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2026.10.28

靴下マニアの編集者が行く! “くつしたの町”奈良県広陵町への旅

日本有数の靴下産地であり、“くつしたの町”とも呼ばれる奈良県広陵町。そのなかでも高品質なものを厳選した「広陵くつした」ブランドを求め、LEONイチの靴下好き編集者・武田が現地を訪れました。長い歴史がありながらもほとんど知られていない、その実態とは!?。

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文/武田一希(LEON)

世界に誇れる“Made in 奈良”の靴下

広陵くつした認定ブランドの「yahae」(下)と「souki」(上)。筆者私物。

▲ 広陵くつした認定ブランドの「yahae」(下)と「souki」(上)。筆者私物。

靴下。それは肌にもっとも密接する衣類のひとつでありながら、ファッションにおいては、どうにも脇役扱いされがちな存在です。洒落者を自認する御仁でさえ、靴や時計には一家言あっても、靴下となると案外無頓着だったりするもの。


その理由は、おそらく人目に触れる機会が少ないからでしょう。でも、むしろそこがいい。パンツの裾からチラリと覗いた一足に、その人の美意識やこだわりが滲んでいたら、なんとも粋じゃありませんか。

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しかも靴下の魅力は、見た目だけではありません。素材や編み方ひとつで履き心地は驚くほど変わりますし、上質なそれに足を入れれば一日の気分も上向くというもの。誰にも気づかれないかもしれないけれど、自分だけは知っている。そんな密やかな贅沢が、靴下にはあるのです。


申し遅れました。ワタクシ、LEONイチの靴下好き編集者、武田と申します。毎月、いや、下手をすると毎週のように靴下を買っておりまして、もはや所有数は把握不能(笑)。そんなワタクシが、昔から好んで愛用しているのが“Made in 奈良”の靴下です。


実は奈良県は、国内のソックス生産で約6割のシェアを占めているほどの日本を代表する靴下生産地。とはいえ、最初から産地を意識して選んでいたわけではありません。気に入って買った靴下を調べてみると、なぜか奈良県産が多かったのですね。


これは偶然なのか、それとも必然なのか。そんな疑問をお世話になっているPRの中野さんにお話していたところ、なんと奈良県の靴下生産地を巡るツアーにお誘いいただきまして。靴下好きとしては願ってもない機会。喜び勇んで行って参りました。

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靴下の生産は、農家の納屋から始まった⁉︎

「ヤマヤ」の旧工場は、この住居に隣接。これも広陵町の靴下産業のはじまりを知る手掛かりに。

▲ 「ヤマヤ」の旧工場は、この住居に隣接。これも広陵町の靴下産業のはじまりを知る手掛かりに。

今回訪れたのは、奈良県広陵町。全国有数の靴下生産量を誇り、“靴下のまち”として知られる歴史ある土地です。


まず驚かされたのが、ツアーの会場。靴下ブランド「yahae」を展開する「ヤマヤ」の旧工場だというそこは、いたって普通の住宅の中にありました。でも、その理由を聞いて納得。実は広陵町の靴下産業、もともとは農家の副業として始まったものなのだそう。

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この地域では江戸時代から大和木綿などの綿作や織物が盛んでしたが、明治時代に入ると機械化や輸入綿の普及によって、従来の織物産業が衰退。そこで新たな仕事として広まったのが靴下作りだったというわけです。その発展には地元出身の吉井泰治郎氏の貢献がありました。手回し式の編み機を導入し、靴下の製造を開始。やがて農家の納屋などに数台の編み機を置き、農作業の合間に靴下を編む文化が地域に広がっていったのだそう。つまり、靴下工場の原点は農家の納屋、ということで、この場所に工場があるのに納得した次第。


で、戦後の洋装化や高度経済成長、新素材や編み機の進化を追い風に、みるみる一大産地へと発展。平成元年には広陵町の年間靴下生産量が1億足を超えたというのです。まさに、足元からの大躍進であります。

靴下に靴下を履く!? 産地ならではのおもてなし

スリッパ代わりに着用したシルク製の靴下カバー。

▲ スリッパ代わりに着用したシルク製の靴下カバー。

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さて、そんな旧工場に足を踏み入れると、まず手渡されたのが靴下カバー。なんと、靴下の上からさらに靴下を履くという、予想外のおもてなしです(笑)。聞けば、今日はスリッパ替わりに使うんだとか。しかも素材はシルクという贅沢さ。ビヨンビヨンに伸びるので、この日履いていた「yahae」の厚手の靴下の上からでも、難なく履けてしまいます。さすがは靴下の町。足元への気遣いもひと味違います。


