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2023.12.10

【第45回】 ラーメン屋のファインダイニング化

いま、着実にラーメン屋のファインダイニング化が進んでいる!

日本初の料理評論家、山本益博さんはいま、ラーメンが「美味しい革命」の渦中にあると言います。長らくB級グルメとして愛されてきたラーメンは、ミシュランも認める一流の料理へと変貌を遂げつつあります。新時代に向けて群雄割拠する街のラーメン店を巨匠自らが実食リポートする連載です。

CREDIT :

文・写真/山本益博 編集/森本 泉(LEON.JP)

上北沢「らぁめん小池」、本郷「中華蕎麦にし乃」と同じグループの小川町「つけめん金龍」へ出かけてみた。道路に立てかけてある看板の「鰹昆布水つけめん」の丼を見ると、「らぁめん小池」と同じモダンアートを思わせる斬新な絵柄である。行列に並ぶものの、なかなか前に進まない。店内に招き入れられて納得した。コの字型のカウンターに7席しか配席されていないためだった。
ラーメン 金龍 山本益博 LEON.JP
▲ 小川町「金龍」の「鰹昆布水つけめん」。
注文した「鰹昆布水つけめん」の丼と猪口が目の前に差し出されたものの、箸が出ていない。献立表の裏に、箸はカウンターの下にありますとのこと。カウンターに設置された引き出しを引くと、割り箸とおしぼりが並んでセットされていた。
ラーメン 金龍 山本益博 LEON.JP
▲ 「金龍」のカウンター下の引き出しを引くと、割り箸とおしぼりが並んでセットされていた。
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今年改装なった南大塚「創作麵工房 鳴龍」へ出かけた時も、カウンターに引き出しがついていて、その引き出しの中には、割り箸、紙ナプキン、爪楊枝などがきれいにセットされていた。

どちらが先手の新機軸か知らないが、私の知るところ、この手のテーブルセッティングは、今から10年ほど前、コペンハーゲンの「レレ」というレストランが嚆矢ではないかと思う。

あの世界一予約の取りにくい同じコペンハーゲン「ノーマ」出身のクリスチャンシェフが、自分の店を開いた時、ソムリエとの二人三脚で調理とワインのサービスをしなくてはならず、ソムリエがワインのサービスと料理の皿の出し下げに専念できるよう、ナイフ・フォーク・スプーンをテーブル下の引き出しに忍ばせた。これが人手不足の解消と人件費の削減になって、レストラン業界で注目されたのが始まりである。
ラーメン 鳴龍 山本益博 LEON.JP
▲ 南大塚「創作麵工房 鳴龍」でいただいた「坦坦つけ麵」。

日本では、富山のホテル「リバーリトリート雅楽倶」内にあったレストランが、サービスの人手があるにもかかわらず、早くもこのシステムを取り入れていた。シェフは、今を時めく「レヴォ」の谷口英司シェフで、「雅楽倶」時代、レストランは「前衛的地方料理」を名乗っていた。

「ノーマ」は世界最高のレストランと呼ばれながら、テーブル上には白いクロスが敷かれていない。この木の自然感、素朴感が支持され、この辺りから、「グランメゾン」「メインダイニング」に代わって、「ファインダイニング」という言葉が使われるようになった。「グルメ」に代わって「フーディー」と呼ばれるようになったと同じように。
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ラーメン 鳴龍 山本益博 LEON.JP
▲ 南大塚「鳴龍」でもカウンター下にも引き出しが。中には、割り箸、紙ナプキン、爪楊枝などがきれいにセットされていた。
かつて「ラーメン」が中華料理店のメニューから飛び出し、専門店化するにつれ、テーブル席は次第に消えてゆき、カウンター席が大勢を占めるようになっていった。これが1980年代のことである。

ラーメンの作り手と食べ手の距離が限りなく近くなり、さらに、食券機の導入で、一気に省力化、効率化が進んでいった。しかし、ラーメン店を誰も「ファインダイニング」とは呼ぶ者はいない。
だが、いま、着実にラーメン屋のファインダイニング化が進んでいるのではなかろうか。代々木上原に移転した「JapaneseSobaNoodles 蔦」のエントランスの臙脂のドレープのカーテンが掛かるガラス扉には「Welcome to The Wonderful World」と書かれており、初めて目にした時はびっくりした。続いて東銀座「八五」で、客席の椅子に白の布地のカバーが掛けてあるのを見て、銀座の鮨屋「すきやばし次郎」と同じではないかと感心した。
ラーメン 蔦 山本益博 LEON.JP
▲ 代々木上原「JapaneseSobaNoodles 蔦」のガラス扉には「Welcome to The Wonderful World」と書かれている!
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そして、浅草橋に新規開店した「饗 くろ㐂」に出かけて、様々な丼と製粉機、製麺機が店内に展示されていて「なんとおしゃれなラーメン博物館であることか」と感動した。まさしくラーメンのファインダイニングである。いま、ラーメンは「味」ばかりでなく、「店」も革命の真っ只中にあると言ってよいのではなかろうか。
追記 この原稿を書き上げた日に、「ミシュラン東京2024」の発表があった。ラーメンで新しい「ビブグルマン」が3軒誕生したのだが、昨年版まで1つ星だった「創作麺工房 鳴龍」「SOBAHOUSE 金色不如帰」「中華そば 銀座 八五」の3軒が揃って「ビブグルマン」へ降格となってしまった。編集方針の変更があったのだろうか、「ラーメン店のファインダイニング化」に水を差すような事件である。
山本益博 LEON.JP  ラーメン革命!

● 山本益博(やまもと・ますひろ)

1948年、東京都生まれ。1972年早稲田大学卒業。卒論として書いた「桂文楽の世界」が『さよなら名人芸 桂文楽の世界』として出版され、評論家としての仕事をスタート。1982年『東京・味のグランプリ200』を出版し、以降、日本で初めての「料理評論家」として精力的に活動。著書に『グルマン』『山本益博のダイブル 東京横浜&近郊96-2001』『至福のすし 「すきやばし次郎」の職人芸術』『エル・ブリ 想像もつかない味』他多数。料理人とのコラボによるイヴェントも数多く企画。レストランの催事、食品の商品開発の仕事にも携わる。2001年には、フランス政府より、農事功労勲章(メリット・アグリコル)シュヴァリエを受勲。2014年には、農事功労章オフィシエを受勲。
HP/山本益博 料理評論家 Masuhiro Yamamoto Food Critique

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