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2020.06.17

80歳を超えた世紀のカーデザイナー、ジウジアーロが描いた未来のオープンカー

この8月に82歳を迎える天才カー・デザイナー、GGことジョルジェット・ジウジアーロ。その最新作「バンディーニ・ドーラ」はまがうことなき彼一流のクリーンなプロポーションを備えた格別な一台なのです。

CREDIT :

文・写真/越湖信一(PRコンサルタント、EKKO PROJECT代表) Special Thanks/GFG Style、Italdesign Giugiaro S.p.A. 、Bandini Automobili

▲正面から見据えた「バンディーニ・ドーラ」
「バルケッタモデル(*)はエアロダイナミクスの最適化を目指して作られたという歴史があります。しかしこのモデルはレースへの参加を主たる目的としているわけではないですから、機能面のみならず、これからのスポーツカーはどうあるべきかという観点からも考えてみました」そう語るのは“世紀のデザイナー”ジョルジェット・ジウジアーロだ。
(*バルケッタとは小舟を意味し、オープンボディとごく小さなウィンドシールド―それすら無い場合もあるが―を備えた古典的なスポーツカーのボディ形状を指す)
彼の最新作バンディーニ・ドーラは2020年の3月に開催予定だったジュネーブ・モーターショーでのお披露目が報じられていたが、コロナ禍によって直前にモーターショー自体が中止となってしまった。しかし急遽ウェブサイトを活用したデジタル版のプレスカンファレンスがアレンジされ、ドーラを含む最新作とジウジアーロ御大(以下、頭文字をとってGG。これは世界的に通用する彼の略称でもある)の姿を目にすることができた。いずれにしてもこの最新作ドーラは、まがうことなき彼一流のクリーンなプロポーションを備えており、GG健在を世に知らしめた。
GGは今年の8月で82歳となるし、今回のウイルスはお年寄りに対しての攻撃性が高いというから、その健康状態が気になる方もおられるかもしれない。しかし殊更、GGにその心配はないと私は確信している。彼はとてもフツウの82歳ではないからだ。誰よりも早くオフィスへと出かけ、ひたすらデザインに没頭する毎日を送っているし、週末ともなれば裏山の岩場で何時間もモトクロスに興じる。恐ろしき82歳なのだから……。事実、この発言記事が配信された今現在、GGは元気一杯仕事に励んでいるという事なのでご安心されたい。
GGのことを知らない方は少ないであろうが、念のため説明しておこう。彼はフィアット、ベルトーネにて数々の名車のデザインを担当し、1968年にイタルデザイン(後にイタルデザイン・ジウジアーロと改称)を創立した。現在に至るまで300台を超える市販車両のデザインを手掛け、コンセプトモデルを入れればその総数は500台をも超える。20世紀最高のカーデザイナーとして自動車殿堂入りを遂げたまさに天才だ。

日本との繋がりも深く、いすゞ117クーペ、ピアッツァや、日産マーチ(初代)、トヨタアリスト(初代)など多くのモデルを手掛けており、セイコーの腕時計やニコンF3など多種のプロダクトデザインにも関わっている。
▲いすゞのピアッツァ(初代)。117クーペの後継モデルとして1981年から1991年まで販売された。
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最新作バンディーニ・ドーラとはどんなクルマなのか

今回発表されたバンディーニ・ドーラは全高1100mm、全幅2000mmという低く、そして幅広い2座のオープンモデルだ。2基からなる計400KWというスペックを持つモーターで全輪を駆動するフルEVであり、アルミ製スペースフレームをベースとするカーボンファイバー製ボディは1150kgというライトウェイトぶりを誇る。

「快適性を犠牲にすることなくハイパフォーマンスを楽しむというのがこのドーラの重要なコンセプトです。ボディサイドのアーチはフロントホイール上部から、あたかもAピラー、ルーフであるかのように見せながら、リアスポイラーまで続きます」
「しかし、本来のウィンドスクリーンは限りなくシンプル、かつ低いシェイプでドライバーの目の前に存在しているのです。機能的にみると、このアーチはいわばF1に採用されたプロテクション“ハロ”のような役割を果たします。つまり、古典的なバルケッタボディのイメージと開放感を残しながらも現在の安全基準へ対応することができるのです。」とGG。

たしかに、このアーチの存在が、バルケッタボディに独特かつモダンなテイストを与えている。長く細いヘッドライトと融合したアーチはエアロダイナミクスが考慮された微妙な断面を持つという。サイドからこのドーラを眺めるなら、このユニークなアーチがGGお得意のワンモーション・シェイプを見いだすことができる。まさにイタルデザイン創立第一作目であるビッザリーニ・マンタのような……。
▲ビッザリーニ・マンタ(1968年)
電動式シザーズドアを開けるとドライバー、パッセンジャーがそれぞれ独立したラグジュアリーなコックピットが現れる。「スポーツカーのコックピットは自分自身を見つめる“孤独な仕事場”でなければならない。助手席に座る者から邪魔されることなく、ドライビングに没頭できなくてはならないのです。このドーラは全幅が2mあるから余裕をもって2つの部屋を作ることができます。」とGGは語る。

