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2018.07.10

「ヘルノ」が次世代イタリアブランドのベンチマークである理由

今年創業70周年を迎えた「ヘルノ」が改めて注目されている。ファッション業界が大転換期を迎えているなか、メイド・イン・イタリーに拘るヘルノが、なぜ時代に適合でき、さらに躍進できているのかを考える。

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取材・文/前田陽一郎(LEON.JP)

HERNO Laminar SARTORIAL ENGINEERING。

「ヘルノ」の「ラミナー(Laminar)」シリーズは、防水耐久性、防風性、透湿性のうえに軽量であるという最先端ファブリックを用いた高機能ラインとして高い人気を誇っている。この「ラミナー」製品のインライニングに縫い付けられたタグには、上記のような表記が確認できる。

サルトはイタリア語で職人を意味し、エンジニアは英語で技術を意味する。興味深いのはここでヘルノは“SARTORIAL”に “ENGINEERING”という言葉を続けた点だ。辞書を開くと “ENGINEERING”とはそれが科学技術も含めた生産技術を指す言葉であることがわかる。つまりSARTORIAL ENGINEERINGとは、イタリアの職人技に則った最新技術を意味している。

ここに「ヘルノ」ならではのモノ作りへの姿勢が伺える。
HERNO/ヘルノ/ラミナータグ
「ラミナー」シリーズのタグ。SARTORIAL ENGINEERINGが「ヘルノ」の姿勢を象徴する
時代に対応するいくつかのファクター
ファッション業界が急速な変化を余儀なくされている今、なぜここ数年で「ヘルノ」は世界的な成長を遂げられたのか。もちろんそこにはいくつかのポイントがある。それをLEON.JPの主観も交えて列記してみる。

1) ハイテクファブリックのいち早い導入
2) 職人技術とハイテク生産技術の統合
3) エシカルでサスティナブルな企業姿勢の表明
4) オケージョン・ファッションとピュア・ファッションの認識

こうして挙げていくと、どれも今では当たり前とされるようなキーワードが並ぶように見えるが、これらの施策を絶妙なタイミングで展開できていることに「ヘルノ」の強さがある。
HERNO/ヘルノ/ラミナー
2010年秋冬メンズコレクション。シンプルで都会的なデザインに着脱可能なチェスタウォーマーを備える

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レインコートから世界へ

レインコートから世界へ
1948年、ジュゼッペ・マレンツィによってレインコートの製造ブランドとして誕生した「ヘルノ」は、1960年代にはダブルフェイスに特化したカシミヤコートの製造にも着手し、ヨーロッパ全域で販売されるコートブランドへと成長している。さらに1968年には、アジアでも突出して成長の可能性が見られた日本に進出。日本初のブティックをオープンさせる。1980年代にはアメリカへも進出、1990年代には「ヘルノ」ネームの商品製造と並行して、世界的なイタリアファッションの流行を支えるOEM(委託生産)を大々的に行なっている。
とはいえ現在の「ヘルノ」は、現社長兼CEOであるクラウディオ・マレンツィによる改革によるところが大きい。
2007年にチーフエグゼクティブ・オフィサーに、2011年に代表に就任したクラウディオ・マレンツィは、90年代に売り上げの重要な部分を占めていたOEM事業から、再び「ヘルノ」ブランドを中心にした事業へのシフトを敢行、同時にイタリアが誇る伝統的な職人技術と高級天然素材に、サーモテープや超音波縫製を用いた生産方法の導入と、スポーツウエアで使用されるハイテクファブリックを組み合わせた商品を作るという大胆な変革を行った。
HERNO/ヘルノ/クラウディオ・マレンツィ
クラウディオ・マレンツィ代表兼CEO。現在56歳。趣味はコンテンポラリーアートとスポーツ全般。 2016 年、弱冠 54 歳でイタリアの功労勲章「カヴァリエーレ デッララヴォーロ」を受章。2017 年からはイタリア産業総連盟のひとつ「Confindustria Moda」の代表にも任命されている。2017年より『ピッティ・イマージネ・ウォモ』の代表
試作品をバットで殴る!?
印象的なエピソードがある。

5年ほど前のピッティ・イマージネ・ウォモ。クラシコ・イタリアを代表する老舗ブランドがブースを連ねるメイン・パビリオン内の「ヘルノ」ブースでは時折‘バンッ’という鈍い音が響いていた。なんとそれはバットで試作品を殴るというパフォーマンスだった。クラシックなイタリアンスタイルのスーツで身を包んだブランド関係者やバイヤーが行き交う中でのこのパフォーマンスはあまりにも異質に映ったものだ。

これは「ヘルノ」が開発したオートバイ・ライダーのためのエアバッグ内蔵ジャケットの試作品のデモンストレーションだったのだが、そのインパクトはもちろんながら、そもそも上質なコートブランドとして知られる(2007年にスタートする超軽量パッカブルダウンウエアはすでに世界でも人気商品となっていたが)「ヘルノ」が、テクノロジーを前面に押し出した製品作りに舵を切ったことそのものに驚きがあった。

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エシカルな活動とサスティナブル経営

この頃を境に「ヘルノ」はそれまでも売り上げを順調に伸ばしつつあったダウン製品のラインナップを拡充しながら、ナイロン素材を積極的に取り入れたコートやアウターのラインナップを増やしていったようだ。