会場内には、「広陵くつした」に認定されたファクトリーブランドのブースがずらり。熟練職人の技術を駆使した繊細なドレスソックスから、スポーツに特化した高機能ソックス、稀少な旧式編み機でゆっくり編み上げるローゲージソックスまで。その顔ぶれは実に多彩です。


同じ靴下なのに、素材も表情も履き心地もまるで違う。普段は靴下売り場であれこれ物色している筆者ですが、作り手のこだわりを直接聞きながら眺めると、また見え方が変わってきます。

靴下を裏返すだけの職人がいるって、ご存知?

会場では町長や事業者によるトークショー、靴下にまつわるワークショップなど、さまざまなプログラムが用意されていました。なかでも印象的だったのが、「souki」を展開する創喜の出張耕平社長と、「NOUTOMI」を展開する野富の野村社長によるトークショー。

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創喜の出張耕平社長(右)と、野富の野村社長(中)。

▲ 創喜の出張社長(左)と、野富の野村社長(中)。右は今回のコーディネーターである阪急百貨店の花谷さん。

広陵町の歴史もさることながら、靴下作りの裏側が実におもしろい。靴下なんて機械に糸をセットしてスイッチを押せば、ポンと出来上がるものだと思っていませんか? ところが、そう単純ではないのですね。編み立て、つま先の縫製、仕上げ、検品など、一足が完成するまでにはいくつもの工程があり、それぞれに専門の職人が関わっているのだそう。なかには、一日中ひたすら靴下を裏返す職人さんまでいるというのです。


さらに興味深かったのが、プロが靴下を見る目。素材や編み目の美しさはもちろん、特につま先の仕上げを見れば、どれだけ丁寧に作られているかがわかるとのこと。座敷での食事会などでは、ついつい他人の靴下に目がいってしまうのだとか。靴下のプロの前では、おいそれと靴を脱げませんね(笑)。


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各社が尖るからこそ、おもしろい

一方、トークショーでは産地が抱える厳しい現実についても語られました。海外製の低価格商品との競争、原材料費の高騰、そして人手不足。かつてのように大量生産していれば商売が成り立つ時代ではなくなり、長年続いた靴下メーカーの廃業も相次いでいるのです。


そこで各社が力を入れているのが、OEM中心の物作りから、自社ブランドによる高付加価値のある物作りへの転換。ただし、良い靴下を作るだけではありません。なぜその素材なのか、なぜその編み方なのか、どんな人に履いてほしいのか。その価値を作り手自身が伝えなければ、なかなか選んでもらえない時代なのですね。


そんななか、印象に残ったのが、ブランディングについてのこんな例え話。山奥にぽつんとある食堂で、メニューが「かけうどん」のみだったら、なんだか気になる。でも、うどんに寿司、カレー、ハンバーグまで並んでいたら、果たしてどうでしょう。要するに、何でもできることよりも、何かに徹底的にこだわることが大切だというわけ。


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前述のように広陵町には、薄く繊細なドレスソックスを得意とする工場もあれば、ざっくりとしたローゲージやスポーツ用の高機能ソックスに特化した工場もあります。それぞれが独自の技術を磨き、得意分野で尖っている。その個性豊かなメーカーがひとつの町に集まっていることこそ、広陵町の強みなのですね。

自転車を漕いで靴下を作る⁉︎

さて、そんな話を聞いた後は、いよいよ生産現場へ。訪れたのは、先ほど登壇された出張社長が率いる「創喜」であります。

ローゲージ靴下の製造に不可欠となる稀少な旧式編み機。

▲ ローゲージ靴下の製造に不可欠となる稀少な旧式編み機。

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ここは1927年創業という、間もなく100周年を迎える老舗メーカー。強みは、稀少な旧式編み機を使ったローゲージソックスです。最新の高速編み機とは異なり、ゆっくりと時間をかけて編み上げることで、空気を含んだようなふっくらとした風合いに。効率だけを考えれば、古い機械は決して合理的とは言えないでしょう。でも、その機械でなければ生み出せない表情や履き心地がある。なんとも贅沢な話じゃありませんか。さらに、吉野葛和紙を使った糸や、セーターに用いられるような素材など、糸そのものへの探究心も並々ならぬもの。


