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2021.04.11

VOL.01「電動車ってなんだ?」

【緊急連載】電動車へと舵を切ったクルマの未来は本当に明るいのか?

2030年代半ばには日本でもすべての新車が「電動車」になるという指針が示された。「電動車」とは動力源に電気を使う自動車の総称だ。大きく変わるクルマの未来をモータージャーナリストの藤野太一がリポートする。第1回は多岐にわたる「電動車」の種類について。

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文/藤野太一

いま世界中でクルマの電動化が加速している。日本でも菅政権が掲げる「2050年カーボンニュートラル」の一環として、2030年代半ばに販売される新車のすべてを「電動車」にするという指針が打ち出された。

電動車というと、イコール電気自動車と捉えられがちだが、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車、燃料電池車なども含まれる。特にハイブリッド車にはいくつもの種類があり少々話が複雑。まずは改めてそれぞれの特徴や代表車種をまとめてみよう。

躍進すさまじいテスラ。BEV専門メーカーを目指すジャガーとボルボ

【電気自動車(BEV)】

電気自動車とは、バッテリーに蓄えた電気エネルギーを使ってモーターで駆動するクルマのこと。ハイブリッドなどと区別するために「BEV(Battery Electric Vehicle)」や「ピュアEV」と表記することもある。実は世界初のリチウムイオンバッテリーを使った量産電気自動車は2009年に登場した三菱のi-MiEVであり、翌年には日産リーフが発売されるなど、日本メーカーはBEVの先駆けなのだが、残念ながら覇権を握ることはできていない。

2003年にBEV専門メーカーとして誕生したテスラの躍進はすさまじく、2020年の世界販売台数は約50万台と、これは日産が10年をかけて到達したリーフの世界販売累計台数に匹敵するものだ。この流れをうけて2025年にはジャガーが、2030年にはボルボが、BEV専門メーカーとして生まれ変わることが発表されている。
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ハイブリッド車は百花繚乱。トヨタ、日産、ホンダの国内勢も奮闘

【ハイブリッド車(HEV、HV)】

ハイブリッド(hybrid)とは、英語で異種のものの組み合わせといった意味で、エンジン(内燃機関)と電気モーターという複数の動力源を組み合わせることからそのように呼ばれる。現在、ハイブリッドには主に以下の3つの方式がある。

①「シリーズ方式」

エンジンを発電機の動力としてのみ使用し、モーターだけで走る方式。エンジンが駆動用バッテリーの代わりをするもので、動力機構そのものは電気自動車だが、エンジンを搭載しているためハイブリッドカーの一種に数えられる。日産ノートやセレナなどに搭載される「e-POWER」がその代表例。

②「パラレル方式」

エンジンをメインの動力源として走行する。発進時に大トルクを発生するモーターの特性を活かし、燃料消費の多い発進・加速時に、モーターでサポートする方式。従来のクルマにモーターとバッテリーなどを追加するだけのシンプルな機構が特徴で、ホンダインサイトなどが採用する「ホンダIMA」がその代表例。また最近のマイルドハイブリッドもこの方式の1つに分類される。

③「シリーズ・パラレル(スプリット)方式」

発進、低速時はモーターだけでEV走行し、速度が上がるとエンジンとモーターが効率よくパワーを分担する方式。構成が複雑でコストがかさむため、実質的に世界でこの技術をものにしたのはトヨタのみだ。

1997の初代プリウスにはじまった「THS」(トヨタハイブリッドシステム)は、現在に至るまで進化を続けており、新型のヤリスのハイブリッドモデルでは「THS II」を搭載。カタログ燃費(WLTCモード)は驚異的な36km/Lに到達している。
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【マイルドハイブリッド(MHEV)】

上記にあるようなモーターのみでのEV走行が可能なハイブリッド方式を「フルハイブリッド」または「ストロングハイブリッド」などと呼ぶのに対して、モーターのみで走行できないハイブリッドシステムの総称として使われているのが「マイルドハイブリッド」。日本ではスズキの「S-エネチャージ」などが代表例で、日産、マツダやスバルなども採用している。

基本的な構成としてはモーター機能付きオルタネーター(発電機)と回生エネルギーを蓄えるリチウムイオンバッテリーを搭載し、エンジン始動時の静粛性を高め、また加速時にはモーターでアシストするなどして燃費性能を高めている。メリットはフルハイブリッドに対して構造がシンプルで低コストであることだ。近年はメルセデス・ベンツ、BMW、アウディなどが、「48Vマイルドハイブリッド」を搭載するようになった。

