2025.10.06
■ OpenAI サム・アルトマン氏インタビュー
「AIは親切なエイリアン」「デスノートが好き」 ──来日したサム・アルトマンが残した言葉とは?
10月2日、OpenAIのCEOサム・アルトマン氏が来日。好きなアニメは『デスノート』、そして「日本は世界で2番目に大きな市場」と語る氏は、AIと創造性の関係をどう考えているのか。ここにリポートいたします!
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写真・文・編集/平井敦貴(Web LEON)
サム・アルトマン氏が語るAIと創造性

「日本は最も好きな渡航先、何度も来ている」

日本はAIを初期から導入し、ビジネス面でも世界で2番目の巨大市場です。ただ、私が個人的に最もワクワクしているのは、日本が創造性の分野で成し遂げていることです。AIが生産性や科学的発見に寄与しているのは確かに素晴らしいのですが、人間の体験でとても重要なのは、互いのために何かを「創る」ことです。
AI技術の進化によって、これまで不可能、あるいは非常に困難だった表現がどんどん可能になっています。多くの技術的変革の中で、日本ほどその創造性に適合している国はありません。AIという新しいツールで、クリエイターがかつてないことに挑み、人生をより楽しめるようになることを期待しています。
── 過去に何度も訪日しているサム氏は、日本人の創造性(クリエイティビティ)にとても期待していると言います。
今や人間が作ったものと見分けがつかないレベル

真鍋大度(以下、真鍋。 ※ショートフィルムの音声より) 私は「機械学習(マシンラーニング)」の分野に黎明期から取り組み、GPT-1の登場をきっかけにテキスト生成の探究を始めました。2021年には、(コロナ禍で揺れる)日本のニュースサイトのコメントを大規模に集め、GPT-2を使ってファインチューニングし、AIによってテキスト化する作品を発表したことがあります。最近では、独自のデータセットを使用して、完全にゼロからの画像生成モデルを構築する実験を行っており、モデル自体を現代アート作品として発表・販売も行っています。こうしたプロジェクトの中で、GPTを使ってコードを書くことは、もはや“日常的な作業”になりました。
また現在は「Sora」のような動画生成AIを活用し、ミュージックビデオやライブビジュアルの制作も行っています。かつては実験的なものでしたが、今では人間が作ったものとほとんど見分けがつかないレベルです。そのため、今重要なのは「技術」そのものではなく、それを使って何を創造するかという「想像力」に変わってきているのではないでしょうか。
「タケノコ族」をAIで再現

草野絵美(以下、草野) これは私が「Sora」で最初に取り組んだ作品です。とてもクールでした。私が再現しようとしたのは「タケノコ族」で、実際に1970年代後半から80年代初頭に存在した日本の文化です。タケノコ族は日本のストリートカルチャーに大きな影響を与えましたが、実在期間はわずか3年ほど。検索エンジンで「タケノコ族」を調べても、出てくる写真はせいぜい200枚程度で、最初は再現がとても大変でした。
そこで私はChatGPTに「タケノコ族って何?」と話しかけ、友達に説明するように「着物風のワンピースを着ていて、シルクで、グラムロックっぽくて……」などと語りながら、カメラワークや雰囲気まで言語化していきました。
私にとってAIを使うことは、いくつもの並行世界(マルチバース)に生きるような感覚です。自分自身の無数のバージョンに出会えるのが本当にエキサイティングなんです。これは自画像でもあり、(電脳空間を描いた)日本のアニメ『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』のようなもの。このビデオは来週ニューヨークで展示予定で、とても楽しみです。この2年間で、AIのおかげで本当に力をもらいました。
AIの登場で「表現」の世界が一変する

真鍋 今、AIはコラボレーター以上の存在です。AIは誰よりも私のことをよく知っている。ですから単なるツールを超えています。クリエイティブにおいては、人間がやった方がよい部分もあれば、AIが得意な部分もある。やりたいことに応じて「これはAIで」「これは人で」と切り分けるバランス感覚が必要です。
AIが私に与えた影響で言うと、2023年に画像生成のクオリティが変わった時と、ChatGPTが登場した時に、「これは時代が変わった」と感じました。インターネットが誕生した時と同じくらいのインパクトがあったと思います。
サム AIはあなたをよく知るコラボレーターという点に深く同意します。創作の閃き──何かを表現したいという欲求は人間から生まれますが、AIは「ツール」と「相棒」の中間のような存在になります。新しい種類のアートを想像し、素早くプロトタイプを作り、タイトなフィードバックサイクルを持ち、クリエイティブな表現を容易にする。これはカメラが登場した時、「絵」や「スケッチ」に慣れていた世界に、まったく新しい「写真」という表現を切り拓いたのに似ています。AIは、ツール以上の存在になり得ます。各地でアーティストに会うたび、想像もしなかった新しい作品やアイデアに出会える──AIはそれをさらに後押しできると信じています。
好きなアニメは『デスノート』

