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2020.03.14

いま、大切なレストランを守るためにできること

新型コロナウイルスの影響で芝居やコンサート、スポーツなど多くのイベントが中止に追い込まれている。同様に大きな打撃を受けているのが飲食業界だ。特に外食産業は計り知れない危機に瀕している。我々の暮らしに大きな喜びと感動を与えてくれてきたレストランに対して、いま何ができるのか?

CREDIT :

文/仲山今日子

ここのところ、街の様子が変だ

たまには定時でまっすぐ家に帰るのも、満員電車に乗らずに在宅勤務で過ごすのも悪くない。けれども、1月中旬に始まったコロナウイルスの問題からもう2カ月。そして、まだ先が見えない状況が続いている。

もちろん、未知のウイルスに対して、最大限警戒することは必要だ。でも、だからって、街からマスクのみならず、ティッシュペーパーやトイレットペーパーまで姿を消すなんて、なんだかおかしくないか。

楽しみにしていたライブがなくなり、大きなパーティーだけでなく、気心知れた友人たちとの集まりも自粛。海外どころか、国内旅行もキャンセル。もちろん、大勢が集まることへのリスクがあるのはわかる。だけれども、これでいいんだろうか?

「不要不急」とは言うけれど、いつだって「楽しむ」ことは、人間らしい生活を過ごす上で必要不可欠なはず。今日だって、人生の中の大切な1日だ。あまり明るい話題を聞かない今だからこそ、むしろ楽しく過ごす工夫が必要なんじゃないか。

そして、日本経済への打撃は大きい。私たちの毎日の生活に潤いをもたらしてきた飲食業界、その多くは通常通り営業しているが、自粛の影響で客が入らず、苦労している所がほとんどだ。高価な厨房機器、内装、食器やカトラリーなど、大きな投資が必要なレストランは、借入金を少しずつ月々の収入から返済している場合も多い。

さらに、テナント料や光熱費、スタッフの人件費などの固定費は、客の入りとは関係なくかかってくる。「当日飛び込みでお客様が来た時に、ちゃんとお迎えしたいから、予約数が多くなくても、新鮮な食材を仕入れ、仕込みもしている。これが続けば、閉店せざるを得ないかも」という、悲痛な声も聞こえる。そして、食材の生産者も、落ち込む売れ行きに苦悩している。
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私たちは何を怖がっているのだろう

うれしい時や、逆に元気を出したい時。レストランはいつも、私たちの傍にあった。だからこそ、これからもずっと傍にあってほしい。

いつも以上に衛生面で配慮をするなど、対策を取っている店も少なくない。正体をつかみ切れていないウイルスを軽視することはできないけれど、このまま訪れる人がいなければ、飲食業界全体がダメージを受け、経済そのものも回らなくなってしまう。
こんな状況に、営業体制を変えるなど、いち早く対応したのは、東京・麻布十番で希少な石垣島産のブランド牛を扱う、ミシュラン1ツ星の高級鉄板焼き店「石垣吉田」だ。日本の和牛は世界でも人気が高く、海外からの客が半数を占め、約2割が中国からの富裕層。実際にカウンターで香港人の客と隣り合った日本人客から、コロナウイルスを心配する声が上がったため、2月17日から、10席あるカウンターは12時、17時、19時〜とランチタイムからの3回転制をとり、カウンター全体の貸切に。

通常貸切は最低40万円の最低オーダー料金が必要だが、WHOによるコロナウイルス終息宣言発表まで、最低料金なく、1名から貸切を受け入れる。シェフとの会話が楽しめて贅沢な気分が満喫できると、評判も良いという。来店者には入店の際に、手指のアルコール消毒をしてもらい、店内に最新のオゾン発生機を導入する、化粧室は誰かが利用する毎に清掃するなど、衛生管理には特に気を配っている。

吉田純一オーナーシェフは、「豊洲市場や、産直で仕入れているカニやアワビなどの水産業者は、発注数が激減して死活問題だと聞きます。3月から新しく始めたランチタイム営業は比較的予約が取りやすいので、ぜひ問い合わせてほしい」という。

そう、これまで、なかなか予約が取れなかった店だって、今なら比較的簡単に席が取れる。それだけではない。これを機に、新しいサービスを始めた店も出てきた。
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今だからこそ「季節を愛でる」老舗の持ち帰り弁当

例えば、450年以上の歴史を持つミシュラン3つ星の京懐石の店「瓢亭」の東京店では、今月1日から、事前予約制で持ち帰りの弁当を始めた。15代目の髙橋義弘氏は、「明るい話題の少ない今だからこそ、美味しいものを食べてホッとしてほしい」と語る。
東京店は2018年、唯一の支店として日比谷ミッドタウンに開業。これまで折詰弁当のリクエストはあったものの、日々の営業で多忙のため対応できなかったが、比較的時間ができたことも理由の一つだ。カウンターだけでなく、個室と茶室があるため、他のグループの客を気にせず食事を取ることもできるが、「お客様が旅行やイベントを取りやめるため、キャンセルは避けられない」という。

