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2024.02.11

【第49回】 私の「飯田商店」ものがたり

「飯田商店」は、こうして私の生涯かけがえのない「愛しい」ラーメンとなった

日本初の料理評論家、山本益博さんはいま、ラーメンが「美味しい革命」の渦中にあると言います。長らくB級グルメとして愛されてきたラーメンは、ミシュランも認める一流の料理へと変貌を遂げつつあります。新時代に向けて群雄割拠する街のラーメン店を巨匠自らが実食リポートする連載です。

CREDIT :

文・写真/山本益博 編集/森本 泉(LEON.JP)

飯田商店 山本益博 ラーメン革命! LEON.JP
4年ほど前、ほぼ20年ぶりに再びラーメンを集中して食べ始めた時、湯河原の「らぁ麺 飯田商店」の存在を知った。いつか絶対に食べに行くと思いながら、ようやくその願いが叶ったのが、2021年5月のことだった。
店構えは暖簾がなければどこにでもあるような一軒家だが、店内に招き入れられると、打って変わって清潔感に溢れていて、磨きこまれたステンレスのフードなどは、東京の最高峰のフランス料理店の厨房と全く変わらなかった。さらに、案内されたテーブル席に着くと、テーブル上には、箸立てから胡椒に至るまで、何もない。「飯田商店」の「らぁ麺」は、もうこれだけですでに始まっている感じだった。

ご主人の飯田将太さんの動きに合わせて、他の店のメンバーが動いている感じで、リズミカルにしてスピーディな仕事ぶりから、簡潔な一杯が想像できた。
飯田商店 山本益博 ラーメン革命! LEON.JP
 ▲ 飯田商店の厨房の様子。
注文したのは「醤油らぁ麺」。目の前に運ばれてきたどんぶりを見ると、スープと麺と具が見事にデザインされていて、どんぶりをもってスープをひと口含むと、「醤油」のかぐわしい香りが凛と立ち上がって鼻をくすぐり、ストレート麺の柔らかな味にスープが優しく寄り添い、チャーシューの脂身がことのほか甘く、それはそれは「優美」な一杯だった。
ただし、海苔だけが気になった、と言うより、気に入らなかった。上質の海苔の端がスープに浸され、香りも味も台無しだったからである。

海苔の決め手は「色、艶、香り、薄さ、口溶け、味わい」と六つある。これが楽しめなかった。

素晴らしく美味しかったのだが、大満足とはいかなかった。その後、Facebookだったか、「海苔」を佐賀産の最上等のものを仕入れることができたという記事を拝見した。これを読んで、再び「飯田商店」へ出かけたくて仕方なかったのだが、昨年暮れに再訪が実現した。
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飯田商店 山本益博 ラーメン革命! LEON.JP
▲ 「塩らぁ麺」も「極上の一杯」であった。
券売機で買ったのは「塩らぁ麺」で、目の前に現れた「塩らぁ麺」には、なんと「海苔」が添えられてなかった! 続いて運ばれてきた、同席してくれた友人が注文した「醤油らぁ麺」には、「海苔」が添えられていて、なんと、その「海苔」がどんぶりの縁とどんぶり中央に盛り付けられたねぎとの橋渡し状態になっていて、スープの湯気には当たるものの、浸かってはいないではないか! 飯田さんの「らぁ麺」美学、哲学、ここに極まれり! と、「海苔」へのリスペクトに、食べもしないのに感動してしまったのである。
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▲ こちらは2021年に伺った時の「醤油らぁ麺」。
飯田商店 山本益博 ラーメン革命! LEON.JP
▲  昨年暮れの再訪時の「醤油らぁ麵」は「海苔」がどんぶりの縁とどんぶり中央に盛り付けられたねぎとの橋渡し状態になっている!

もちろん私が食べた「塩らぁ麺」も、「美学」と「哲学」が詰まったものだった。盛り付けの色彩は限りなく淡く、「塩」であるのに、はじめのひと口から「塩辛さ」をまったく感じさせずに、「塩」の風味、つまり、「海の香り」を漂わせていたのである。それに、チャーシューの脂身の美味さが溶け合い、それはそれは「極上の一杯」だった。 

三度目は今年2月。再び「塩らぁ麵」を注文した。昨年暮れに食べた「塩らぁ麺」の確信を持ちたかったためである。運ばれてきた時、「チャーシューは天城黒豚です」と添えられた。
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山本益博 ラーメン革命! LEON.JP 
▲ 南青山「ローブリュー」で食べた「天城黒豚のロースト」。
「天城黒豚」? 私が敬愛する金子渉さんの豚? 東京・南青山のバスク料理が売り物の「ローブリュー」で食べた「天城黒豚のロースト」をきっかけに知った「天城黒豚」は、「とんかつ」になっても日本最高峰の豚だった。我が家でいただく「しゃぶしゃぶ」も「ロースハム」も「ベーコン」もすべて金子さんの「天城黒豚」で、食べながらいつも考えていることがあった。「天城黒豚」の内臓と豚骨はどこへ行くのだろうかと。その「豚骨」の行き先が「飯田商店」だったのである。

スープの素になる「丸鶏」は、名古屋コーチンとか比内地鶏とか、選ばれる銘鶏があるが、「豚骨」の原産選びの話はほとんど聞いたことがない。
飯田商店 山本益博 ラーメン革命! LEON.JP
▲ 2月の訪問時はYouTube「MASUHIROのうまいのなんの!」の取材も敢行。
「飯田商店」の「らぁ麺」を支えているのが、金子さんの「天城黒豚」であることが分かって、ついに、私の生涯かけがえのない「愛しい」ラーメンとなったのだった。

追記:近々私のYouTube「MASUHIROのうまいのなんの!」で「飯田商店」をご紹介いたします。
山本益博 LEON.JP  ラーメン革命!

● 山本益博(やまもと・ますひろ)

1948年、東京都生まれ。1972年早稲田大学卒業。卒論として書いた「桂文楽の世界」が『さよなら名人芸 桂文楽の世界』として出版され、評論家としての仕事をスタート。1982年『東京・味のグランプリ200』を出版し、以降、日本で初めての「料理評論家」として精力的に活動。著書に『グルマン』『山本益博のダイブル 東京横浜&近郊96-2001』『至福のすし 「すきやばし次郎」の職人芸術』『エル・ブリ 想像もつかない味』他多数。料理人とのコラボによるイヴェントも数多く企画。レストランの催事、食品の商品開発の仕事にも携わる。2001年には、フランス政府より、農事功労勲章(メリット・アグリコル)シュヴァリエを受勲。2014年には、農事功労章オフィシエを受勲。
HP/山本益博 料理評論家 Masuhiro Yamamoto Food Critique

山本益博 YouTube  MASUHIROのうまいのなんの!

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日本初の料理評論家、山本益博さんが、美味しいものを食べるより、ものを美味しく食べたい! をテーマに、「食べる名人」を目指します。どうぞご覧ください!
YouTube/MASUHIROのうまいのなんの!

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