2017.04.08

10分で読める!オンナの魅惑へ誘う名著3選

女性を描いた文学作品は無数に存在する。
そうした作品は、女性を知るうえでとても有用ではあるけれど、名作ともなると、なかなか手を出しにくいのも現実。
そこで、今回は女性の魅力に迫る名作のうち
10ページ強程度の短編作品のみをご紹介。
それぞれ10分あれば読み終わる、3編の名著をぜひお手にとってくださいませ。

■『

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「清純な少女が魔性の女へと変貌した」。これは、本作を表す上でよく見る表現だが、わずか12ページのこの物語を読んだ後、そこにわずかなズレを感じる。果たしてこの世に、そもそも「魔性の女」などという特別な女性がいるのだろうか。実はどんな女性の中にも魔性と呼ばれる性なり業があり、それが何かの拍子に目覚めるか否か、に過ぎないのではないのだろうか。

女の業を受け入れた女性は、もはや可愛い少女ではない。だから、この作品の終盤、そこにはもう少女の姿はなく、背に堂々の刺青を刻んだ世にも美しい一人の女がいるだけなのだ。少女と決別した美しい女だけが人に与えることのできる「畏怖」。まさにそれが生まれる瞬間を、息を殺して障子の隙間から覗いてしまったような気持ちにさせる作品だ。

■『町でいちばんの美女』 チャールズ・ブコウスキー著

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「末のキャスが5人姉妹のなかでいちばん美しかった。町でいちばんだった」。冒頭のこの言葉に漂う哀しい影は一体何なのか。私たちは、まるでその影の正体を探し求めるように11ページの物語を読み進めることになる。

小さな田舎町には不釣合いの美貌を持ったキャスは、当然男たちの注目の的となる。しかしキャスはまるで呪いでも振り払うかのように、その美しい身体を嫌い、消えない傷を刻み込んでいく。町でいちばんの醜男である“私”を話し相手に選んだのは、見た目など人の価値に何ら意味を持たないという点で共感を得られると思ったからだった。「キャスにはどこかふつうではないところがあった。狂気といわれる精神の持ち主だったのである」と、“私”は語る。

これと同時期に鈴木いずみのエッセイを読んだ。その破滅的な人生で有名な彼女は、1970年代に活躍したSF作家であり、女優であり、そして天才サックス奏者、阿部薫の妻だった。前述の“私”の言葉は、鈴木いずみに対してもよく言われる言葉だ。しかし、彼女のエッセイから伝わるのは、どこまでも清らかな愚直さである。彼女は心底優しく、透明で、ただただまっすぐなのだ。

果たして、彼女たちを狂っているとほんとうに言えるだろうか。決して汚れることのない清らかな心と、傷だらけになっていく身体とがゆっくりと確実に乖離してしまう様を、私たちはただ無言で眺めることしかできない。どうして優しく素直な人間が、優しく素直であるというだけで傷を負わねばならないのだろうか。虚構と分かりつつ、彼女に手を差し伸べられたらどんなにいいだろうかと、やりきれない気分にさせてくれる名作だ。

■『雨のなかの噴水』 三島由紀夫著

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「婚姻届」がふたりを夫婦にし、「離婚届」がふたりを他人にする。「付き合おう」の言葉でふたりは恋人になり、「別れよう」の言葉でふたりは他人に戻る。高度にシステム化された社会で大事なのは個々人の曖昧な感情ではなく、書類や決まり文句のような社会で共通の取り決めだ。それが法に依ろうが言葉に依ろうがふたりの関係性を多かれ少なかれ社会に担保してもらっているというわけである。

その結果、おかしなことが起こる。本来ならば感情ありきの恋愛が、感情を欠いた単なる社会上の概念にもなりえてしまうのだ。そして、概念はつねに温度を伴わない空虚なものである。

本作の主人公である“少年”は、人生で最初の別れ話をするためだけに“少女”と恋仲になる。彼の関心は、もっぱら自らの理想の実現だけだ。しかし、彼の空虚な思いこみは、感情で動く少女にはまったく通用しない。やまない雨を前にして、人の理屈に何の意味もないのと同じように。冒頭から続く彼の理想が、最後に彼女が放った一言であっけなく瓦解する様は多くの読者にカタルシスをもたらすだろう。と言うのも、概念や理屈で凝り固まってしまった心は、感情を揺さぶる女性によって解きほぐされることを望んでいるはずなのだから。

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写真にあるのは、「文鳥文庫」のもの。長くても16ページという、短くとも、深く面白い名作を集めた文庫で、デザイン性が高いのも特徴。ラインナップもとても魅力的で、最初に紹介した谷崎潤一郎著の『刺青』も並んでいる。それぞれが薄くて軽いので、毎朝カバンに一部入れて持ち歩くのにぴったりだ。

■文鳥文庫
URL /http://bunchosha.com/

文/web LEON 冨永麻由

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