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2020.03.14

メンズスーツに革命を起こした男の秘密

84歳アルマーニが見せた"美意識"に学ぶこと

昨年5月に銀座アルマーニタワーで行われた記者会見。ジョルジオ・アルマーニはインタビューが行われた60分間、美しい姿勢を保って1度も座らなかった。当時の彼は84歳、恐ろしいほどの美意識だ。ストイックすぎるアルマーニのモチベーションはどこからくるものなのか? 『「イノベーター」で読むアパレル全史』の著者・中野香織氏が解説します。

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文/中野香織(服飾史家、Kaori Nakano代表取締役、昭和女子大学客員教授) 

記事提供/東洋経済ONLINE
ジョルジオ・アルマーニのモチベーションはどこからくるものなのか? (c)Giorgio Armani

男性像、女性像に大きな変革をもたらしたアルマーニ

優れたファッションデザイナーとは、服よりもむしろ、時代が求めている人間像をデザインする力のある人のことである。ジョルジオ・アルマーニは、まさにその1人である。

20世紀において、男性像、女性像の両方に大きな変革をもたらした。アルマーニは1975年に41歳でジョルジオ・アルマーニ社を設立した。医学部で人体構造を学んだ経験を生かし、メンズスーツに革命を起こす。

固い芯地でよろいのように男性を武装させていた従来のスーツの構造を解体し、つややかで柔らかな素材を使い、芯地のないアンコンストラクティッド(unconstructed:堅牢な構築物ではない)という製法のジャケットを世に出した。

着る人の骨格の動きを流麗に見せるスーツは、映画『アメリカン・ジゴロ』(1980年)で主役のリチャード・ギアの衣装に採用され、アルマーニのスーツは社会現象にまでなった。官能的なアルマーニのメンズウェアを身に着けたギアは新たな時代を象徴する男性像となり、1980年代の男性は、個性やセクシーさを表現することを楽しみ始めた。

一方、1980年代は女性の管理職やトップが活躍し始めた時代でもある。イギリス初の女性首相マーガレット・サッチャーが登場したのも、まさにこの時代。アルマーニはメンズウェアで成功した手法を女性服に応用し、女性に優雅な貫禄と威厳を与えるスーツを作った。

それまでは女性が着る仕事服といえば、有能な秘書に見えるようなワンピースやアンサンブルがほとんどだった。だが、彼が上質な素材で作る高級テイラードスタイルは、女性の品位とトップの威厳を両立させるもので、服により自信を得た女性は、より高いステージで活躍の場を広げた。

このようにアルマーニは、つねに時流を先導し、男女双方の願望を後押しするような作品を創造してきた。
2019年5月来日時のジョルジオ・アルマーニ(アルマーニ銀座タワーの前で(写真:筆者提供)
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デザイナーにして経営者という立場を守り抜く

また、彼はビジネスマンとしても手腕が高く評価されている。

1990年代に起きたラグジュアリーブランドの買収戦争に巻き込まれることなく、主任デザイナーにして経営者(単独株主の代表取締役社長)という立場を守り抜いてきた。そのうえで会社をインテリア、レストラン、ホテルなど幅広い分野をカバーするトータルライフスタイルブランドに育て上げたのだ。

デザインと経営、双方のキャリアを築いた背景には、1つの別れがあった。公私ともにパートナーだった10歳年下のセルジオ・ガレオッティを失った経験である。彼はアルマーニとともにブランドを立ち上げ、経営や対外的な仕事を担っていたが、1985年に40歳の若さで他界した。支えを失ったアルマーニは絶望し、しばらく引きこもる。

だが、デザイナーにして経営者という2つの顔を兼備して再出発するのである。

その後はクリエーティブな才能を戦略や財務の分野にも発揮し、独創的な宣伝戦略を展開していった。前述の『アメリカン・ジゴロ』の話にしても、映画に衣装を提供するという手法をいち早くとった広報戦略である。現在ではごく一般的に行われている「セレブリティ・エンドースメント(有名人お墨付き=アカデミー賞授賞式などに出席するスターに自社の衣装を着てもらう宣伝手法)」は、アルマーニの発想に端を発している。

サッカー選手のイングランド代表チームのスーツを2回デザインしていることをはじめとし、オリンピックでのイタリアチームのユニフォームを作るなど幅広くスポーツ界にも貢献している。

