2018.08.17

BMW Z4と過ごした至福の時間

ポルトガル南端ワインディングロードでの、BMW Z4とのひととき。街中での低速運転との印象の違いに、いい意味での裏切りを受けたのだった。

CREDIT :

文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽

2002年の初冬だったと思う。僕はBMWの招きで、ポルトガル南端の町ファーロに向かった。

この美しい南の町には、すでに何度か行ったことがあった。いずれもスポーツ系モデルの試乗会だが、北大西洋に面した断崖沿いの道路は最高だった。

景色がいいのはもちろんだが、狭めの片側1車線の道路は、「ザ・ワインディングロード」と呼ぶに相応しいものだ。

中小のコーナーが複雑に曲がり、アップダウンし、うねり、それらが延々と続く。クルマの往来はほとんどない。

スポーツカー、とくにコンパクト系を試し、楽しむ条件はすべて揃っている。

僕はクリス・バングルが描きだした、古典的ロードスター、BMW Z4の姿にひと目ぼれしていた。

長いノーズ、後輪の少し前にドライバーが位置する古典的なスポーツカー。それをモダンなディテールで包み込むZ4の姿を見ただけで、身体が熱くなるような感覚を覚えた。

ファーロで待っていたのは「Z4 3.0i」。BMWのシンボル的パワーユニットであるストレートシックスを長いノーズの下に積んだトップモデルだ。
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雲は低く、トップをオープンにするには少し肌寒かったが、乾いた空気が心地よかった。

ドライビングポジションは低く、手足を自然に伸ばしたところにステアリングホイールがあり、ペダルがある。身体がもっとも安定し、自由に動く。

ステアリングホイール径、グリップの太さ、グリップ感もピタリと馴染んだ。

6速MTとクラッチのフィールも文句なし。どんなシフトも思いのまま、そんな感覚。
となれば、否応なく心の準備は整う。

街は淡々と走った。3ℓのストレートシックスは最高のマナーを示しながらも、少しだけ威嚇的な唸りも響かせていた。躾は完璧だった。


ただし、舗装の荒れた街の道路での乗り心地は酷かった。

走り優先のサスペンション設定と、初期のBSランフラット・タイヤ(18インチ)がもたらす乗り心地は、単に硬いといったものではなく、「最悪!」のレベルだった。

この点については、あらかじめBMWのエンジニアから伝えられていたが、予想を大きく超えていた。とくにハーシュネスは酷かった。

しかし、同時に、「しかるべき場所に行けば、気に入るよ、間違いなくね!!」とも言われていた。
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その通りだった。街を抜け、北大西洋を見下ろすワインディングロードに入った瞬間、Z4は、最悪のクルマから最高のクルマへと切り変わった。

たぶん数分の間に、僕のドライビングのリズムは、リラックスモードからハイテンションモードへと切り替わった。

ほとんど2、3、4速でこと足りたが、変速頻度は猛烈に高かった。ブレーキ頻度も同様。ステアリング操作ももちろんだ。

ターンインでのブレーキングドリフトは多用したが、リアのスライドは最小限に抑えて走った。

Z4のフロントは気期待どおりに気持ちよく応答し、間髪置かずにリアが追従する。ほとんどニュートラルに近い弱アンダーで、連続するコーナーをクリアしてゆく。

気負いもなかったし、肩の力も抜けていたが、高いアベレージで走っているのはわかっていた。尋常じゃないアベレージであることもわかっていた。

不安や怖さはまったく感じなかった。僕の動作とZ4の動作が完璧にシンクロしていることに、ひたすら快感を感じていただけだ。

街では最悪だと思っていたBSの18インチ・ランフラットも、「これしかないよな!」と、真逆の印象にすり替わった。

ちょっと小径なホイールを始めとしたステアリング系の心地よいタイトさと正確な反応、それもタイヤからの恩恵が大いにあることはすぐわかった。
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おおよそ小一時間、僕はZ4とのコミュニケーションに集中し続けた。ごくたまに前方のクルマを抜く、対向車とすれ違う、その時だけ集中は途切れる。

が、中途半端な抜き方はしない。しっかり減速して、確実に安全な追い越しポイントが来るまでアクションは起こさない。少々追従時間が長くなっても。

中途半端な抜き方は、相手に不快感と不安感を抱かせることになるし、それは僕の心にも同様にさざ波を引き起こす。

それは嫌なことだし、ドライビングのリズムを崩し、集中を欠くことにも繫がる。

Z4はただの一度も僕に不安や怖さを感じさせることなく、小一時間の熱いセッションを思いのままに走り切らせてくれた。

その間、Z4と僕が「最高にハッピーな関係」にあったことは間違いない。

ファーロの街に戻ると、当然、酷い乗り心地を再確認することになったが、「酷さ」の受け取り方はガラリと変わった。朝は「我慢できない酷さ」だったものが、夕方には「我慢するに値する酷さ」へと変わった。

いや、ドライビングマシーンとして、Z4がもたらしてくれる喜びと快感に較べれば、市街地の低速での乗り心地の酷さなどほんの些細なこと。試乗の後、僕はそう答えを出した。

その夜、僕はBMWジャパンにZ4の予約を入れた。
●岡崎宏司/自動車ジャーナリスト

1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

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