コックピットが語るクルマの重厚な物語
実際、ドライバーズシートに腰掛けて正面のダッシュボードに目をやり、両手でステアリングを握りしめれば、作り手がどんな思いでこのクルマをデザインし熟成させたのか走らせてみなくても数多くのことがわかる。
さらにエンジンを始動させ、厳かにスロットルペダルを踏み込めばエンジン、ギアボックス、ステアリング、そしてサスペンションが、まるで重厚な長編小説のように奥深い物語を聞かせてくれるはずだ。今回は、コックピットが問わず語りに伝えてくれるそんな物語に耳を傾けてみようと思う。

過激に見えるエクステリアデザインだが、ドライバーに優しいハンドリングに仕上げられているウラカン RWD スパイダー。女性だって安心してハンドルを握れるのだ。ワンピース7万5000円/ボス(ヒューゴ ボス ジャパン)、靴8万1000円/ジミー チュウ、その他はスタイリスト私物
ランボルギーニ ウラカン RWD スパイダー

このカテゴリーでは稀少な自然吸気V10エンジンを搭載。モノコックをカーボンで補強したボディは驚くほど剛性感が高く、クルマのロール量でコーナリング限界を探れるシャシーセッティングが秀逸だ。
全長×全幅×全高:4459×1924×1180㎜ 車重:1509㎏ 5.2ℓ V型10気筒エンジン 2582万300円/ランボルギーニ(ランボルギーニカスタマーセンター)
もっとも、従来であればそうした速さを堪能できるドライバーは、ひとにぎりの腕利きだけに限られていた。ところがランボルギーニは、一般のアマチュアドライバーにも“スーパースポーツカーの限界ドライビング”を垣間見られるようにと、ウラカン RWD スパイダーのハンドリングをチューニングしたのである。
手のひらになじむアルカンターラ巻きのステアリングを握り、コーナーを目指して切り込んでいけば、サンタアガータ・ボロネーゼのエンジニアが何を目指したかが、たちどころにわかる。
安定性を損なわない範囲でコーナリング時のロール量を大きめに設定することで、自分がどれほど限界に近づいているかをクルマの傾き具合から判断できるようにしたのだ。
この感覚さえ掴めれば、駆動力を伝える後輪のグリップを正確に把握しながらハードコーナリングを試せるようになり、自分が“猛牛づかい”のひとりになったことを実感できるに違いない。
マクラーレン 720S

MP4/12Cから一貫して使い続けてきたモノコックをフルモデルチェンジ。排気量を4.0ℓに拡大したエンジンは50%近いパーツを新設計した新世代モデル。全長×全幅×全高:4543×2161×1196㎜ 車重:1283㎏ 4.0ℓV8ツインターボエンジン 3338万3000円/マクラーレン(マクラーレン東京)

ハンドルとともにインフォテイメントを含むダッシュボード周りも新設計。もともと良好だった視界は斜め後方まで見渡せる斬新な手法を採用している。
イタリアの“ファイティングブル”があらゆるテクノロジーをドライバビリティ向上のために捧げているのに対し、マクラーレンはむしろドライビングフィールを純化させることでドライバーとクルマの距離を近づけようとしている。
しかもドライバーにはステアリングやドライビングシートを通じて溢れんばかりのインフォメーションがもたらされるから、不安感は限りなくゼロに近い。
3月にジュネーブショーで発表された新作の720Sも、技術者の話を聞く限り、この思想をさらに推し進めたことは容易に想像できるのだ。
基本中の基本と向き合う日本が誇るクルマ
ホンダ NSX

前輪を左右独立させモーター駆動することで画期的な操縦性を実現した2代目NSX。シャシーの基本性能も驚くほど高い。全長×全幅×全高:4490×1940×1215㎜ 車重:1780㎏ 3.5ℓ V型6気筒エンジン 2370万円/ホンダ(Hondaお客様相談センター)

前方視界を改善するために上端を、そしてレッグルームを確保するために下端を削り取ったNSXのステアリング。握った時の感触を向上させるため断面形状にもこだわり抜いたという。
スーパースポーツとして世界初の3モーター・ハイブリッドは、限界領域でもドライバーの意思を正確に読み取ってマシンの挙動をコントロールするが、これはNSXのほんの一面。
VSAによるスタビリティ・コントロールの介入を最小限に留めるトラックモードでは、NSXが秘めた「素のシャシー性能」がむき出しになり、マクラーレンを彷彿させるピュアなスポーツドライビングが楽しめるのだ。その素直で質の高いフィーリングには誰もが驚くことだろう。
マツダ CX-5

先代とあまり変わらないように見えるが、キャラクターラインではなくボディパネルの曲面で造形したデザインは実に新鮮。走りの質も全面的に向上した。全長×全幅×全高:4545×1840×1690㎜ 車重:1510㎏ 2.0ℓ 直列4気筒エンジン 246万2400円/マツダ(マツダ コールセンター)

