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2021.10.31

僕らはみんなターボ車に夢中だった!

ひと昔前のクルマ好きにとって強力なパフォーマンスを引き出すターボの存在は特別なものだった。仕事柄、数多くのターボ車に乗ってきた著者が、なかでも記憶に残る名ターボ車を振り返った。ときに恐怖体験でもあったその魅力とは?

CREDIT :

文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽

岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第171回

懐かしきターボ車たち!

最近のターボ車の多くは優れた性能と燃費を両立させており、日常領域の扱い勝手にも優れている。むろん排ガスも燃費もしっかりコントロールされている。優等生だ。軽自動車にまで普及している事実が、最新ターボ車のポジションを雄弁に物語っている。

むろん、強力なパフォーマンスを引き出すためにターボを採用するクルマも少なくない。が、そうしたクルマたちもまた洗練されたパフォーマンスと扱い勝手を身に着けている。

僕が初めて乗ったターボ車は「BMW 2002ターボ」。1973年のことだ。通称マルニターボは世界初の市販ターボ車でもある。2ℓ4気筒で170ps/5800rpm、25.4kgm/4000rpmの最高出力/最大トルクを引き出していた。ターボはKKK製。

現在の水準では平凡な出力/トルクでしかないが、50年前の水準では、「すごい!」と膝を打つほどの出力/トルクだった。ダイナミックなエアスポイラーとオーバーフェンダーも、そしてエアスポイラー上に逆さ文字で描かれた「turbo」の文字もインパクト大。その姿は、周囲に強いプレッシャーを与えるに十分な迫力があった。

しかし、いちばん迫力があったのはターボ特性。いわゆる「極端なドッカンターボ」で、低回転域ではまるでトルクがない。もう「スカスカ」と言っていいほど非力だった。そして、3500~4000rpm辺りからいきなりトルクは急上昇し、6000rpm辺りで頭打ちになる。記憶は明確ではないが、イメージとしてはこんな感じで間違いはないかと思う。
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MTは5速。低位ギアではフルに引っ張らないとシフトアップする時ターボゾーンを外れてしまう。高位ギアを多用できる郊外路ならいいが、低位ギアを多用する街走りでは、「覚悟を決めて頑張るか」、「諦めて大人しくするか」の選択を、否応なく迫られた。

マルニターボは、頑張ってターボゾーンを巧くつないでいけば速かった、、、が、ターボゾーンを外すと情けないほど遅かった。当然、乗りにくかった。「ターボって、こうなんだ!」と驚いたものだ。

日本初のターボ車は、1979年にデビューしたセドリック/グロリア。ターボといえばスポーツ車のイメージだったが、日産は実用性重視のターボを開発。それが市場に受け入れられて、ターボブームの火付け役になった。

スポーツ系走り系ターボ車の日本初は、6代目・R30型スカイライン。1983年からカタログに加わった「2000RSターボ」だ。「史上最強のスカイライン」というキャッチコピーで売り出したが、たしかに強力だった。過激派系に類するターボだが、それはドライバーを楽しませる範囲内であり、ストレスを抱かせるものではなかった。そのルックスを含め、未だ多くのファンがいるのも頷ける。

日産のターボ車といえば、忘れてならないのは1988年にデビューした初代シーマ。折からのバブル景気にも乗って売れまくった。

人気の理由は、いかにも高級車然としたサイズとルックス。そして3ℓ・V6の「ターボパワー」だった。アクセルを深く踏み込んだ時の加速は、過激派系に仕分けられる強力なもの。加えて、フル加速時に尻をグーッと沈める動作が、さらに加速感を強調した。シーマの加速感は、バブル真っ盛りという時代の空気にもピタリとマッチしていた。
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日本生まれの「過激派ターボ車」として絶対外せないのは、ホンダの「シティ・ターボⅡ(1983年)とトヨタ・スターレット・ターボS(1987年)の2台。この2台にはタップリ楽しませてもらった。

まずはホンダから話をすすめるが、シティ・ターボⅡには「ブルドッグ」のサブネームがつけられていた。まさにピッタリだった。シティは街乗り中心のコンパクトカーとして開発されたが、長さと幅に対して背が高いことから「トールボーイ」とも呼ばれた。

