2016.09.12
結果たどりつくのは新時代のブリティッシュ
"アガリのクルマ"と言われ続けた英国車。その理由は、高級感溢れる内装と落ち着きのある走りにほかならない。
ただそれは、もはや過去の話と言えるかもしれない。今日の英国車はいたって攻撃的で刺激的。
今回はそんな魅力的な英国車を厳選3台キャッチアップしてみた。
高級路線を突っ走る英国車のこだわり
しかし、英国のロールス・ロイス社の創設は1906年と、産業が栄えていた国にしては遅めのスタートと言える。けれど、英国には後発だからこそのこだわりがあった。
それが高級路線を徹底させることだ。英国のクルマ作りの基本コンセプトは、コストを度外視し、最高のパフォーマンスを発揮させることへの注力だった。
“高級車の真髄に触れるなら英国車、英国車の真髄に触れるなら高級車”として世界中から愛されてきた。ただ、そういった独自の路線を追求するあまり、経営難に陥るメーカーが近年続出し、今では純粋な英国車メーカーは皆無と言っていい。
それぞれ他国企業のサポートによってブランドを維持しているのが実情だ。興味深いのは、ドイツのフォルクスワーゲングループに属した、ベントレーやインドのタタ社が資本を握るジャガー、BMW傘下のミニやロールス・ロイスなど、すべて同様に、どの国の企業に属してもしっかり英国車らしさをもち続けているところ。つまり英国車には強烈な“らしさ”があるのだ。
そんな歴史をもつ英国車がゆえに、いまもそれぞれの“らしさ”が実に明解だ。例えば、ロールス・ロイスは徹底した高級ラグジュアリー路線を追求。ベントレーは走りもラグジュアリーを突き詰めた最高のパフォーマンスが魅力で、ジャガーは美しさを、アストンマーティンは純粋に速さを求めたクルマ作りを徹底している。
世界最高峰のドライバーズカー
BENTLEY ベントレー

3モデルそれぞれに個性がある / ラインナップはミュルザンヌのほか、25馬力高められたミュルザンヌ・スピードの2車種が日本に導入される。ともに価格未定/ベントレー(ベントレー・コール)

その後アルナージと名前は変わるものの、2010年にミュルザンヌの名が復活。2012年のエリザベス女王即位60周年記念式典をはじめ、英国王室公用車として移動や送迎に使われていたことでも人気を博した。今年6年ぶりに生まれ変わった新型ミュルザンヌは、デザインも装備も一新。
インテリアはインフォメーションシステムをアップデイトし、タッチスクリーンも装備。60GBのハードディスクが内蔵されるなど、より現代的に進化を遂げた。けれど最大の変更点はグリルを中心としたスタイリングにある。
グリルは横幅が80㎜大きくなり、ルーバーが縦型になったことが最大の見ドコロだ。初代ミュルザンヌを彷彿させる縦型ルーバーによって、より威厳のある精悍な印象へと生まれ変わったのだが、この真意を本国の担当者にたずねると「これまでのベントレーは、どのモデルであってもすぐにベントレーとわかるアイデンティティを重要視してきました。
その結果がスポーティなメッシュグリルの存在。今回のモデルチェンジによって、さらに一歩踏み込んで、コンチネンタルシリーズにはないミュルザンヌ独自の存在価値を高めたのです」とのこと。
けれど、それで終わらないのがベントレーのニクい演出。縦型ルーバーの奥にしっかりメッシュグリルを隠しもっているのだ。走ることを楽しむためのドライバーズカーとしてのマインドがそこに見て取れるが、その印象は実際に走らせた時も同様に感じられるのだった。
優雅さのなかに潜む運転する歓びも追求した
まずドイツの代名詞ともいえるアウトバーンでは、ミュルザンヌの真骨頂である優雅な走り心地を体感。ただ、その優雅さは先代よりもいささかソリッドになっていて、例えばレーンチェンジでステアリングを切るとスポーツカー然としたキレの良さを発揮する。
足回りは『COMFORT』モードでもフワフワした感じはなく、四輪すべてが道路に張り付いたような安心感を与えてくれる味付けは、運転していて気持ちいい。加えて、アクセルペダルをベタ踏みしても穏やかに加速していく紳士的な一面は、ミュルザンヌの持ち味と言えるかもしれない。
そして、ナビで指定された道を走り続けるとアウトバーンから山岳地帯へと景色は移る。モデルチェンジを受けて、シャシーは4dB、エンジンは15dBに抑えられた静粛性によってワインディングは快適そのもの。オーストリア・チロル州の壮大な景色を眺めながらゆったりと流す心地よさは、まさにラグジュアリードライバーズカーならではの醍醐味だと感じることができた。
午後は、最高出力が25馬力高められたミュルザンヌ・スピードへとチェンジ。第一印象は、わずかに足回りが締められただけで“違いは薄い”というものだった。
けれど、アウトバーンへと戻り、前方車両を追い抜くためにアクセルを思い切って開けると一変。ミュルザンヌでは味わえない圧倒的な加速力を発揮し、グングンと前方車両を追い抜くパフォーマンスを見せた。この一瞬の加速がミュルザンヌ・スピードだけに与えられた魅力だろう。
とはいえ、ミュルザンヌもミュルザンヌ・スピードも運転する歓びを圧倒的に感じさせてくれることに違いはなく、あらゆるクルマを乗り継いで最後にたどり着くドライバーズカーとして最高の一台と言っても過言ではないだろう。
SUVの概念を覆すスポーツ性能が魅力のジャガー
故ジェフ・ローソンの後任としてデザイン・ディレクターに就任したイアン・カラムによって、クール&スポーツな印象へと生まれ変わったジャガー。2013年、カラムが監修を行ったFタイプの登場によって、その勢いは加速した。
その後XE、新型XFもFタイプのデザインソースを活かして作られ、さらに極め付きと言えるモデル、ジャガー初のSUV、Fペイスが誕生したのである。
きっとレンジローバー・スポーツやイヴォークとどう違うのか、という疑問をもたれる方も多いことだろう。それを確かめるべく、モンテネグロで行われた国際試乗会へと向かった。
SUVでも英国王室御用達の品格と威厳をキープ
JAGUAR ジャガー

