2017.12.22
アルピーヌ1300S ゴルディーニ
1970年代、木全巌氏とともにフランスを代表するスポーツカーに試乗した著者。その"人馬一体"の走り心地の限界に挑戦した。
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文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽
1960年代に頭角を現し、ラリーでレースで大きな成果を挙げた。1971年には国際ラリーのチャンピオンを獲得している。
特徴は小さく軽いところだが、それを象徴するのが1130mmの全高。ポルシェ911 カレラより165mmも低い。車重は現行F1並の635kgしかない。当然、乗降は超タイトだ。
そんなA110の中でも、もっともホットだったのが「1300S ゴルディーニ」。ルノー・R8の1.3ℓエンジンをベースに、高名なチューナー、アメディ・ゴルディーニの手で132psが絞り出されていた。
1970年当時、リッター/100psを超えるのは「凄い」こと。しかも、大衆車のOHVエンジンをベースにしているのだからさらに凄い!。ま、「カリカリチューン」の最たるものだったということだ。

試乗車の提供は輸入ディーラーではなく、個人オーナー。「ガンガン攻めて頂いてけっこうですよ!」という言葉と共にキーは手渡された。有り難い、嬉しい、言葉だった。
ここからが話しの本題だが、キーと共に手渡されたのは点火プラグケース。3×4、12本の点火プラグが入るケースだ。3×4とは、3種類の熱価の点火プラグが4本ずつということ。
「お手数ですが、一般路、高速道路、山岳路でプラグを取り替えて下さい。そうしないと、キゲンが悪くなってしまいますので」。
50年代の高性能車では「プラグが濡れる」、「プラグが溶ける」といった言葉がよく使われた。バイクを含めると僕自身、何度も経験している。
「濡れる」とは、始動が上手くゆかず、点火プラグの火花を出す部分が燃えなかったガソリンで濡れてしまうこと。「溶ける」とは、回しすぎたり、過負荷をかけると、火花を出す部分が想定以上の高温にさらされて溶けてしまうことを指す。
前者は、プラグを外してウェス等で着火部分をきれいにし、乾かしてから組み付け再始動。後者は新しいプラグに交換することになる。
けっこうな大仕事だ。
アルピーヌ1300S ゴルディーニは、ギリギリまで追い込んだハイチューン・エンジン。ゆえに、走りの状況とプラグの熱価にもシビアだったということになる。
「おい、大変なクルマ借りちゃったなぁ!」と木全さん。頷く僕。ワクワクが半分と不安が半分、、、そんな気持ちだったと思う。
が、走り始めるとそんな気持ちは霧散。とにかく速くて、敏捷で、楽しい。マツダのセリフになるが「人馬一体」感モリモリなのだ。
東名の入口と山岳路の入口でプラグ交換。そこまでのプラグの焼け具合は上々だった。
山岳路はもちろん最高熱価のプラグでアタック。木全さんも僕も、スタート直後から熱くなっていた。とにかくコーナーが速い。それも難しいコーナーになるほど速い。「攻めがいがある!」とはこのことだ。
そうこうしている内に、木全さんはどうしても限界チェックがしてみたくなったようで、「もしかしたらスピンするかもしれないけど、いいかな?」と。僕の答えは当然「イエス」。
日本有数のラリードライバーだから、スピンのツボは当然心得ている。で、見通しのいいコーナーでアタック。2度目まではカウンターで上手く切り抜けた。さらにスピードを上げた3度目は、フルカウンターも及ばず、というより、滑り出した瞬間「ダメだ!」と思ったほどテールの流れは速かった。
「いや〜、いい経験したなぁ!」と感激しきりの木全さん。横に乗っていた僕も「すごく楽しいスピン、感激のスピン体験」だった。
ちなみに、僕はやや深めのカウンター、といったところでアタックはやめた。
無事にオーナー宅に返却。お礼の言葉と共に、「スピンするまで攻めさせて頂きました」とすべてをご報告した。オーナーは渋い顔をするどころか、逆に喜んで下さった。「こいつ(1300S ゴルディーニのこと)も、これで箔がつきました」との言葉には感激した。
アルピーヌ1300Sゴルディーニは、美しく、熱く、最高に刺激的なクルマだった。そんなクルマで熱い体験をさせて下さったオーナーには今でもまだ深い感謝の念を抱いている。