ファッションのトレンドがストリート&スポーツへと急速に展開し、その流れがもはや必然とまで考えられるようになりつつある今ならともかく、まだ一部で囁かれ始めていたばかりの“ノームコア”への流れは一時のトレンドと見る節もあったし、この頃のピッティの老舗スーツブランドのトレンドが“クラシック回帰”だったことを見ても、当時の「ヘルノ」がいかに特殊だったかは想像いただけると思う。
エシカルな活動とサスティナブル経営
以降「ヘルノ」は毎年およそ25%近い成長を遂げている。公表されている直近2017年の数字を見ると売上高は前年比26%増の9600万ユーロ。収益の66%は海外マーケットによるもので、うちヨーロッパが収益の21%(28%増)、日本が24%(71%増)、営業所ができたばかりのアメリカ・カナダが9%を占める。

とはいえ代表であり、改革者でもあるクラウディオ・マレンツィが、ハイテク信奉者でも利益追求型のビジネスピープルでもないことは彼の活動でも明らかだ。
2013年7月から2018年3月には40万5000人以上の労働者、4万7200を超える企業からなる組合「Sistema Moda Italia(SMI)」の代表を務め、メイド・イン・イタリーの規範作りや周知活動、トレードショーシステムの強化を行っている。同時に2013年にはピッティ・イマージネ・ウォモの副代表兼アドバイザーに、2017年からは代表にも就任している。それらの活動を通じて、イタリアの中小企業の存続と、職人の保護・育成に従事することもまた、「ヘルノ」の企業スタンスを明確化させている。
ヘルノ/HERNO
自然に囲まれた本社
さらにフェザーなどの生産・製造元を明確にし、それを直轄管理するなどして、品質と生産環境の管理にも余念がない。さらに「ヘルノ」の本拠地であるレーザに所有している本社はエルノ川沿いの豊かな自然の中に位置し、最近リノベーションされた新社屋の外壁は植物で覆われ、街の美化と調和に取り組んでもいる。19世紀に建てられたという工場は抜本的な改修工事を経て、ソーラーパネルの設置と低消費型機械の導入により、生産エネルギーの自給自足にも成功しているそうだ。

これらはすべて海外、とりわけアメリカのラグジュアリーマーケットで一流のブランドとしての地位を確立するには必然でもあるが、何よりクラウディオ・マレンツィが考える“ニューラグジュアリー”への回答と「メイド・イン・イタリー」の新たな付加価値のための施策と見てとれる。

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今と未来を見据えたデザイン

今と未来を見据えたデザイン
また「ヘルノ」の製品群は、オケージョン・ファッションとピュア・ファッションのふたつの方向性に大別できる。

オケージョン・ファッションとはその名のとおりに場所や目的、時間や天候に応じた生活の一部としてのファッションを指す。創業地であるマジョーレ湖周辺は高温多湿の地域で、そのために高品質なレインコートが必要だったことが「ヘルノ」の礎であるように、「ヘルノ」はそもそも生活のための高品質な洋服を提供するライフスタイル・ウエア・ブランドである。そういう意味では世界的なヒットを記録したライトウェイトダウンも、ダブルフェイスのカシミアコートも、「ラミナー」のそれぞれのラインナップもすべてデザインは最小限に抑えられ、どのような洋服、どのような場所でも馴染みやすい配慮がなされている。

とはいえファッションとはオケージョンによらず、純粋にデザインそのものを楽しみたいという側面も併せもつもの。コンテンポラリーアートに情熱を注ぐクラウディオ・マレンツィ代表が自社の製品に、オケージョンへの対応だけでなく、夢や美を反映させようとするのは当然のことだろう。こうして誕生したウィメンスの「Signature」コレクションやカルロ・ヴォルビ、MILANO140といった若手デザイナーとのコラボレーションラインであるメンズの「HERNO UNTITLED」ラインに見られるのは、いつ・誰が・どこで・何のために着るという設定から解き放たれた純粋にファッションデザインの可能性への施策だ。
これらふたつのラインがともに刺激し合うことで、今とこれからに迅速に対応できるデザインのケーススタディを続けていることも「ヘルノ」が巧妙に時代へのフィッティングを可能にしている要因ではないだろうか。
70周年を迎えて
去る6月12日から14日、ピッティ・イマージネ・ウォモの会期中にレオポルダ駅を使用して開催された「ヘルノ」創業70周年を記念したインスタレーションは、1948年創業時の写真と(見事に保管された)製品に始まり、ジュゼッペ・マレンツィの愛したアルファロメオ、50周年ともなる日本との関係、「ラミナー・バイク」シリーズのフルラインナップ、ポリモーダ(イタリアの服飾学校で世界で10本の指に入ると言われる)と大阪文化服装学院の生徒たちがクリエイティビティを発揮したしたフリースペースなどで構成された、まさに「ヘルノ」のアイデンティティそのものだった。
「“ヘルノは進化と機能性、テーラリングを軸とした視点からブランドを発展させていくことができる” わたしは2005年より、いかなる工程においても、この信条と自負を基礎として事業を進めています。〜ヘルノの原点回帰は、いたって自然にして本質的な、いわば運命付けられた方向転換だったのです」

と、このインスタレーションの最後にクラウディ・マレンツィは書いている。

ファッション業界の大転換期、「ヘルノ」のニューラグジュアリーはひとつのベンチマークとなるはずだ。

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