になるインフルエンサーとしてのスターシェフが脚光を浴びるようになります。
そして現在、世界のトップシェフたちはさらに別のフェーズへと進んでいます。料理人であると同時に、ホテルやラグジュアリーブランドと協業し、世界各地にレストランを展開し、自らも飛行機で各国を移動し続ける“グローバルなクリエイター”へと……。

▲ ニコ・ロミートシェフはイタリア・アブルッツォ州出身。大学で経済学を学んだ後、独学で料理の道へ転身した異色の経歴を持つ。
そんな現代のスターシェフの代表と言えるのがニコ・ロミート氏です。イタリアはアブルッツォ州の山あいにあるレストラン「レアーレ」でミシュラン三つ星を獲得した彼は、単なる“地方の名店の料理人”にとどまりませんでした。料理の本質を探求するラボを立ち上げて後進の指導にあたりながら、世界的なラグジュアリーホテルブランド「ブルガリ ホテルズ & リゾーツ」とタッグを組み、上海、ローマ、バリなど各ホテル内 でレストランを展開。さらにカジュアル業態まで手がけるなど、その活動は極めて広範にわたります。今週は東京、来週は中国、再来週はヨーロッパ……と、まさに世界中を旅するジェットセッター。

▲ ニコ・ロミートシェフが監修している「イル・リストランテ ニコ・ロミート」(「ブルガリ ホテル 東京」40階)。
【イル・リストランテ ニコ・ロミート 】
このたびは約1年ぶりに来日したニコ・ロミートシェフと再会が叶い、新メニューお披露目の場に立ち会うことができたので、その模様をレポートします。そうそう、前回はサンデーブランチのローンチでしたが、毎年、世界各都市で新しいメニューや商品を開発しているのだからすごい。いつ寝ているんだろう……。

▲ 1年ぶりの再会を祝してゲストを乾杯するニコ・ロミートシェフ(右)。左は「ブルガリ ホテル 東京」レジデント ヘッド シェフのマウロ・アロイシオさん。
4月15日より展開されているのは、ニコ・ロミートシェフの哲学をより濃く体現した「デグスタツィオーネ」コース。 合計7皿のコースはいつもながら素材の個性を最大限に引き出し、派手さはないのに満足度は高かった! そのなかにひときわ印象的なお料理ががありました。

▲ ニコ・ロミートさんらしく、食材のもつ力を最大限に引き出している「スイスチャードのテリーヌ ポテト レモン」。動物の出汁を使わずに野菜だけでこの旨味の強さに驚きます。
それは「東京シグネチャーディッシュ」と名付けられた、世界各国にあるブルガリ ホテルのレストランでもここ東京でしか食べられない、特別なお料理。「ブルガリ ホテルズ & リゾーツ」における新たな取り組みとして、各拠点でのみ2皿ずつ展開されることになりました。
ここでしか食べられない「東京シグネチャーディッシュ」
まずひと皿めは「和牛ラグーのリングイネ」。日本が世界に誇る和牛に着目しながら、レジデントヘッドシェフ、マウロ・アロイシオさんの幼少時の記憶を、ニコ・ロミートシェフならではの技法によって再構築しています。

▲ 東京シグネチャーディッシュより「和牛ラグーのリングイネ」。
ヒントとなったのはマウロ・アロイシオさんがナポリでこどもの頃から食べていた「カルネ・アッラ・ピッツァイオーラ」。牛肉をトマト、オレガノ、ニンニクで煮込んだナポリの郷土料理は私たちにとっても親しみのある味わいですが、「さすがニコさん」と思わず膝を叩きたくなるような洗練された現代的なメニューへと昇華されています。ソースには、パン酵母の香りと繊細な酸味が加えられ、焼きたてのパンを思わせる心地よい香り。深みのあるおいしさながら、軽やかな余韻を残し、次のお料理が待ち遠しくなりました。
続いて、「伊勢海老の煮込み ほうれん草とそばの実 唐辛子のアクセント 」。伊勢海老の持つ豊かな旨みに着目したこの一皿は、香りのレイヤーがすごい。そば茶のナッツのようなアロマ、伊勢海老の香ばしさ、そして奥のほうに唐辛子……。ニコ・ロミートシェフはこの香りを抽出の技法によって引き出しているそうですが、この複雑な香りと味の合わせ方もどこか日本的だと感じました。

▲ 「伊勢海老の煮込み ほうれん草とそばの実 唐辛子のアクセント 」。デグスタツィオーネコースでは、この後、仔羊のメイン料理へと続きます。
今回の新コースを味わってつくづく感じたのは、ニコさん本人が非常に物静かであるように、彼の料理もまた、派手さから距離を置いているということ。かつてのスターシェフとは、濃厚なソースや豪華な食材で人々を驚かせる存在でした。しかしニコさんは、素材の輪郭を研ぎ澄まし、余計な要素を削ぎ落とす方向へ向かっているよう。つまり、現代のスターシェフとは、「どれだけ足せるか」ではなく、「どれだけ本質を残せるか」を競う方向へシフトしているのでは、と。
またもうひとつ重要なのは、“店にいなくても存在感をキープできる”ということでしょう。かつて料理人は厨房に立ち続ける職人でした。しかし今、トップシェフは世界中を旅しながら、思想や美意識をチームへ共有し、複数の場所でブランドを成立させています。ニコ・ロミートさんは、まさに現代のスターシェフ像を体現しているひとりです。

■ イル・リストランテ ニコ・ロミート
住所/東京都中央区八重洲2-2-1 ブルガリ ホテル 東京40階
予約・問い合わせ/03-6262-6624
営業時間/12:00~14:30(L.O.) 、18:00~21:00(L.O.)
* 「デグスタツィオーネ」コース 3万2000円(税・サ込)
今夜はイタリアンな気分でしょ?