豊富なラインナップも魅力のひとつ / 車両639万円~というコストパフォーマンスに優れたピュア。レザーシートなど豪華装備が付いたプレステージ、スポーツカースタイルのRスポーツ、圧倒的なパフォーマンスを実現するSなどグレードは多種用意。オプションも豊富なので好みに応じて選べるのがFペイスの魅力だ。639万円~/ジャガー(ジャガーコール)

ちなみにサイズは全長4740㎜、全幅1935㎜とレンジローバー・スポーツよりもひと回りコンパクト。新型XFよりも全長は短いぶん、都内の大型機械式駐車場ならば十分停められるサイズが絶妙だ。そのサイズ感も相まって、乗った印象はスポーティそのもの。
フロアを高めに設定したポジショニングはセダンやクーペに乗っているような感覚で、長距離移動でも疲れにくい印象を受けた。そして何より走り出すとエグゾーストノートも、アクセルレスポンスも、ステアリングのキレ味も、紛れもなくスポーツカーのそれであったのだ。
XE/XFと共通のアルミ製シャシーや50:50の重量配分、レンジローバー系統ではなくFタイプで採用されている4WDシステムなどが、その味付けを担っていると思うが、紛れもなくジャガーのスポーツ性能を存分に味わえる一台となっている。
また、インテリアもXE/XFと共通のデザインをもつ。なかでも10・2インチのタッチスクリーンが実に近未来的な雰囲気。iPad感覚で操作できるのはなんとも新しい印象だ。

そう考えれば、XFと迷う人はいても、レンジローバー・スポーツやイヴォークと迷う人はいないのかもしれない。
実はかなりストイックそれが“英国スポーツ”の魅力
見た目こそ上品ではあるものの走りは真逆。歴史を紐解いても、アストンマーティンの名が知れわたったのはル・マン24時間レースでの活躍であり、今も昔もスポーツカー以外は作らないという姿勢が貫かれている。
まさに“殺しのライセンス”をもつ者の愛車にピッタリのブランドであり、そんなアストンの本質に触れるならV12 ヴァンテージ Sこそふさわしい一台だ。
実は硬派で危険な英国車きってのピュアスポーツ
ASTON MARTIN アストンマーティン

アストン史上最速の量産モデル / 最高速度は330㎞/hを誇り、573馬力のパワーはアストンマーティンの最速モデルに位置する。開発には2年間を要した。2173万5370円/アストンマーティン(アストンマーティン・ジャパン)


それによって最高出力573馬力、0→100㎞/h加速3・9秒というパフォーマンスを発揮するV12ヴァンテージS。アクセルを踏み込むと一瞬にして景色が飛んでしまう加速を披露し、若干フロントが浮き上がる演出は怖さを覚えるほどであった。
小柄なボディに大型エンジンを積んだ常識では考えられないこの一台。並みのスポーツカーにはないこのインパクトこそ、アストンマーティンの本来の魅力と言えよう。
ベントレー、ジャガー、アストンマーティンという英国を代表するメーカーの最新モデルを紹介してきたが、共通しているのは、どれも英国車ならではのスポーツマインドと美しさをもっている点だ。
ドイツのそれともイタリアのそれとも違う英国車ならではの魅力を決して損なわないことが、“アガリのクルマ”と言われ続ける根底にあるのだろう。
文/田中 康友
※本特集は2016年9月号で掲載した企画の抜粋です