これはスズキが12V、マツダが24Vのシステムを使っているのに対して、さらに高電圧のシステムによって高出力、高効率化を図ったものだ。これまで高価格帯のモデルにのみ採用されてきたが、年内に日本でも発売が予定される新型VWゴルフに48 Vマイルドハイブリッドが搭載されており、より大衆化が期待される。
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外部充電可能なプラグインハイブリッドは三菱、BMW、ランドローバーも

【プラグインハイブリッド(PHEV)】

“プラグイン”とあるように外部充電が可能なハイブリッド車のこと。最近のモデルでは50〜60kmほどEV走行できる容量のバッテリーを搭載し、日常はBEV(電気自動車)として使うことができる。バッテリーの残量がなくなってもガソリン車として走行可能で、長距離ドライブの際にも充電の不安にさいなまれることがないというメリットがある。

デメリットとしてはやはりハイブリッド車よりも高価になってしまうこと。国産車では三菱アウトランダーやエクリプスクロス、トヨタプリウスやRAV4などが人気。特に日本車にはAC100Vで1500Wまでの家電製品が使える給電機能が備わっており、アウトドアや災害時などに大いに役立つ。近年は輸入車でもメルセデス・ベンツ、BMWをはじめ、ボルボやポルシェ、ランドローバーなどPHEVのラインナップが増加傾向にある。

【レンジエクステンダー(REX)】

「レンジエクステンダー」とは、BEV(電気自動車)の航続距離を延ばすために発電用のエンジンを搭載する方式のこと。バッテリー残量が規定より少なくなると、エンジンが始動しバッテリーに給電を行う。

BMW初の量産BEV、i3の派生モデルとして販売されており、2度にわたってアップデイトが施され、2019年のマイナーチェンジでバッテリー容量を42kWhにまで拡大。一充電可能距離はWLTCモードで360km、レンジエクステンダーでは466kmに到達している。またマツダが2022年にロータリーエンジンを使ったMX-30のレンジエクステンダーモデルの導入を計画している。
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メルセデス・ベンツGLC F-CELLは世界で唯一の燃料電池PHEV

【燃料電池自動車(FCV)】

▲ 世界で唯一の燃料電池PHEVであるメルセデス・ベンツGLC F-CELL
「燃料電池自動車」=FCV(Fuel Cell Vehicle)は、燃料電池で発電した電気エネルギーを使って、モーターを駆動する電気自動車のこと。現在市販されているFCVは水素を燃料とし、酸素との化学反応によって発電するものが主流で、走行時に発生するのは水蒸気のみで排出ガスはゼロ。

燃料補給のための水素ステーションが、ガソリンスタンドほど普及していないという課題はあるものの、水素充填にかかる時間は5〜10分とガソリンと同等で、新型トヨタ・ミライでは一充填走行距離約850kmを実現している。現在国内で購入可能な乗用車タイプのFCVは、トヨタ・ミライをはじめ、ホンダクラリティFUELCELL、また世界で唯一の燃料電池PHEVであるメルセデス・ベンツGLC F-CELLがある。

次の選択肢をどう楽しむべきか

ここまで読んでいただいたように、最近の報道からは、“電動化”というと数年後にはBEV(電気自動車)だらけになるような印象を受けるが、実際はそれほど単純な話ではない。BEVは「Tank to Wheel(燃料タンクから駆動輪まで)」でみればたしかにCO2排出はゼロだが、今後はバッテリーの製造時や廃棄、リサイクルなどのCO2排出も含めた「Well to Wheel(油田から駆動輪まで)」という考え方が導入され、製品のライフサイクル全体を通してみる「LCA(Life Cycle Assessment)」という手法によって評価されるようになる。

現状をポジティブに捉えれば、過渡期であるがゆえに選択肢は豊富にある。いまのうちにピュアな内燃エンジンモデルを楽しんでおくのも、どのハイブリッド方式を選ぶのかに頭を悩ませるのも、ピュアEVを先取りするのも、どれもありだと思う。

藤野太一(ふじの・たいち)

モータージャーナリスト。大学卒業後、中古車情報誌「カーセンサー」、カーセンサーエッジの編集デスクを経てフリーの編集者兼ライターに。国内および海外での新型車試乗はもとより、自動車関連をはじめさまざまな分野のビジネスマンを取材する機会も多く「日経ビジネス」などにも寄稿。JMS(日本モータースポーツ記者会)所属

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