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2018.11.02

いま、知っておくべき現代美術作家、杉本博司とは何者か?

写真を始めとして建築や舞台演出などさまざまな分野で作品を発表し、世界的に高い評価を受ける現代美術作家、杉本博司。いま開催中の3つの展覧会から彼の世界観の秘密を探ってみました。

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文/森本 泉(LEON.JP)

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杉本博司と言えば、日本を代表する現代美術作家であり、写真家であるというのは皆さんご存知のとおり。けれど、近年は舞台演出や建築家の仕事もこなし、もとより古美術の蒐集家として名を成すほどの日本文化への深い造詣が滲む名文家としても評価され……と、あまりに多彩な活躍ゆえに、却ってその正体がつかみにくいというのも事実です。

わかりやすいキャラクターを描いてくれるわけでもないので大衆受けはしないけれど、世界的には大変高い評価を受けており、いわゆる玄人受けするアーティストであることは間違いありません。意外やカルチャー好き女子人気も高く、その点でも無視できない存在なのであります。

そんな杉本博司の世界的な人気と幅広いジャンルでの活躍を象徴するように、いま、彼にスポットを当てた3つの展覧会が開かれているので、これらを俯瞰しつつ、現代美術作家、杉本とは何者かに迫ってみましょう。
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建築家としての杉本が注目した旧素材とは

まずは寺田倉庫の建築倉庫ミュージアムで開かれている企画展「新素材研究所・-新素材×旧素材-」。こちらは彼の作品展というよりは、彼の建築家としての視座を知る展覧会とでも言いましょうか。

写真家からそのキャリアをスタートさせた杉本は、1997年「建築」シリーズとして知られる独特の建築写真を撮り始めます。さらに自身の展覧会空間を構築する経験を経て、今度は自らが建築する側としての仕事を依頼されることになります。

それが瀬戸内海に浮かぶ直島の「直島護王神社」再建の仕事(2002年)で、その後、伊豆に写真美術館を設計する依頼を受けたことをきっかけに、2008年、建築家の榊田倫之と「新素材研究所」という建築事務所を立ち上げるに至ったのです。
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このプロジェクトを通じて杉本たちが目指したのは、日本の長い歴史の中で伝統的に使われてきて、しかし最早日本建築から顧みられなくなった旧素材に注目し、そんな旧素材こそが、いまやもっとも新しい素材であるという逆説を実証することでした。

しかし、もちろんその狙いは単なる過去への遡行ではありません。旧素材の素晴らしさを最大限に引き出すための伝統的な職人の技術と最新技術を融合させて、現代的なディテールで仕上げることで、過去と未来がひとつに繋がっていく。それによって建築はタイムレスな存在となっていくのです。これは杉本が建築という世界の外にいたからこそできた挑戦的な発想だと言えるでしょう。
この企画展では、杉本が注目した「旧素材」の実物が、それらをヒントに使られた実際の建築物の写真や模型とともに展示されています。多くの時間を経た素材たちは、決して新素材には表現できない絶妙な味わいを見せています。それらが新しい素材と組み合わされ、互いを生かして生まれた新たな表現の美しさこそ、杉本作品の真骨頂なのだと思います。
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◆「新素材研究所・-新素材×旧素材-」

会期/2018年10月21日~2019年1月14日
会場/建築倉庫ミュージアム 展示室A
住所/東京都品川区東品川2-6-10
開館時間/11:00-19:00
休館日/月曜(月曜が祝日の場合は翌火曜休館)
入館料金/一般3000円、大・専門生2000円、高校生以下1000円
※展示室B観覧料および新素材研究所作品集(「新素材研究所・」のために新素材研究所が特別に作成したもの)を含む
URL/https://archi-depot.com
お問い合わせ/☎03-5769-2133

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天正少年使節が見た同じ建物を現在見ることの意味

次は熱海にあるMOA美術館のリニューアル記念特別展として開催中の「信長とクアトロ・ラガッツィ 桃山の夢と幻+杉本博司と天正少年使節が見たヨーロッパ」です。

MOA美術館といえば、件の新素材研究所の建築意匠によって2017年にリニューアルされたことで知られるように、杉本とは特別縁の深い美術館ですが、こちらでは写真家としての杉本の作品に触れることができます。

クアトロ・ラガッツィとは1582年にローマ教皇のもとに派遣された4人の天正少年使節のことで、彼らに関する資料や美術・工芸を中心とした展示が行われているのですが、それに加えて、杉本が撮影した関連する建築物の写真が展示されているのです。
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杉本博司「螺旋階段Ⅱ、ヴィラ・ファルネーゼ」2016年 ゼラチン・シルバー・プリント (c)Hiroshi Sugimoto/Courtesy of Gallery Koyanagi
杉本はイタリアを訪れた際に、ある古い劇場で4人の少年使節がその地を訪問した痕跡を偶然目にします。そこで、彼らが当時目にしたであろう多くの建物が今も残っていることに思い至り、彼らが見た同じ建物を、時代を超えて自分も見ていることに強い感慨を覚えます。そして、改めて彼らの足跡を訪ね当時の建物の姿を再現することで、少年たちが初めて西洋と出会った時の驚きを知りたいと、撮影を重ねていったのです。