髙橋氏は食品メーカーなどの監修などの仕事なども受けているため、店の収入だけに頼らない経営ができているが、準備していたデパートでの催事が前日に中止になるなどの痛手もあり、「長期化すれば厳しい」と語る。「そんな中でも、来てくださるお客様がいる。自分たちにできるのは、いつもよりも一層、お客様に楽しんでもらえる工夫をしてゆくことしかない」という。お話を伺った個室には、幸先の良い宝船の掛け軸が掛かっていた。

「今だけ限定」のテイクアウト、人気料理を冷凍で全国発送

また、持ち帰りだけでなく、普段は行わない、地方発送などの対応をしている店もある。東京・目黒川沿いの桜並木の絶景を望むイタリア料理店、「カシーナ・カナミッラ」では、店頭でクレープのようなイタリアの軽食「クレーシャ」(税込1000円)を販売する他、温めるだけで食べられる、ソースとセットになった冷凍アニョロッティ(税込1500円)を地方発送しており、北海道から沖縄まで、既に200セットを越すオーダーが入るなど、人気を博している。
本来、桜の時期は常に満席、問い合わせの電話が鳴り止まないが、今は空席があり、3割ほど減。しかし、テイクアウトと地方発送で、損失分は補完でき、むしろ3月1週目の売り上げは前年を上回ったという。

店のスペシャリティでもあり、自宅で作るのが難しいアニョロッティが、冷凍で好きな時に好きなだけ食べられるという手軽さだけでなく、作り方を書いた紙を入れ、手順を動画に撮り、買ってくれた人に送るなど、食べる人に寄り添ったきめ細かいサービスも人気の理由のようだ。

岡野健介シェフは「全国の様々な家の皿に自分のアニョロッティが乗っているのを見るのも楽しかったですし、写真をSNSにあげてくださる時に、店にチェックインされている、店で食べるような楽しさを提供できたかな、とうれしくなりました」と語る。

実際のところ、配送そのもので得られた売り上げだけでなく、受け取りがてらランチを食べに来たり、届いてから予約してくれた客に支えられたという。

「人の温かさと繋がりを実感しましたし、店全体の姿勢を考える上でも、とても大きな気づきを与えてくれました」。期間限定での地方発送の受付は終了したが、今後も不定期に行うことを検討しているという。
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危機的状況が生み出した「つながり」

また、これを機に「自宅でフランス料理を気軽に味わってほしい」と、コラボレーションセットを開発したのが「モノリス」と「エンメ」だ。フランス料理店「モノリス」から2人前のリエット、スープ、鴨のコンフィ、鶏のバスク風、和牛ホホ肉の赤ワイン煮などの料理、デザートとワインの楽しみ方を提案する「エンメ」の焼き菓子をつけたセットを、2月29日に20セット限定、2万円で売り出した。

「メインディッシュに当たる肉料理が3皿あり、数日間は楽しめる内容になっている」という。人気のため、定期的に販売していくことも検討中だ。
世界No.1バーテンダー、後閑信吾氏が2018年に東京に初めてオープンしたバー「SGクラブ」は、日中は子連れの入店も可能でカフェ的な利用もできるが、公立の小中高校の休校で、牛乳の消費が減って酪農家が苦悩していることから、子連れ客に、4月3日までノンアルコールのミルクパンチの無料提供をスタートした。

SNSでその投稿を見て共感した、東京「青梅ファーム」の太田太氏がオーガニックの生蜂蜜を無償提供することで、オーガニックの生蜂蜜牛乳の提供も始めるなど、新たな広がりが生まれている。

飲食業界が苦悩する時代だからこその支え合い

本格的な料理のテイクアウトや地方発送などは、毎日の生活をより豊かにするだろうし、新たなサービスのニーズが生まれるかも知れない。徹底した衛生管理は、今後のより高い安全性を持った食の提供に役立つかも知れない。

また、一概に店に行くのが危険とも言い切れないだろう。ここのところ感染者が急激に増えたイタリアのように、飲食店に全面営業停止の命令が出てしまえばなす術もないが、日本では今のところ、比較的安定した状況が続いているように見える。状況は予断を許さないが、現状が続くようであれば、最大限配慮をした上で、楽しむことだってできるのではないだろうか。例えば、キャンセルが続き、貸切状態の店での感染リスクは、一体どれくらいあるのだろう?

もちろん、自分の健康状態に問題がないというのは当然の前提ではあるが、混雑した時間帯の公共交通機関の利用を避け、前出の貸切営業や、個室利用、間隔をあけたテーブル配置など、十分に対策をしている店を選ぶことなどでリスクは最小限に抑えられるはずだ。今なら、ずっと予約の取れなかったあの店でだって、食事ができるかも知れないのだから。

この新型コロナの問題が終わった時に、レストランとゲスト、またレストラン同士の新しい関係性が築けていた、楽観的かも知れないけれど、そんな未来を夢見たい。

さて、どこに食事をしに行こうか。飲食業界のために、そして、自分の今日という日を慈しむために。

● 仲山今日子(なかやま・きょうこ)

テレビ山梨・テレビ神奈川アナウンサーなどを経て、World Restaurant Awards審査員。現在、食と旅をテーマに日本とシンガポールの雑誌に日本語・英語で執筆中。趣味は秘境旅行、キリマンジャロ登頂など、訪れた国は50カ国以上。ワインエキスパート、日本酒唎酒師の資格取得。IG:kyokonakayamatv

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