2018.06.15

驚愕のVWポロ!!

数多のクルマに乗ってきた筆者には、印象に残らなかったクルマもあれば、一生忘れられないクルマもある。「VWポロ」は後者のうちのひとつだという。

CREDIT :

文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽

多くのクルマに乗ってきた。数え切れないほどの。その中には、1日も経たないうちに忘れてしまったようなクルマもあるし、一生忘れられないクルマもある。

今回ご紹介するのはもちろん後者で、クルマはVWポロ。というと、「そこら中を走っている大衆車がなぜ!?」と思う方も多いだろうが、まあ、聞いてほしい。

1980年代半ば頃だったと思う。僕は「道を知る旅」に出た。前にも触れたが、当時、真剣に取り組んでいた道の勉強の一環だ。

出発点と終着点はハノーバー。ハノーバーを起点にした理由はふたつある。ひとつはVW本社のウォルブスブルクに近いこと。旅の足をVWに頼んだからだ。

もうひとつはベルギー、オランダ、フランスへのアクセスがいいこと。ドイツを加えて、4つの国の道路事情、主に高速道路事情を皮膚感覚でしっかり掴むのが目的だった。
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欧州には何度も足を運んでいたし、メーカーからテスト同行の依頼も何度も受けていた。だから、道路状況の大方はわかっていた。

でも、「道を知る」ことに集中したことはなかった。いつも試験車に集中しているからだ。そこで、道を知るためだけの旅を考え、集中するために一人旅を選んだ。

クルマも特殊なものではなく、世界標準とも言えるVWを使うことにした。VWに旅の概要を伝え、車両の貸し出しをお願いした。

ハノーバー空港直近のホテルのフロントに、VWからのメッセージとクルマのキーが預けられていた。

部屋に荷物を置き、早々にクルマを見に行った。指定された場所に置いてあったのは、1.3ℓ+4速MTのポロ・クーペ。どこからみてもふつうのポロ・クーペだった。

コンパクトで、燃費がよくて、走りは軽快。旅の足としてはいい選択だ。「気軽に楽しい旅を!」というVWの気遣いを嬉しく感じた。

しかし、その一方で、「なんだポロか…もうちょっと上のクルマにしてほしかったなぁ」との思いも過ぎったことは確かだ。
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ところが、走り出した瞬間、そんな思いは吹き飛んだ。

エンジンは異様に滑らかで、レスポンスも異様にいい。トップエンドまで回しても濁り感など一切ない。加えてパワーもトルクもかなり引き上げられている。

4速MTも最上のタッチで決まるし、クラッチの滑らかさとメリハリも文句なし。アイドリング時の不快な振動もない。加減速時のパワートレインもしっかり抑えが効いている。

180km/hほどの速度での巡航も楽々できた。耳障りな音は封じ込められ、乗り心地も快適。スタビリティも万全。アウトバーンなら、数百kmの移動も苦にならない。

初日は、オーストリア国境に近い南ドイツの山岳地帯まで走った。ハノーバーからの距離は700kmくらいだから往復で1400km。加えて“南ドイツの箱根”までも走り回ったので、総走行距離は1500kmを超えたはずだ。

早朝にでて、夜10時前にはハノーバーに戻ったと記憶している。つまり、16〜17時間ほどの旅程だったわけだが、ポロも僕もスンナリこなした。食事ストップもドリンクストップもしたし、楽しい日帰り旅だった。

その間の走り方は、許される最高速度をキープし続ける。わかりやすくいえば、可能な限り全開で走ったといったことになる。

ちなみに“南ドイツの箱根”も大いに楽しませてもらった。額に汗がにじみ出てくるくらい走った。かなりよくできたライトウェイトスポーツ、ポロはワインディングロードもそんな感触で走り抜けた。

外見はまったくふつうのポロ。だが、走りも快適さも異次元だった。VWはなにも知らせず、説明もせず、“特別仕立て”のポロを僕に試乗させたことになる。

「道を知ること」に集中するはずだった旅が、予期しないスーパー・ポロの登場で様変わりしてしまった。道に集中しているつもりが、いつの間にかポロに集中しているのだ。
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ベルギーでは面白い出会いがあった。ランチしようと田舎町のレストランに入ったら、ブリュッセルに拠点を置くトヨタの開発部隊とバッタリ出くわした。

チームリーダーはかなり親しい人で、その他にもよく知った顔があった。試作車のお忍びテスト中だった。現行車の外観と次期型車の中身を組みあわせた試作車だった。

「いやぁ、嫌な人と出会っちゃったなぁ」とチームリーダー。「いい人と出会っちゃったなぁ。ランチ代も浮いちゃうし」と僕。

もちろん同じテーブルで食事して、あれこれお喋りを楽しんだのだが、僕がVWポロの件を持ち出すと話は一気に盛り上がった。

VW、とくにゴルフとポロは小型車の世界標準であり、追いつき追い越せの目標でもあった(今でも変わりはない)のだから、「とんでもなくすごいポロ」の話となれば盛り上がるのは当然だ。

で、結局、その日の午後はトヨタチームと共に行動。僕がトヨタの試作車をチェックし、トヨタチームがポロをチェックすることに。

VWに対しては少し後ろめたい気持ちもあったが、あくまでも旅の足に用意された「ふつうのポロ」だと解釈することにした。

相互評価の結果だが、僕はトヨタの試作車にかなり辛い採点をし、トヨタチームのポロ評は「まいった!驚いた!」だった。たとえワンオフの特別仕様だとしても、その実力は驚愕に値するものだったわけだ。

ベルギーの片田舎での出会いがトヨタにどんな影響を与えたかはわからない。が、居合わせた人たちに衝撃を与え、世界は遠いことを生々しく実感させただろうことは想像できる。

僕もまた同様に、日本車とVWの距離が遠いことをいやというほど実感させられた。

日本に帰ると案の定、VW日本事務所から「ポロどうでした?」との連絡が。トヨタチームとの遭遇の件も含めて詳しく報告したが、おとがめは一切なし。「楽しい旅のお手伝いができてよかった!」との言葉までいただいた。思い出深い旅だった。
●岡崎宏司/自動車ジャーナリスト

1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

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