2019.07.31
ポロシャツがファッションアイテムになった理由とは?
Tシャツと並ぶ夏の2大トップスといえばポロシャツ。半袖のカットソーという楽チンなアイテムでありながら、襟付きという大人の安心感があり、夏には欠かせないって方も多いかと。そんなポロシャツはいつ誕生し、どのようにサマーファッションの定番となったのか。意外と知られていないその経緯をあらためて振り返ってみましょう。
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文/竹石安宏
生粋のスポーツウェアとして誕生
当時テニスはヨーロッパで人気のスポーツでしたが、選手たちは純白の長袖シャツとロングパンツという、格式高いながらも動きやすいとはお世辞にも言えない服装でプレーしていました。それはテニスがまだ上流階級のスポーツであったためでもありましたが、そんなテニスのユニフォームに不満を抱いていたひとりが、フランスのプロテニスプレーヤーだったルネ・ラコステです。
のちに数々のスポーツグッズを発明して成功を収めるラコステは、旺盛な発明家精神の持ち主であり、不快なユニフォームをなんとかしたいと長年考えていました。その契機となったのが1932年、フランスで大手の繊維メーカーを経営していた人物、アンドレ・ジリエとの出会い。
ラコステに相談されたジリエは、当時画期的だったコットンピケ(鹿の子)を開発。この伸縮性に富み、通気性と吸・放湿性に優れる素材を用い、ラコステは半袖襟付きのユニフォームをデザインします。こうして革新的なテニスウェア、ポロシャツが1933年に誕生したのです。

首元の日焼けを防ぐため、立てやすくなっている台襟なしのニット襟。脇から滴ってくる汗を受け止める、半袖に取り付けられた袖リブ。タックインしても動きやすくなおかつずり上がりにくい、「テニステイル」とも呼ばれるロングテイルと脇のスリット。そして生地に使われたコットンピケはいわば当時のハイテク素材です。このようにポロシャツのすべてのディテールには意味があり、機能が込められているのです。
こうしてラコステによって世に送り出されたポロシャツは、当初「ラコステシャツ」という商品名でテニスやゴルフ向けに販売されましたが、いつの間にかポロシャツと呼ばれるようになります。
その評判を聞きつけた、同じく上流階級のスポーツだったポロ競技の選手も着用するようになり、アメリカでそう呼ばれるようになったという説が有力ですが、呼び名に関してはっきりとしたことは不明です。
いずれにしろ、優れた夏期用スポーツウェアとして欧米を中心に普及します。そして1950年代、ラコステはファッション業界に進出し、ファッションアイテムとしてポロシャツを提案するようになるのです。
流行を繰り返す市民のファッションアイテムに
なかでも最初に飛びついたのが、洒脱なハリウッドスターなどのセレブたち。新しいものを憧れのセレブが身につけ、それを見た一般大衆にやがて広まっていくという構図は、今も昔も変わらないんですね。このようにしてポロシャツは、1960年代にはファッションアイテムとしても市民権を得るようになったのです。


上流階級が作った既存の文化とは違ったモダン(=Mod)なファッションや音楽を求めるライフスタイルだったモッズですが、その支持者が好んで着用したのが英国フレッドペリーのポロシャツでした。タイトなサイズのポロシャツのボタンをすべて留め、細身のパンツとM-51(通称モッズコート)をガバッと羽織る着こなしが彼らの定番だったのです。
そんなポロシャツの着こなしは、1960年代後半にモッズの分派として生まれたスキンヘッズ、そして1970年代後半に労働者階級出身のロックバンドであるザ・ジャムの登場や映画『さらば青春の光』によって再熱した、ネオモッズにも受け継がれていきます。
こうした英国ユースカルチャーにおけるポロシャツの流行で象徴的なのは、大英帝国の没落による窮状を打破すべく立ち上がった労働者階級が、かつて上流階級のものであったポロシャツを好んだということ。これはポロシャツが、完全に市民のファッションとなった証とも言えるでしょう。



そして幅広い世代に愛される定番ワードローブへ
その流れは1990年代のヒップホップスタイルとも地続きになっており、そこでは同じくラルフ ローレンがビッグシルエットを採り入れた“ビッグポロ”や、トミーヒルフィガーのポロシャツをオーバーサイズで着こなすヒップホップスターたちが登場。この当時の着こなしは、90’sリバイバルが旬な現在のお手本ともなっています。
その後もラルフ ローレンのデカロゴポロ“ビッグポニー”や、ビジネスシーンでも着やすいように進化したラコステの“ビズポロ”など、流行を繰り返してきたポロシャツ。

それはポロシャツが幾多の流行を経ることにより、シャツやジーンズのように、大人を含む幅広い世代の定番ワードローブとして定着したからと言えるでしょう。