2017.06.10

多国籍の学生達、ミニマリズムとゴチャゴチャ

文/仁木岳彦(フォトグラファー)

スイスの米国系私立大学に通う学生達が、フィールドスタディでミラノへ。縁あって、彼らと対話してきました。まずは、その多国籍ぶりにビックリ。アメリカ、ロシア、アゼルバイジャン、カザキスタン、ヨルダン、サウジアラビア、インド、中国、ベラルーシ、スイス、イスラエル、クロアチアなどなど。。。

僕は写真の学校がニューヨークだったので、多国籍なノリを知っているつもりでいたものの、どうも様相が違うんすよ。ニューヨークでは、出身国によって英語の訛りがキツイと言われていますが、そうは言っても皆んなアメリカ英語を話し、永住希望者も多く、どこかアメリカナイズされた人達の集まり。しかし、このスイスの大学の学生達は、いわゆる国際共通語としての英語というか、ニュートラルな訛りのまま英語を話し、むしろ各々の国の文化を背負っている感じ。話してみると、スイス国内のボーディングスクール(寄宿舎付きの高校)出身者も多く、各国各界の子弟達と言った風情も無きにしも非ず。一方で、先進国からは奨学ローンなどを利用して留学しているパターンもあるそうで、その多様性は無限大。

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カリフォルニアからの留学生は既にスマホアプリで起業していて、中国人の学生はアジア的な真面目さがあって既視感親近感があり、サウジアラビアの女子学生は「お嬢」と言うよりも「姫」の気高さがあり、イスラム圏アゼルバイジャンの男子学生は先生や僕のようなゲストスピーカーへの質問の仕方も丁寧で、女性達への気遣いも抜群なのでした。ところで、先生によるとイスラム圏出身の男子は彼のようなナイスガイが多いとのこと。へえ、そんなんすね。意外でした。

彼らそれぞれの目の動かし方など、表情一つとっても、違いがあって刺激的。もちろん、一人一人の個性もあるのだと思いますが、それだけではない、それぞれが育った土地の空気感も感じるわけです。

メディア、マーケティング、比較文化などを専攻する彼らは、イタリアのモノをどうやって自分の国に紹介するのかがテーマなフィールドスタディだったそうで、僕は「ちょい不良オヤジ」「ミラノマダム」などの日本人の造語文化と、それをヴィジュアル表現する写真を絡めた雑誌メディアの話。そして、東京、ニューヨーク、ミラノで感じたコミュケーション形態の違いについてスピーチをしました。

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我が近著、写真集「天使の写真」を持参してみました。物珍しさもあったのか、意外にもイスラム圏の女子学生達が、最も興味深く見てくれました。天使の彫像のような具象芸術が禁じられている母国では、天使は「光」の存在と捉えられているのだそうです。なるほどねえ。帰り際にアラビア語で僕の名前を書いてくれました。これ、右から左へ読むとのこと。エキゾチックっすね。マインドも自由でリベラルっぽく、好奇心旺盛で元気バリバリな彼女達が、母国では髪や体のラインなどを覆って暮らしているんすよね。なんとも不思議に感じます。地球は広いなあ。

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この出会いの流れが、友が友を呼んで、ミラノのファッション・スクールでマーケティングを専攻する学生達にも出会い、日本のデニムマーケットに関して質問を受けました。日本が大好きなので、テーマとして日本を選んでくれたとの事。マニアの間では岡山のデニム生地などはワールドワイドで知れ渡っているみたいですね。日本における若い世代のファスト・ファッションの台頭や、ミラノに近々進出すると噂されるユニクロの事もすでに知っていて興味津々。様々な質問を受けたのですが、最後に日本びいきの彼らの大きな謎に関して、意を決した様に質問してきました。「日本のウェブサイトは、なぜダサいのか?」ミニマリズムの美で知られる日本のデザインなわけですが、e-commerceなどのサイトが、情報満載でゴチャゴチャしていて格好悪いと言うのです。

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そんな純粋な知的好奇心を突きつけられれば、「分からないなりに何か語らなくては!」と意気込んじゃいますよね。。。そういや映画のポスターも、日本版はコラージュを多用してて、ストーリーを説明しすぎでダサいと言われることもあるんだよね。似た話かもね。日本人は説明とか能書きが好きなのかな?新作上映とかだと、いろいろ説明してくれている映画パンフレットってのが日本にはあって、映画館で売っているんだよ。特に洋画は話の背景が分かると理解が進むしね。紙媒体の女性雑誌なんかも、情報満載な細かいデザインを良しとする傾向もあるし。そもそも、日本のファッション雑誌って、カッコいい夢のイメージよりも、リアルファッションの参考ガイドがメイン。それって、スナップを含めて現在のファッションブログの流れに通じるわけだから、実は先駆けだったわけか。あと、お寺などの伝統建築やモダンデザインがミニマリズムでも、多くの日本人の部屋は物で溢れ返っていてゴチャゴチャなんだよー。あと、街並みだってゴチャゴチャの美学だし。その街のゴチャゴチャ感を撮影して、アートにしてる写真作家もたくさんいる。そもそも湿潤な気候帯の自然って、ゴチャゴチャしてるんだけど、関係あるのかなあ?なんて、まとまりのない話をそのまま話したら、俄然、食いついてくれました。どのポイントだったのかは僕には不明なのですが、「スーパー・インテレサンテ!(とても参考になった)」とのこと。

ところで、ミニマリズムとゴチャゴチャの謎に関しての僕の持論ですが、日本では自然環境や人々のマインドが、実はカオスな複雑系でゴチャゴチャしてるからこそ、ミニマリズムに特別な美を見出してアートになった!?違うのかな?

また逆に、ミニマリズムでやせ我慢すると、どこかでゴチャゴチャに爆発するって言う法則もあるような気がします。一部のe-commerceのウェブサイトは、そんな日本人のマインドに最適化しているのでしょうね。説明書きなどを読みつつ、ゴチャゴチャ紛れに、ポチッと、クリック!元来、市場って買い手と売り手の駆け引きがあったり、アレヤコレヤと目移りしたり、ザワザワしてるものですしね。イタリアの若者を驚かせた日本のゴチャゴチャテイストのウェブサイト、そんなザワザワ感を再現しているのかもしれません。

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