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2017.07.02

うなぎ屋の待ち時間はこんなネタで彼女としっぽり/「宮川本纏」(築地)

文/webLEON 森本 泉
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今年の土用丑の日は7月25日と8月6日の2回。まだ間がありますが、7月に入ると俄然うなぎが食べたくなるのが人情というものです。
こんにちは、webLEONの森本です。私事で恐縮ですが、この春、深川の近くに引っ越しいたしました。実は江戸時代、深川の名物料理と言えばうなぎだったそうです。

当時も富岡八幡宮(通称・深川八幡)は大勢の人で賑わい、また門前仲町は花街としても栄華を誇り、近くには人気の食事処が軒を連ねていたそう。そんななか、八幡様の向かいに「みやかわ」という有名なうなぎ屋があり、大いに繁盛したとか。そこで現在の街のうなぎ屋を探ってみたのですが、その名残を示すような店は見当たりません。

ところが調べてみると、「みやかわ」はすでに廃業してしまったのですが、そちらで修業した職人さんが、後に名跡を受け継いで創業したうなぎ屋があり、それが実は、うなぎ好きなら知らぬ人はいない名店、築地の「宮川本纏(ほんてん)」だったのです。

お店のホームページにそのあたりの事情が書いてありますが、店の創業は明治26年(1893年)なので、すでに124年の歴史です。深川の人気うなぎ店の味がこんな近場(編集部から歩いて行けるんです!)で味わえるとは、なんともうれしいところ。というわけで、さっそく訪問です。
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うなぎ屋は江戸時代のデートスポット

うなぎ屋は客の注文が入ってから焼くのが常。当然時間がかかります。そこで江戸時代はうなぎ屋の離れが男女の逢引き場所として人気だったそう。うなぎが焼きあがるのを待つ間に、「うざく」や「うまき」を肴に日本酒をチビチビやりつつ、他愛もない話で彼女との仲を深めるってなかなか粋じゃあありませんか。

差し向かいでのんびりと過ごすには座敷が一番。もちろん、こちら「宮川本纏」にも素晴らしい座敷があります。見てください、この渋いしつらい。余裕のあるテーブル配置で隣も気にせず、少々色っぽい話なんかするにも好都合。

いやいや、ここはうなぎそのもののお話でもよいでしょう。とにかくうなぎはネタの宝庫。いくらでも話がもつってものです。そのあたりを少しご紹介。
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うなぎが焼きあがるまでに彼女に話したいネタ

【ネタ1】

まずは、大抵の方がご存知かと思いますが、うなぎは関西では腹開き、関東では背開きというお話。元々は関西で食べられていたうなぎですが、大阪は商人の町。「腹を割った」関係こそ商売の基本、というわけで腹開きが歓迎されたそう。対する江戸は武士の町。腹開きをは切腹を連想させて縁起が悪いと背開きになったそう。
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【ネタ2】

そもそも、何故、土用丑の日にうなぎを食べるのか。本来、天然うなぎの旬は秋から冬。昔も夏は売り上げが落ちて、うなぎ屋は困っていたそう。そこで江戸後期の有名な博物学者、平賀源内がうなぎ屋に頼まれて「土用丑の日にうなぎを食べると滋養になる」と貼り紙を出して宣伝に努めたら、それが人気を呼んで定着したのだとか。これ、宣伝の歴史に必ず出てくる話ですね。
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まず30分ほどで「うざく」が出てきました。こちらは、うなぎときゅうりの酢の物です。滑らかなうなぎと、きゅうりの食感が、強めの酢の味にベストマッチングです。

【ネタ3】

今や世界で獲れるうなぎの7割は日本人が消費しているそうですが、うなぎ自体は昔から世界中で食べられていました。ところがその生態は謎に包まれており、今も完全には解明されていません。古代ギリシアの哲学者アリストテレスは、うなぎをいくら調べても生殖器官が見つからないので、それは泥の中にいるミミズから自然発生する珍しい動物だと唱えたそうです。
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「うまき」はうなぎを芯にして巻いた玉子焼き。「うざく」と一緒に出てきました。出汁の味が感じられるふわふわ卵とうなぎが絶妙。

【ネタ4】

ニホンウナギの産卵場所についても長年、謎でしたが、2009年、日本の研究チームがついにその場所を突き止めました。発表によれば、うなぎが産卵するのは日本から南に2000キロ以上も離れた、太平洋のマリアナ海域で、ここで卵が孵化し、仔魚(しぎょ)とよばれる小さな状態のまま、太平洋を回遊、北上して日本や台湾、韓国、中国の川や湖にたどり着きます。ここで5年から10年過ごし、ようやく成魚となります。我々が食すのはこの成魚。その後うなぎは、また海に戻り、南下してマリアナ海域の産卵場所まで戻って一生を終えるそうです。
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50分ほどでうな重の到着。美しい漆の器に入っています。別に肝吸いも。

【ネタ5】

というわけで、アジアで獲れるうなぎのふるさとは皆、一緒。単に育った地域が違うだけなのです。しかしこの産卵のメカニズムはまだ完全には解明されておらず、いまだに人工孵化が出来ないのです。養殖うなぎは稚魚(シラスウナギ)になったものを捕獲して人工的に育てたもの。ちなみにヨーロッパウナギの場合は大西洋の真ん中あたりのサルガッソー海で孵化して、そこからヨーロッパからアフリカの北部にまで移動してくるそうです。
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頼んだのは「ハ」(3888円)。肉厚なうなぎは表面がパリっと香ばしく、柔らかいのに、きちんと食感が残る仕上がり。タレは辛口で主張せず、うなぎの味を引き出す優れもの。
というような話をするだけでもけっこうな時間がもつものです。

「つまり今日、これから一緒に食べるうなぎも太平洋で生まれた小さな命が、2000キロも3000キロも長い旅をして、10年も経って、本当の偶然で、僕たちの胃袋に収まるってわけで、それって、すごく運命的な出会いじゃない? 僕たちみたいに」……なんて話をすれば、素直な彼女ならニッコリうなずいてくれるでしょうし、率直な彼女なら「キモ!」と笑ってくれるでしょう。

 そんな乙なデートにぜひうなぎ屋さんをオススメです。午後のまったりした時間こそ、うなぎ屋デートにはぴったりだと思いますよ。

■つきじ宮川本纏

■つきじ宮川本纏

住所/東京都中央区築地1-4-6
営業時間/11:30~14:00、17:00~20:30(日・祝は~20:00)
定休日/土曜日
URL/www.unagi-miyagawanorenkai.jp/
問い合わせ/☎03-3541-1292

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