展示室にはピサの斜塔や、ローマのパンテオン、フィレンツェの大聖堂などの写真が並びます。時代を超えて少年たちと同じ建物を眺めているという想像は、何やらとてもスリリングであり、また悠久のロマンを感じさせるものでもあります。
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◆「信長とクアトロ・ラガッツィ 桃山の夢と幻+杉本博司と天正少年使節が見たヨーロッパ」

会期/2018年10月5日~11月4日
会場/MOA美術館 展示室 1-6
住所/静岡県熱海市桃山町26-2
開館時間/9:30-16:30(入場は16時まで)
休館日/木曜日
観覧料/一般1600円/高大生1000円/中学生以下無料/65歳以上1400円
URL/http://www.moaart.or.jp
お問い合わせ/☎0557-84-2511

※この企画展はMOA美術館での展示が終了後、長崎県美術館で2018年11月23日~2019年1月27日まで公開予定です。
URL/http://www.nagasaki-museum.jp/exhibition/archives/1047

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杉本の多角的な表現活動がヴェルサイユで一堂に

最後は彼の国際的な高い評価を表すように、パリで行われている展覧会をご紹介します。ヴェルサイユ宮殿を象徴する場所のひとつであるトリアノン離宮を舞台に、いま、杉本の美術家としての幅広い活躍をアート、建築、ビデオインスタレーションの3本柱で構成した「SUGIMOTO VERSAILLES展」が開かれているのです。
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フランス館に展示されたナポレオンの蝋人形を撮影した写真作品。Napoleon Bonaparte, 1999  gelatin silver print  (c)Hiroshi Sugimoto (C) Tadzio
ヴェルサイユ宮殿は2008年以降、年1回、国内外のアーティストによる展覧会を企画しているのですが、今年ここに招聘されたのが杉本でした。日本人としては2010年の村上隆以来ふたりめの快挙。写真家としては世界を通じて初めての選出となりました。
今回の展示では、マリー・アントワネットが命じて作らせた「王妃の劇場」で撮影した「劇場」シリーズの新作や、ナポレオン、ヴォルテール、ベンジャミン・フランクリンの蝋人形を撮影した写真作品、ガラスの茶室「聞鳥庵(モンドリアン)」、フランス人ダンサーで現在パリオペラ座芸術監督のオレリー・デュポンが江之浦測候所で行ったパフォーマンスの映像作品など、多彩な作品が紹介されており、杉本芸術の全体像を窺い知ることのできる興味深い内容となっています。
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プラ・フォン池に設営されたガラスの茶室「聞鳥庵(モンドリアン)」。Glass Tea HouseMondrian  commissioned by Pentagram Stiftung for LE STANZE DEL VETRO, Venice, 2014. achitects: Hiorshi Sugimoto + Tomoyuki Sakakida / New Material Reasearch Laboratory. Courtesy of the artist & Pentagram Stiftung (c)Tadzio
杉本の作品は写真から、映像へ、建築へ、パフォーマンスへとさまざまに形を変化させながらも、そこにはいつでも時間を超えて不変の人類の記憶との邂逅を求める視点があります。現在は過去と繋がっており、それを感じることには大きな価値があると彼は考えているのです。
芸術とは、時間を飛び越えていくものです。日々の仕事や遊びに追われて近視眼的にしか毎日を送れなくなっている我々にとって、圧倒的に長大な時間軸を生きる杉本の存在は、実に刺激的ではあるけれど、一方でそれは日常との決別を促す麻薬となる危険も孕んだものと言えましょう。そんな杉本ワールドが気になったあなたは、ぜひ足をお運びくださいませ。
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◆「SUGIMOTO VERSAILLES Surface of Revolution /スギモト・ヴェルサイユ」展

会期/2018年10月16日~2019年2月17日
会場/ヴェルサイユ宮殿
開館時間/12:00-17:30
休館日/月曜
URL/www.chateauversailles-spectacles.frwww.chateauversailles.fr

※写真は小トリアノン宮殿のベルヴェデール亭に展示された、非ユーグリッド幾何学の3次関数で示される数理模型。 Surface of Revolution (C)Hiroshi Sugimoto (C) Tadzio

●杉本博司について知りたい方はこちらもどうぞ
まもなく予約開始! 杉本博司のアートと海を一緒に楽しめるスポット3選

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