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2018.04.27

来季のサルヴァトーレ フェラガモに見る、一族経営ブランドの可能性

来季のサルヴァトーレ フェラガモが高評価を得ている。それは近年のファッションに求められるデザイン、クオリティ、アイデンティティにフィロソフィという、4つのエレメントの巧妙なバランスによるものだった。新しいデザイナーを迎えて発信した2018AWコレクションを例に、フェラガモと現在のファッションを読む。

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取材・文/前田陽一郎(LEON.JP)

ファッション業界が大きく変動している。

これは日本に限った話ではない。世界規模で展開するファッションブランドも同様、新しい戦略に沿った変化が求められている。

その変化の時代を牽引するのがLVMHやケリングといった巨大グループのブランドたち。一時期はファストファッションなどに押され気味だったこれらブランドは、デザインの刷新はもちろん、デジタルコミュニケーションを駆使した圧倒的規模で、力強く飛躍期に転じつつある。

一方でそれらから“二匹目のドジョウ”が生まれるかというと、そう簡単に行かないのが現代のファッションビジネスの難しいところだ。時代の大きな流れはありながらも、もはや同じ流れを同じブランドや同じ着こなしで共有するというトレンド消費は存在し難い。

それをマーケットの成熟というかはさておき、ファッションに消費者が求めるものがトレンドだけによらない何か、に移行していることもまた確かだ。

そこで存在感を示し始めているのが前述のようなグループを形成しない独立系ブランドの動向。特にデザイナー主導ではない「ファミリー」の経営によるブランドは、この混乱期に乗じて自分たちの本来のあるべき姿に回帰しつつあり、それは結果、強固なアイデンティティを示すことに成功しつつある。
サルヴァトーレ フェラガモ デザイナー ポール・アンドリュー ギヨーム・メイアン
写真右/メンズ レディ・トゥ・ウェアのデザイン・ディレクター、ギヨーム・メイアン、左/ウィメンズ クリエイティブ・ディレクターのポール・アンドリュー
あのサルヴァトーレ フェラガモ(以下フェラガモ)も2018AWを一つのターニングポイントとして舵を切りつつあるブランドのひとつ。

ミラノで開催された、メンズ・レディスの合同ショーではその変化と決意が強く見られた。

大きな変化としてはまず以下(1)のように、メンズ・レディスのデザイナーをそれぞれ新しい専任のデザイナーに振り分けた。メンズはレディ・トゥ・ウェアのデザイン・ディレクターとしてギョーム・メイアン、ウィメンズはクリエイティブ・ディレクターという肩書きでポール・アンドリューが着任している。
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2018AWのフェラガモの主なポイントを大別すると
1) 新デザイナーによるトータルコレクション
2) エレガントで上質感ある色使い
3) 高いクオリティに裏打ちされた贅沢な素材使い
4) 控えめなデザインで表現する時代性
5) 効果的なアイコンの使い方
などといったところか。

(2)に関して。プレスリリースには「一番大事にしたのはカラーパレットです。メルローレッド、マスタードイエロー、パラキートグリーン、深いヴァチカンブルーなど様々な発色のよいカラーをヌードやブラッシュカラーとミックスしています」とあり、それらはブランドの発祥の地であるフィレンツェを想起させる。

ストリートやスポーツといったアクティブでテクノロジーを伴ったワードがトレンドとなっているなかで、この落ち着いたイタリアならではの色選択は、他のブランドと呉越同舟ではない、自分たち“らしさ”の標榜とも見てとれる。メンズ・ウィメンズともに同じカラーパレットをベースに置いているがどちらの発色も素晴らしいもので、この辺りはさすがフィレンツェ発祥のブランドとしての面目躍如といったところか。
(3)も同様に、現在主流となるテック素材を前面に押し出すのではなく「贅沢なレザー、イタリアンウール、リッチなシルクツイルやソフトコットン」といった高価でトラディショナルな素材がメインという構成。最高級素材を惜しげも無く使いながら、決して華美になることがないように、上品なカジュアルウエアへと仕立てているのもうまいと思う。

ちなみに“華美にならないように”というのは決して地味という意味ではなく、むしろエレガントに、というニュアンス。特にフェラガモにとってはイタリアン・シックこそがアイデンティティの一部のはず。この視点から見てもカラーパレット同様に、原点回帰ととれなくもない。
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また(4)においても、デザインは最小限に留めながら、サイジングや丈感を若干オーバーサイズで仕立て、ディテールを現代的にアレンジしているところが絶妙な塩梅で、やはり全体としてアイデンティティへの回帰が見てとれるところも好感がもてる。

フェラガモは確かにモードのエッセンスを色濃くもったブランドではあるが、同時にファミリーの伝統とモノ作りへのこだわりというクラシックな一面も併せもつ、イタリアらしいブランドでもある。ギヨームもそこは強く意識していて「サルヴァトーレ フェラガモとはどうあるべきか、を常に最優先に考えた」と話している。
(5)に関しては写真をご覧いただければ一目瞭然。今回のメンズコレクションで唯一のグラフィカルなポイントとして使われたのが、レザーシューズのヒールにあしらわれた、巨大なガンチーニ。これもまた解釈いかんではブランドのアイデンティティの表出そのものだ。
サルヴァトーレ フェラガモ 2018AW ガンチーニ
メンズコレクションの足元を締めたのはこの大ぶりのガンチーニ。確かになかった!というアイデアだ。
しかもコレクションルックに一切スニーカーの類が使用していないのは驚きだった。シーズンインしてからその商品群の中にスニーカーがラインナップされる可能性はあるものの、来季の方向性を指し示すショーピースの中にスニーカーが入っていないことは他の多くのブランドがミレニアル世代をターゲティングするのに反して、あくまでも「エレガンスをもった大人のための」ブランドであることを改めて印象づけようとしたように見える。

そして気になったのがガンチーニの存在感に負けないインパクトを遺したバッグのラインナップ。とくにいくつかのルックで使用されていた下の写真のボストンバッグは上質なサドルカーフの他、オーストリッチでも展開され、様々なルックで使用されていた。聞けばデイリーに使える小ぶりなサイズの展開もあるようで、フェラガモのアイコニックピースとなる可能性も示唆している。
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スタジオバッグ サルヴァトーレ フェラガモ 2018AW
実はこのバッグは両サイドを畳むことができ、さらにストラップをかけてショルダーバッグとしても使える工夫が。
スタジオバッグ サルヴァトーレ フェラガモ 2018AW
久しぶりに登場した、男性目線でキャッチーなバッグだと思うのだが。今後の派生モデルにも期待したいところ。
概ねこのコレクションはファッションジャーナリストにも好評だったようで、それはもうおわかりのとおり、自分たちのアイデンティティをバランスよく再構築したことに他ならならない。

激変するファッションの世界で、多数を横目に自分たちの道を歩くことは判断の難しいところ。けれどもそれができるのは、オウンリスクでジャッジができる一族経営によるブランドならでは。むしろこういう“個性”こそが一族経営によるブランドの魅力であり、本来ファッションがもつべき楽しさだ。

気になるのはこれら商品の価格帯。相当のクオリティの素材を投入したコレクションゆえ、高額商品のオンパレードになってしまうのではないか…。いくつかのアイテムの購入を本気で検討している筆者としては、そこだけはカジュアルにと願っているのだが。
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