自然な体勢のまま無理なくドライビングポジションをとれるCX-5。身体をひねらなくていいので疲れにくく、素早く適切な操作が可能。技術者の秘めたる情熱がここに結集されている。
しかし、新型CX-5のコックピットからは技術者たちのドライビングにかける熱い思いが、前述した3台に優るとも劣らないほど強く感じられるのだ。
そのドライビングシートに腰掛けると、ステアリングとメーターパネルは身体の真正面にレイアウトされ、両手を伸ばせば自然とステアリングを握る体勢となることに気づく。
ペダルもまったく同様で、腰からまっすぐ右脚を伸ばした先にスロットルペダルがある。「そんなの当たり前」と思われるかもしれないが、冷静に観察すれば、この当たり前が実現できていないクルマが世に蔓延していることがわかるはず。
その結果、腰をよじるような姿勢を強いられてドライビングに集中できず、長距離ドライブでは身体にイヤな疲れが残ることになる。このドライビングの基本中の基本と、マツダくらい真摯に向き合っている自動車メーカーは世界中を探しても決して多くないといっても過言ではないだろう。
ベントレー ベンテイガ

往年の巨大なリムジンを思わせるプロポーションでまとめられたベントレー初のSUVベンテイガ。最高速が300km/hを越えるSUVはおそらく史上初だろう。全長×全幅×全高:5150×1995×1755㎜ 車重:2530㎏ 6.0ℓツインターボエンジン 2739万円/ベントレー(ベントレー・コール)

最高級のレザーとウッドで覆われたキャビン。質感の高さときっちりとした仕上げにはため息が出るばかり。ほかのベントレー同様、無限の可能性ともいえるパーソナライゼーションが用意される。
ちなみにそのレザーステアリングはすべて手縫いの手巻き。しかも食卓用のフォークでレザーを突き刺し、その穴に従ってひと針ひと針縫っていくというのだから気が遠くなる作業の賜物だ。
フォークは職人ひとりひとりが手になじんだものを使い続けているので、ステッチの間隔を子細に調べれば、どの職人の仕事によるものか突き詰めることも不可能ではないのもおもしろい。
ランドローバー レンジローバー・イヴォーク・コンバーチブル

スタイリッシュなイヴォークをスポーティなオープンモデルに一新。奇をてらったようでいて、実は真面目に作り込まれた佳作クルマだ。全長×全幅×全高:4385×1900×1650㎜ 車重:2020㎏ 2.0ℓターボチャージド・ガソリンエンジン 765万円/ランドローバー(ランドローバーコール)
まず、多くのオープンモデルで問題になるステアリングの取り付け剛性、平たくいえばハンドルのガタがこのクルマには皆無。
同様にペダル類の取り付けもしっかりしていて、深い安心感を味わえる。その基盤となっているのは、オープンとはとても思えないガッシリとしたボディ剛性で、これが走りにも見事に反映されているのだ。
「だまされたと思って乗ってごらん」という言葉が、これほど似つかわしい最新モデルもほかには見当たらない。

ボディサイドのショルダーラインはご覧のとおり、モデルの肩ほどの高さ。それだけボディに囲まれている印象が強いため安心感は抜群。それゆえ、コンバーチブルならではの開放感と守られている感のバランス感が絶妙だ。
最高の安全性と最高の操作性が共存
メルセデス・ベンツ E200 アバンギャルド スポーツ

高速道路で車線を自動的にトレースする機能はもちろんのこと、車線変更まで自動で行ってくれる最新Eクラス。シャープな操作感を得たこともニュースのひとつだ。全長×全幅×全高:4950×1850×1455㎜ 車重:1700㎏ 2.0ℓターボチャージャー付き直列4気筒エンジン 727万円/メルセデス・ベンツ(メルセデス・コール)

ステアリング上のタッチコントロールボタンなど、新世代の操作系を取り入れた新型Eクラス。メーターパネルやナビ情報などはすべて2枚の12.3インチ・スクリーンに映し出される。
したがって過ちを犯すこともある”という“ユーザー不信”とも受け止められかねない思想を前提としている一面があった。このため伝統的にステアリング、アクセル、ブレーキは初期の遊びが多めで、これが俊敏な走りを期待するドライバーから「物足りない」と指摘される要因となっていたのも事実。
しかし、最新のドライバー・アシスタント・システムが満載された新型Eクラスではこの傾向が霧消、小気味のいい走りが楽しめるように生まれ変わったのである。
しかも、さすがメルセデスだけあり、そのアシスタント・システムの仕上がりは極上。人とクルマにとって何とも幸福なカタチが追求されたといえる。
ドライバーの手足となってハンドルひとつ、ペダルひとつで操作されるクルマ。それゆえにその操作性は目には見えない部分だが、各クルマメーカーが開発を重ね、目に見える進化を遂げている部分でもあるのだ。
ヒューゴ ボス ジャパン 03-5774-7670
ジミー チュウ 03-5413-1150
ランボルギーニカスタマーセンター 0120-988-889
マクラーレン東京 03-6438-1963
Hondaお客様相談センター 0120-112-010
マツダ コールセンター 0120-386-919
ベントレー・コール 0120-977-797
ランドローバーコール 0120-18-5568
メルセデス・コール 0120-190-610