そして、コンパクトで軽量(735kg)なボディに加え、1.2ℓ・4気筒ターボ・エンジンからは110ps/16.3kgmが引き出されていた。過剰なほどの強力さだ。

ハイパワーなFF車は、急加速時の前輪のトラクションをいかにコントロールするかがテクニック上の重要なポイントになる。なので、規格外のパワフルさとヤンチャさを発揮するブルドッグを巧く操るには、テクニックと共にかなりの自制心も必要だった。

発進時に前輪を空転させるのは簡単。ちょっとアクセルを深く踏みさえすればいい。試してはいないが、その気になれば空転させ続けることだってできただろう。とにかく、笑ってしまうほど簡単に前輪は空転する。低位ギアでのコーナリングも、冷静に攻めないと、すぐ強いアンダーステアが出る。当時のホンダの熱さと楽しさを凝縮したようなクルマだった。

ブルドッグほどではないものの、スターレット・ターボSのヤンチャぶりもかなりのものだった。
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ボディサイズはブルドッグより一回り大きく、ホイールベースも長く、重量も50kg以上重い。そして、出力/トルクは少しだけ下回る。なので、その分角は丸い。とはいえ、「世の水準や常識」に照らし合わせれば、
ヤンチャ度は間違いなく一級品だった。

当時、若者向けカッ飛びグルマを「ボーイズレーサー」と呼んだが、スターレット・ターボSは、そんな呼び名にピッタリだった。

締め括りは「とびきりの4台!」をピックアップしよう。「スカイライン R32 GTR」、「ランチア デルタHF インテグラーレ 16V」、「フェラーリ F40」、「ブガッティ・ヴェイロン」の4台だ。

スカイライン R32 GTR(1989年)は、ターボパワーも強力だったが、走りのすべてが強力だった。単に速いというだけではなく、当時としては異次元とさえいえる驚異的スタビリティをも持っていた。200km/hオーバーでの急なレーンチェンジをも難なくこなした。

デビュー時、ニュールブルクリンクでのコースレコードを、それも圧倒的なタイムで塗り替え、世界のライバルたちを震撼させたことも痛快だった。

「ランチア デルタHF インテグラーレ 16V」(1989年)は、WRCを席巻したラリーカーのベース車として生を受けた。ターボパワーはやや控えめだったが、その分コントロールはしやすい。そして、FR寄りの前後駆動力配分を持つ4WD、短めのホイールベース等とも相まって、身のこなしは抜群だった。

とくに鮮明に思い出すのは「ドリフトが楽しかった!」こと。自由自在に振り回せた。とくに、アングルの浅いロスの少ないドリフトでワインディングロードを駆け抜ける、、、これは最高の快感だった。
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フェラーリ F40(1987年)は怖かった。上記の、スカイラインR32 GTRやランチア デルタHFは、高速でのコントロールが「自在」であることが快感だった。ところが、フェラーリ F40はその対極にあった。

3ℓV8 ツインターボの出力/トルクは478ps/58.5kgm。特に凄いといったほどでもないのだが、その出力特性は「過激」そのものだった。F40の基本コンセプトは「そのままレースに出られる市販車」というものだったと聞くが頷ける。ターボゾーンに入ると急激に一気に立ち上がるパワーには怖気づいた。いや、そんな生易しいものではない。「恐怖に凍りついた!」といった表現の方がより妥当だ。

同じ超過激派でも、ホンダ・ブルドッグは笑って楽しめた。F40との絶対スピードの違いには天と地ほどの差があるからだ。当時のフェラーリ契約ドライバーが、「雨の日は絶対に乗りたくない」と言ったとの話が漏れ伝わってきたが、100%納得だった。

8ℓのW16気筒に4基のターボを組み込み1001ps/127.5kgmを引き出したブガッティ・ヴェイロン(2005年)。これも強烈だった。2.5秒とされる0~100km/h加速は、F1の加速とほぼ匹敵する(ようだ)。

ヴェイロンには完備されたテストコースで乗る機会はなかったが、その加速は凄まじいのひと言に尽きた。加速の絶対値が高すぎて感覚が追いていけない。一度だけ3速全開をトライする機会があったが、直線路なのに緊張はピークに達した。アクセルを戻した時のなんとも言えない安堵感は忘れられない。

多くのクルマに乗ってきたが、今回ピックアップした「ターボ括り」のクルマたち、、その思い出が消えることは絶対にないだろう。

● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト

1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

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