草野 日本にはアニミズム、さらに「テクノ・アニミズム」という考えがあり、コンピュータやロボット、回路にさえ「霊魂」を見いだします。だから新しい技術も、「仲間」や「守護者」のように捉え、テクノロジーに楽観的です。
サム まさにそう感じます。日本は長らく「テクノ・オプティミズム(技術楽観主義)」の中心で、私はそれに触発されてきました。私は大のアニメファンでもありましたが、それ以上に日本という国が持つ「未来に挑む精神」は特別に感じています。高いテクノロジーとクラフトマンシップの両立——日本独自のこの組み合わせは、世界がこれから向かう姿だと思います。機械的な作業をテクノロジーが担うほど、人の手仕事や特別な体験の価値は高まると考えます。

サム 『デスノート』ですね。(一同笑い)
草野 日本はとてもアジア的な社会だと思いますが、同時に素晴らしい職人技(クラフトマンシップ)がたくさんあります。そしてテクノロジーの役割は、そういったクラフトマンシップを補完するものだと思います。一部の人は「AIはクラフトマンシップの対極にある」と言いますが、実際にはデータセットやレコーディングそのものもひとつの職人技と言えます。これは新しい形のクラフトマンシップであり、私たちが向き合うべき新しいコラボレーションの形ではないでしょうか。
サム 先ほど言おうと思っていたことなんですが……あなたが話を振ってくれたので言わせてもらいます。日本文化の最も特別な点のひとつは、ハイテクであると同時に“過去の素材(伝統や職人技)への強いこだわり”が共存していることです。これは本当にクールなことだと思いますし、世界もいずれその方向へ進むはずです。なぜなら、テクノロジーが単純で機械的な作業をどんどん肩代わりするようになるからです。
AIの未来は「エイリアン」との共存?

サム 私たちはクリエイターを尊重し、双方にとってWin-Winの関係となることを強く望んでいます。我々はクリエイティブな仕事の価値は貴重であり、また、過去の作品にインスピレーションを得た創作活動にも豊かな歴史があると考えています。私たちの役割はテクノロジープロバイダーですが、同時にクリエイティブコミュニティのメンバーでもあり、そのコミュニティの中で対話を重ね、最も有益で、心地よく、付加価値のあるものにするために何ができるかを考えていきたいと思っています。
草野 AIの未来を定義づけるなら、それはエイリアンとの共存です。ユヴァル・ノア・ハラリ(イスラエルの歴史学者)も「AIはエイリアンの知性」だと言いました。つまり、AIはあなたの守護者や仲間にもなり得る一方で、SF映画のように敵になる可能性もあります。それはパラレルワールドの話かもしれませんが、思うところはありますか?
サム その話はまったく同感です。もし3年前に、“3年後には自分より賢い存在と共に暮らす”と言われたら誰もが不思議に思ったでしょう。でも、今まさにそれが現実になっても私たちは普通に生活しています。人間は驚くほど適応力が高く、すでにAIという知性と共に生きています。世界は大きく変わっていきますが“人間であるという体験”は当分の間ほとんど変わらないでしょう。そして、AIというエイリアンとともに生きていかなければなりません。
ただ、AIは親切で友好的で、私たちのために多くのことをしてくれます。そしてAIとの共存によって人間の可能性はさらに広がり、より多様な経験ができるようになり、人生はますます豊かになると思っています──。
AIは“新世界の神”となる?

AIがどんな“新世界の神”を目指すのか。はたまた“親切なエイリアン”として私たちの人生をどれほど豊かにしてくれるのか?
若者もオヤジもAIとはもう無関係に生きられない時代──その答えは私たち自身が考え続けなければならないのかもしれません。
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