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2018.07.04

型破りシェフのエネルギーが詰まった「食」から考える人生論にして仕事論!

フレンチシェフの松嶋啓介さんの新刊『「食」から考える発想のヒント』は、想定外のビジネス書、いや自己啓発書? とにかくパワフルで面白いんです。

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文/森本 泉(LEON.JP)

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皆さん、こんにちはLEON.JPのモリモトです。今回は一冊の本を紹介させてください。著者は松嶋啓介さん。フランス料理のシェフですが、20歳で単身渡仏し、25歳でニースに自分のレストランを開き、3年後には外国人シェフとして最年少でミシュランの星を獲得したという輝かしい経歴の持ち主。ではカリスマ料理人による美味しいフランス料理の作り方、みたいな本かと言えば、これがまったく違うんですね。本人はビジネス書と記しているのですが、それもまた「?」。 

ちょうど本書の中に「『良い本』の基本は、一度読んだだけでは、あまりよくわからない。よくわからないのに、惹かれる。予感がする。読み返してみたくなる」(149P)とあるのですが、この本自体がまさに、そんな感じ。

確かにマネジメント論や企画・発想・プレゼン法などビジネス書的な面もあるのですが、それ以上に夢を実現するための自己啓発書でもあり、また異文化コミュニケーションや食文化を考察した文明論としても読めるという、とにかく、とりとめのない一冊。でも抜群に面白い。そしてその面白さは、とりもなおさず松嶋さんという人物そのものの面白さでもあるのです。

「和食」とはピースキッチンである

まず彼のユニークなところは、料理人でありながら美味い料理をつくることを最終目的にしていない点。彼は料理を作るより前に、まず「人がモノを食う」ことの意味を根源にまで遡って求めようとするのです。

松嶋さんにとって「食」とは文字通り「人」を「良くする」ことであり、「食こそが人間が生きていくうえでの原点だ」(P60)と考えています。で、その「『食』に関る方法論を通して、より多くの人生を豊かなものにしていきたい」。だから「料理の専門家になるのではなく、積極的にみずからの経験や考えを相手に伝え、より多くの人生を彩っていく案内人(メンター)でありたい」(P10)と言うのです。これ、もはや料理人の発言ではないですよね(笑)。

さらに彼にとって大事なのは「ときを超えてその土地に根付いてる食文化、自然の気候風土にはぐくまれた食のあり方」(P211)であり、これを「和食」=ピースキッチンと名付けました。彼の考える「和食」の「和」は日本のことではなく「平和」の「和」であり、聖徳太子が「和を以て貴しと為す」と言った、和の精神なのです。だから、「和食」は世界中に存在するし、そのような「和食」の文化と伝統を、長く後の世代に繋いでいくことが自分の使命だと考えているのです。

松嶋さんは高らかに宣言します。「『食』の仕事に就いている者こそが、人間を変え、世の中を変えることができるのだという意識を持ち、日々を生きていくしかない。それが『食』を扱う人間の宿命だと、ぼくは思っています」(P204)と。あ、熱い!

未来へ伝統を受け継いでいくためには

25歳で自分のレストランをオープンした時も、「ニースではじめてフランス料理の日本人オーナーシェフになることより、地元の食材を使った郷土料理をとおして、ニースの地に深く刻まれた伝統を守っていくこと」(P55)が大切だったと彼は言います。

そしてその事業を持続可能なものにするために欠かせなかったのが「南仏の自然から創造(クリエート)された郷土料理の数々を、現代に通じるように編集処理して新しく発想(イノベート)し、常に原点に戻って改修(リノベート)すること」(P56)でした。

この、「クリエーション・イノベーション・リノベーション」こそが、松嶋さんにとって「過去から現代を経て、未来へ伝統を受け継いでいく大切な方法論」(P59)なのです。彼はこの方法論を駆使して、設定した目的に向かって、「チームを組み」「人を育て」さまざまな相手に「企画を立案し」「プレゼンし」「交渉し」ていきます。

こうと決めたら、その目的に向かって怒涛の押し相撲。そこで最も効率的にコトを進めるために何をどう考え、具体的にどんな手を打ってきたのか、それが本書では多くの「〇〇論」として子細に語られているというわけです。

その過程で、彼が現状を把握し問題点を見つけ出す方法論として「コンセプト・ディテール・ロジック」の発想法というものが紹介されています。これは、問題となっている対象を「コンセプト・ディテール・ロジック」に分けてみると、さまざまな事情が整理できるし、足りない部分や解決すべき課題が浮き彫りになる、というもの。

例えば、料理でいえばコンセプト(概念)はレシピ。ディテール(細部)は食材や調理法、そしてロジック(論理)は、そのレシピでなければ何故料理の基本コンセプトが守れないのかという理論となります。この3つを目的や相手によって、うまく使い分け、どれをメインに伝えて相手とコミュニケーションをとっていくかを考えるのです。これは仕事のあらゆる面で応用可能な発想法だと思いました。

ミラノでおむすびを世界の人々とシェア

そして彼を本当にすごいと思うのは、実際、この自らが考案した発想法や企画法を使って、世の中を変えていこうと、果敢に挑戦し続けているところ。例えば、東日本大震災後の東北では、被災地の復興を願って花火を打ち上げ、会場で音楽や和食を楽しむイベントを開催し、ミラノ万博では日本のライフスタイルを象徴する「おむすび」を世界中の人たちとシェアするイベントを開いてみたり。とにかくその活動は多岐にわたり休むことを知りません。

その彼のエネルギーに圧倒されると同時に、困難をものともせず、未来に向かって走り続ける彼の姿には大きな元気をもらえる気がします。彼の熱い情熱が詰まった本書は、単なるビジネス書に終わらない、人生の指南書として多くの方の心に届くのではないでしょうか。

そして、最後に。実は松嶋さんとは縁あって、以前に『バカたれ』という本を作らせていただきました。こちらは松嶋さんが当代のさまざまなクリエイターやアーティスト、経営者など15名と熱く語り合った対談集です。彼が聞き手として、ゲストの魅力を十分に引き出した非常に面白い内容です。こちらも併せてお読みいただければ幸いです。
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松嶋啓介

1977年福岡生まれ。「KEISUKE MATSUSHIMA」オーナーシェフ。フランス芸術文化勲章、農事功労賞シュバリエ。高校卒業後、辻調理師専門学校で学びながら、酒井一之シェフの「ヴァンセーヌ」に勤務。20歳で渡仏。フランス各地のレストランで働き、フレンチの神髄である郷土料理を学ぶ。2002年25歳で南仏ニースに、日本人初のオーナーレストラン「Kei's passion」をオープン。外国人シェフ最年少の28歳でミシュランガイドの星を獲得。店名を「KEISUKE MATSUSHIMA」に改める。09年、東京原宿に「restaurant-I」をオープン。のちに店名を統一する。ほか、「食」を軸にさまざまなビジネスを展開する起業家でもある。

実業之日本社刊 定価/本体1500円+税

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世界を変えるのは「バカ」の力である! ミシュラン外国人シェフ史上最年少1つ星に輝く松嶋啓介が各界のキーパーソン15人と語り倒した「バカ」人生&仕事論! 登場するのは箭内道彦、設楽洋、遠山正道、徳岡邦夫、蝶野正洋、間下直晃、佐藤可士和、花千代、津田大介、片山正通、千住明、マーク・パンサー、松山大耕、熊本浩志、堀江貴文。

主婦と生活社刊 定価/本体1500円+税

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