実はワタクシ、この夏には「souki」のリネンソックスをまとめ買いしておりまして。そのドライな履き心地が気に入り、ほぼ毎日履いていました。その作り手の現場を訪れることができたのですから、感慨もひとしおです。

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そして、創喜でもうひとつ興味深かったのが、「チャリックス」なるユニークな取り組み。名前からなんとなく想像できるかもしれませんが、自転車をこぐことで編み機を動かし、オリジナルの靴下を作ることができる体験型コンテンツです。豊富に用意された糸から好きな色を選び、組み合わせ、さらに長さもセレクト。自分だけの一足を作ることができるというわけで、そんな一足は当然ながら愛着もひとしお。思い入れが強すぎて、いまだに履けずにいるのですが……(笑)。


ちなみに夜は、生産者の皆さんとの懇親会を兼ねた食事会へ。奈良県が誇る食材やお酒を堪能しながら、靴下談議に花を咲かせました。灯りの少ない古い街並みも幻想的で、昼間の工場見学とはまた違った魅力を感じられるひと時に。土地そのものの魅力にも、すっかり惹かれてしまったのであります。

スポーツから医療まで。靴下の可能性は想像以上

二日目に訪れたのは、1935年創業の「昌和莫大小」。こちらも長年、著名ブランドのOEMを手掛けてきた老舗ですが、2017年に自社ブランド「OLENO」を立ち上げ、スポーツやアウトドアに特化した高機能ソックスを展開しています。

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工場に入ってまず印象的だったのが、創喜とは対照的な設備の数々。先進的な丸編み機やホールガーメント編み機などを駆使し、用途に合わせて素材や編み方を細かく変えながら、理想の一足を追求しているのですね。

靴を履かずに歩くことで筋力増強や血行促進に効果を発揮する「はだし靴下」(手前)と、日常使いもできる洒脱な着圧ソックス(奥)。

▲ 靴を履かずに歩くことで筋力増強や血行促進に効果を発揮する「はだし靴下」(手前)と、日常使いできる洒脱な医療用着圧ソックス(奥)。

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なかでも驚かされたのが、「はだし靴下」。その名のとおり、裸足に近い感覚で足を動かすことを目指したソックスなのですが、なんと屋外での使用も想定しているのです。開発のきっかけは、子どもたちの足の筋力や身体機能への問題意識だったそう。裸足感覚を生かしながら、屋外で使える耐久性をどう確保するか。そこで採用したのが、針金の8倍の強度を持つ高強度繊維。ところが、あまりに丈夫な糸だったため、通常の靴下編み機では針が折れてしまったというのです。そこでセーターなどを編む横編み機を導入・改良し、約3年の歳月をかけて完成させたのだとか。靴下を作るために、編み機から変えてしまうとは。もはや執念の領域ですな。


さらに、医師と共同で開発した医療用着圧ソックスや、スポーツ競技ごとに必要な機能を追求したソックスなど、その守備範囲は実に幅広いのです。

たかが靴下、されど靴下

靴下好きとはいえ、ここまで靴下と真剣に向き合った二日間は、さすがにはじめて。今回の取材で強く感じたのは、広陵町の靴下産業が今、大きな転換期にあるということでした。


100年以上にわたって受け継がれてきた技術は、もちろん大切。でも、伝統を守るだけでは、次の世代へつなぐことはできません。だからこそ各社が自社ブランドを育て、物作りの価値を自ら発信し、工場見学やワークショップといった新しい体験も創出。さらに広陵町では、子どもの足の健康を考える「足育」の研究も進められています。靴下を作るだけでなく、足そのものの健康や成長まで考える町へと、活動の幅を広げているのです。

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「yahae」のガラ紡シリーズは何足も持っているお気に入り。

▲ 「yahae」のガラ紡シリーズは何足も持っているお気に入り。

ファッションにおいて足元が大切なのは言うまでもありませんが、靴だけでなく、その内側にももっと目を向けるべきだと再認識。洒落た靴を履いていても、脱いだ途端に靴下が残念では、なんとも惜しいですからね。


そんなわけで、広陵町から帰ってきたワタクシの靴下愛は、ますます深まるばかり。そして当然、コレクションも増える一方なのであります(笑)。

■ 「広陵くつした」認定ブランド一覧

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