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2017.09.09

三島由紀夫文学館とクレマチスの丘でインテリジェンスに出会う旅

文/LEON.jp 冨永麻由
先週末、山梨は山中湖畔の「三島由紀夫文学館」、静岡は三島市の「クレマチスの丘」を目的地に、ぶらり途中下車の旅をしてきました。
東京から南西に2時間ほど、山梨県の山中湖畔に「文学の森公園」という標識があります。湖を背にこの深い森を進むと、そこにあるのが「三島由紀夫文学館」です。
夏でもひんやりする森の奥にひっそりと佇むこの建物には、書籍や戯曲のポスター、関連資料が保管、展示されています。三島がまだ実名の平岡公威の名を書き記していた頃の作文から、遺作となった『豊饒の海』の手書き原稿までが、関連の品々とともに時系列に沿って並んでいます。
最寄りの御殿場駅からJR御殿場線に揺られ40分ほどで、三島駅に到着します。富士山の南隣に位置する愛鷹山(あしたかやま)の中腹にあるのが「クレマチスの丘」というアートの複合施設で、広大な敷地内には「ベルナール・ビュフェ美術館」、「ヴァンジ彫刻庭園美術館」、「井上靖文学館」、「IZU
PHOTO MUSEUM」、レストランやカフェなどが点在しています。
ツクツクボウシの声が響き渡るなか、ビュフェの絵画、ヴァンジの彫刻を楽しみながらひたすら散策を満喫しました。木々や花々とアートが融合したこの丘は毎週末でも通いたいほど素敵な場所です。

今回の途中下車のなかでも、特に印象に残ったのが御殿場駅での途中下車でした。駅の階段を降りると、バスのロータリー横に何やら気になる建物が。入ってみると、店内にはカメラや映写機がところ狭しと置かれています。どうやら、隅のテレビでBuddy GuyのライブDVDを見ている方がご主人でいらっしゃるよう。カレーとコーヒーをいただいていたら気さくに話しかけてくださり、映画や文学の話をしました。
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話の途中でDVDを入れ替え、小津安二郎の『晩春』のお能のシーンを、「日本映画史最高の名場面だ」と言って楽しそうに見せてくれました。およそ10分のあいだ全くセリフがなく、能の舞台とそれを鑑賞する上流階級の人々の姿が交互に映し出されるこのシーン。私が疑いもなく日本の「文化」として観ていたこのシーンを、ご主人が日本人の「インテリジェンス」という言葉で表現された時、画面の光景に突然奥行きが感じられはっとしました。
「昔は都電に乗ると、車体がひどく揺れたものだから荷物置きから荷物が落ちてきたんだよ。そんな光景や、揺れて隣の人と肩が触れ合ったりするのを互いに笑いあったものだ」
そう話すこちらのご主人、編集部にほど近い「東京国立近代美術館 フィルムセンター」のポスター写真も手がける写真家の池谷俊一さんであるとのこと。かつて黒澤組のひとりだったそうで、20代の頃は新宿のジャズ喫茶で友人たちと三島由紀夫談義をよくしていたとか。三島は御殿場にも2年ほど滞在していたことがあり、出会った人々が口を揃えて言うのは「目がとても綺麗な人だった」ということ。
「裕福な家庭に育ち、生まれながらの強者だったのに、弱者の気持ちがわかる人だったんだね。御殿場でも、歩道や飲み屋で肩を並べた人たちに『ごきげんいかがですか?お身体をお大事にしてくださいね』といつも声をかけていたそうだよ」
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「話す言葉で、その人の生い立ちまでわかる」と話す写真家の池谷さんは、三島の優しく美しい日本語に触れると心の汚れがすっと落ちていく感じがするとおっしゃっていました。

「若い人が、わざわざ日曜日に三島由紀夫文学館に行ってくれるなんて嬉しいね」。三島市に向けて旅立つ時、そう言って笑顔で見送ってくれました。

週末の小旅行を終えて、この「インテリジェンス」という表現が深く心に残りました。安易な言葉をかぶせては隠れてしまう、もっと奥深い世界や知的な営みがたしかにあると思うと、どうにか触れてみたくなるではありませんか。
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言葉に惑わされないために、言葉を知ろう。そう思い立って本屋に向かい、これも巡り合わせなのか、良書に出会うことができガリガリ読み進めています。書を捨てよ、旅に出ようと意気込んだ結果、すっかり書に戻ってしまいました。おかげで生来の出不精に拍車がかかっていますが、本を携えつつちゃんと街にも出ようと思います。
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