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2021.08.22

「TOKYO 2020」の開会式に見た真夏の夜の夢とは?

TOKYO 2020の開幕式。国立競技場の上空に浮かび上がった「市松模様のエンブレムが地球の形に変わる」シーンをアナタはどんな思いで見ただろうか? 筆者は強く想像力を刺激され、楽しい夢想が蠢き出したという。

CREDIT :

文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽

岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第166回

「空飛ぶクルマ」に乗りたい!

「TOKYO 2020」はなんとか無事に終わったようだ。多くの困難に直面したし、成功だったかどうかの結論が出るまでには、まだまだ時間はかかるだろう。でも、アスリートたちの戦いは素晴らしいものだった。これだけは間違いない。2週間、僕はTVの画面に釘付けにされた。

そんな TOKYO 2020の開幕式で、想像力を強く刺激された一幕があった。夜の国立競技場。その上空に浮かび上がった「市松模様のエンブレムが地球の形に変わる」シーンだ。映像技術もずいぶん高度になったなぁ、、、そんな感じでなんとなく観ていたのだが、アナウンサーのひと言で、一気に想像力に火がついた。

「1824機のドローンが描く地球が輝いています!!」、、、正確ではないかもしれないが、そんな言い回しだったと思う。

ドローンが、点検作業、農薬や肥料散布、3次元測量、空撮、、等々、多くの分野で実用化されていることはもちろん知っていた。でも、それ以上のことは知らず、2018年の平壌五輪で同様なことが行われたのも知らなかった。ちなみに、平壌五輪では1218機のドローンが使われたそうだ。

そんなことで、僕にとって、「1824機のドローンが描くキラキラした地球」は驚きだったし、衝撃でもあった。すぐにあれこれググってみたのだが、使われたドローンは、米intelの「Shooting Star」と名付けられたシステム。

「重さは330g、ローター直径が15cmの小型クアッドコプター、LEDライトの組み合わせで40億種類以上の光を表現できる、1台のPCで数千機のドローンをコントロールできる、、、」といったこともわかった。ハイテクに疎い僕は、これらを知っただけで「すごい時代がきてるんだ!!」と驚き、感激したが、同時に楽しい夢想が蠢き出した。
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夢想とは「ドローン=空飛ぶクルマ」に乗り、できれば操縦もするといったことだが、夢に満ちた未来の移動手段は、世界中で静かに、しかし熱く開発競争が進められていることもわかった。

16個のプロペラが付いた二人乗り、最高速度130キロ、自動操縦、予価30万ドル、といったスペックのドローン。実際に人が乗って飛んでいる映像もあった。見ているだけでワクワク、ムズムズしてくる映像だった。

トヨタも出資するアメリカのベンチャーが開発する電動垂直離着陸機。これは、パイロットと4人の乗客を乗せて160kmの飛行が可能という。数年内に世界規模でのエアタクシーネットワーク構築を計画しているとのこと。

僕にとって、空飛ぶクルマは、今はまだ夢の世界、想像の世界でしかない。だが、早ければ3~5年先には現実の世界として、扉が開かれるかもしれないのだ。こうした計画には、各国規制当局からの承認というすごく高いだろうハードルが待ち受けているはず。そして、それを超えられるかどうかが、夢から現実に変わるまでの時間を大きく左右するのだろう。

話は少し飛ぶが、未来の移動を担わんとする空飛ぶクルマ、、、その機材やフライト映像を見ながら頭に浮かんだのは、ヘリの思い出だった。

ヘリに乗る機会がもっとも多かったのは1970年代後半から1980年代にかけて、、、。自動車メーカーの研究所やテストコースに招かれるとき、移動手段としてよくヘリが使われた。まずは本社であれこれミーティングをして、その後テストコースに、、、といったケースが多かった。

街の、山の、海の上を、200~300mほど?の高度で飛ぶヘリからの眺めが僕は好きだ。なにか大きな自由を獲得したような、高揚した気持ちになる。

ちなみに、ヘリのベストな思い出といえば、WBC ラリー・フィンランドを追いかけたときのことが挙げられる。1975年のことだ。

透明なカウルが足下まで伸びた視界抜群の小型ヘリだったが、痺れたのはパイロット。年齢は30代後半くらいで、フィンランドの上位ランカーだったという元ラリースト。ラリーコースは熟知しているし、飛び方がまた「ラリーカーのようだった!」のだ。ヘリがこれほど機敏で俊敏な身のこなしができるとは思ってもみなかった。