サッカー選手がスタイルアイコン(映画やCM、公私にわたる言動などを通じて大衆につねに存在感とファッションを意識されている人のこと)になりうることにいち早く注目し、ほかのブランドに先駆けてサッカー選手のスーツを作った慧眼には驚かされる。

時代を見抜き、行動を起こす俊敏さの例は枚挙にいとまがないが、中でも特筆すべきは慈善活動である。まだ今ほど「CSR(=Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)」や「SDGs(=Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」が声高にうたわれていなかった時代から、アルマーニは、エイズ対策支援をはじめ、医療・教育機関への支援を中心に、多岐にわたる慈善活動を精力的に行ってきた。

東日本大震災の直後にも、日本に捧げるプリヴェ・コレクション(オートクチュールのコレクション)をいち早く発表し、日本を力強く励ました。震災孤児への経済的支援も行った。そんなスマートな慈善の流儀が、彼を尊敬に値する大物へと押し上げてもいる。「BMI(=Body Mass Index:肥満度を表す体格指数)が18以下のモデルは使わない」という決定をいち早く下したのもアルマーニである。
2019年5月、銀座アルマーニタワーで行なわれたアルマーニのプレス会見(写真:筆者提供)
絶望に立ち向かって運命を切り開き、数々のアイデアで人々に影響を与えてきたアルマーニ。2019年5月に来日した際、東京国立博物館表慶館でのショーの前日には、記者会見を行った。「プライベートライフは、ない。お楽しみは、ごく少しだけ」「1つだけ願いがかなうなら、不死身になりたい」と語り、アルマーニが仕事人間であることを改めて納得したのだが、何よりも私が心打たれたのは、アルマーニの態度そのものであった。

記者たちの多様な質問に対して、およそ60分の会見の間、当時84歳のアルマーニは、美しい姿勢を保って立ったまま、丁寧に話し続けたのである。若いスタッフたちが疲れて座り始めたというのに。驚異の体力というよりもむしろ、美意識の高さと意志の強さ、そして記者たちへの敬意とサービス精神が伝わってきた。
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ネイビーブルーをまとっている理由

今も記憶に残るのは、「強い男とは、自分が強いということをあからさまに見せない男」という名言と、「ネイビー」という色をアルマーニが最も好む理由である。

ネイビーブルーは、人との正しい距離感を作ってくれる色だ、とアルマーニは語るのだ。拒絶せず、オープンで、しかし、なれなれしくなるほどには近づかない。紳士的態度を保つことができる色、それがネイビーブルーであると。媚びず、群れず、拒絶もせず、紳士的に開かれているという好ましいノンシャラン(無関心)を自然に演出できる色として、アルマーニ自身がつねにネイビーブルーをまとっている。
時代が求める男性・女性それぞれの理想像をファッションによって作り出し、結果として時代の流れに強い輪郭を与えるイノベーティブな仕事を成し遂げた。さらに40年以上にわたり、ブランドコングロマリットの傘下に収まることなく、独立したブランドとして第一線で文化的・社会的にも影響力を発揮し続ける。

その偉業の秘訣は、「生きる意義は、ミステリー。ただ在るだけ」とまるで禅僧のように人生を達観しつつも、厳しくエレガントに仕事に向かう、ストイックな姿勢そのものにある。そうしたアルマーニの在り方そのものが、人間が意志と努力によって到達しうる1つの理想の姿として、私たちを魅了する。

『「イノベーター」で読むアパレル全史』

不振にあえぐアパレル業界──。前衛的なものを創造しなければ、この逆境を乗り越えて生き残ることはできません。そうした創造は容易ではありませんが、「温故知新」という言葉があるように、客観的な視点で過去を振り返れば、現在や未来を考えるためのヒントが見つかるのではないでしょうか。本書は、こうした問題意識のもと、アパレルやファッションの分野で革新的な功績を残し、業界の常識、そして社会に変革をもたらしたデザイナー、経営者、ディレクターなどイノベーター(変革者)に焦点を当ててアパレルの歴史を概観する一冊です。
著者/中野香織 日本実業出版社刊 本体1800円+税
https://www.njg.co.jp/post-32149/

当記事は「東洋経済ONLINE」の提供記事です

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