速いコーナー、タイトなコーナー、複合コーナー、ジャンピングスポット、、、いろいろなコーナーをいろいろなアングルと高度から存分に見せてくれた。木や電線スレスレに飛び、サービスポイントでは、「ヤバい!!」と声を上げてしまいそうな小さな空き地に降りることもあった。

彼のヘリ操縦技術には、ラリーで培った独特の動体感覚が塗り込められているのだろうと思った。二度とできない最高の経験をした。
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空飛ぶクルマに話を戻すが、高度な安全性確保のため、高度な自動操縦が求められるのは当然のこと。地上を走るクルマも同様だ。安全性と快適性を高める自動運転の高度化は、今後必須の条件になる。

自動運転の高度化は、クルマ好き、運転好きにとっては面白くない未来像かもしれない。でも、なににも優先されるべき安全性を軸にした進化像としては逆らえないことだ。僕も「運転好きの権化!?」のような人間。基本的には昔も今も変わらない。しかし、歳を重ねるにつれ、視力、とくに夜間視力を中心にした感覚の衰えは認めざるを得ない。

なので、5~6年前から、「日々使うクルマは最新の運転支援システム搭載車」と決めている。運転支援システムが高度化すれば自動運転に近づくわけだが、そうなれば、僕の運転寿命も伸びるかもしれない。

自動操縦が空飛ぶクルマに高い安全性をもたらすだろうことは、理論では理解できる。だがその一方、多くが大都会上空を安全に飛び交えるということを、正面から受け容れるのには抵抗があった。「ほんとうに安全なのか?」との思いが、どうしても頭を過った。

しかし、国立競技場上空の小さな空間の中、1824機ものドローンが整然と緻密に動き、心奪う美しいシーンを演じきったことを見て、疑念は急に小さくなった。そして、空飛ぶクルマで、東京やNYやロンドンを飛びたいという気持ちが一気に強くなった。
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空飛ぶクルマの安全性が、高度な自動操縦技術によって(もちろん、法整備と高度なインフラ整備も必須だが)担保されることは間違いないだろう。それはそれでいい、、、のだが、どうも引っかかるところがある。

運転好き=操縦好きとしては、すべてをシステムに委ねるだけ?、、、自分の出番はまったくない?、、、というところが引っかかる。クルマで言えば、運転支援システムは有り難い。だが、その一方で、「自分の意志、あるいは自分の腕で自由に走りたい!」という欲求を多くの人が持っているはずだ。絶対に!

当初はタクシーや貨物運搬に的は絞られるだろうから、自動操縦だけで構わない。いや、そうあるべきだろう。
しかし、自家用機が増え、大衆指向、中間指向、高級指向といった流れができる状況になったら、、、そこには必ず「趣味嗜好」の要素が入ってくるはず。

そして、いろいろなブランドが生まれ、実力を、価値を、華を競い合うようになり、趣味嗜好の要素が競争力を左右する大きなポイントになってゆくだろう、、、今と同じだ。

そうなれば、当然「スポーツカー」も作られる。、、、で、ラリー・フィンランドを追ったヘリのような、非日常的な空中体験 / 空中ドライビングもできるようになる、、、!?。

空飛ぶクルマにも、トヨタあり、VWあり、ロータスあり、フェラーリあり、、、それぞれが所有者の目的と趣味嗜好に寄り添った「佇まいと飛び」を提供するということだ。もちろん、普段は、法の下、自動操縦で秩序正しく安全に飛ぶ。しかし、しかるべき場所に行けば、室屋義秀選手が飛ぶエアレースのようなフライトにもチャレンジできる、、、。

夢想が過ぎるかもしれない、、、が、オリンピック開会式で1824機のドローンが描いた光景は、僕の頭に心に、そんなドキドキ、ワクワクする夢を運び込んでくれた。

● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト

1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

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