この運転席、助手席が分離したコックピットスタイルもGG独特のスポーツカー観のひとつだ。1988年発表のアズテック(限定生産モデル)や近年のテックルール・レンなどにおいてもそれは見られるし、初期の傑作シヴォレー・コルベア・テスチュードのスケッチにその起源を見ることができる。
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イタルデザインからGFG Styleへ

1968年に設立されたイタルデザインは、当地のカロッツェリア(自動車デザイン工房)の中では独特のポジションを歩んだ。ひと言とでいえば、世界の量産メーカーのニーズに合わせた総合的自動車開発サービス会社として振舞ったのだ。だからベルトーネ、ピニンファリーナといった大御所が厳しい経営を強いられていったのを尻目に、イタルデザインはその規模を拡大していった。
しかし、自動車メーカーが自前のデザイン部門を強化する傾向が時代と共に強まり、相対的にイタルデザインのビジネスも地盤沈下しつつあった。ところが、幸運なことに2010年、VWグループがイタルデザインの株式の90.1%を買収し、その傘下となった。GGと彼の息子であるファブリツィオはそのまま経営トップとして残り、VWグループに属する多くのブランドのデザイン開発や試作車製造を担った。そこでも勝ち組の座を掴んだ訳だ。
しかし、時間が経つにつれ、様々な要因からVWグループとGGの間に隙間風が吹き始めたようだ。2015年7月にGGは所有していたイタルデザインの残りの株式もVWへと売却し、イタルデザインの経営から完全に手を引くことになった。そして翌2016年2月13日にGGはファブリツィオと共に、新会社GFG Styleを立ち上げたのだ(ちなみにこの2月13日は、1968年にイタルデザインを立ち上げた日でもある)。

GFGとはGiorgetto & Fabrizio Giugiaroの頭文字を取ったものだ。“Giugiaro” という商標はVWとの契約により、エンブレム等ボディに付けることはできないが、自動車関連事業へGGが参入することに関しては制約がなかったというから、それは理想的な展開であったと言えよう。

バンディーニ・アウトモビリとの出会い

今回のジュネーブ・モーターショーにて、ドーラはGFG Styleのスタンドに「ヴィジョン2030」、「ヴィジョン2030デザート レイド(“砂漠のラリー”の意)」と共に並ぶ予定であった。

そしてこれら3台のショーカーはすべてが機能し、実際に走行できる仕上がりであったことにも注目したい。とにかく、GGはすべてにおいて“フィージビリティ(実現可能性)”に拘った。みんなをアッと言わせるようなスケッチを描いただけでは何の意味もない。実際に走り、人間が乗れるものでなければならない、というのが彼の哲学だ。 
派手なスケッチを発表しても、実際に市販モデルとなった時には、その面影もないなどということはざらにある。彼はそれを嫌った。また、モーターショーで発表されるコンセプトモデルも実際ほとんどはモックアップであり動かないものなのだが、GGはそれにも異議を唱えている。“クルマは走っている姿を見ないと本当の評価はできない”、というのが彼のポリシーだ。

GFG Style は2016年の創業以来、4年間で7台のコンセプトモデルを発表しており、現在も水面下でたくさんの企画が動いているという。このドーラは2年間に渡りEVスポーツカーのアイデアを持っていたバンディーニ・アウトモビリとのやりとりから生まれたもので、さらに開発を進め、30台ほどの限定モデルとして市販化が予定されているという。
バンディーニ・アウトモビリは1946年から1992年までイタリアはロマーニャ州にて活動を続けた歴史的な少量生産スポーツカーメーカーだ。創始者の曾孫ミケーレによって2012年に再興されたバンディーニ・アウトモビリは、現代のマーケットに向けてのブランディングを再開している。過去に製造されたモデルのケアを行いつつ、自動車メーカーとしての復活への第一歩をGGと共に踏み出した訳だ。

「バンディーニ・アウトモビリは創始者イラーリオのレースに対する情熱がその原動力です。彼の称号を受け継いだ私には幼少期よりレースに関する情熱が注入されていました。だから、何とかイラーリオの名前を蘇らせようと2008年から電動スポーツカーのアイデアをあたため始め、会社を復活させたのです」
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「もし彼が今の世の中でクルマを作るなら、絶対に未来を見据えたEVであると考え、このプランをGG達と進めていったのです。ええ、GGと一緒にプロジェクトを進めることが出来るのは夢のようなことです」とバンディーニ・アウトモビリのオーナーであるミケーレは語る。

ちなみにミッレミリア博物館に展示されていたバンディーニ750スポーツ・インターナショナル・バルケッタは、1957年に開催された最後の初代ミッレミリアに出場した個体であり、ジュネーブショーにおいても展示が予定されていたものだ。
▲バンディーニ・アウトモビリのオーナー、ミケーレ氏(左)とGG(右)。
ドーラをデザインするに当たってGGはバンディーニの持つDNAとは何か、という命題を熟考した。そしてその答えは、ライトウェイトのバルケッタであること、創始者であるイラーリオのレースに掛ける情熱を表現すること、そして、何よりもイノヴェーティブであること、という3つのポイントであったという。

“世紀のデザイナー”は決して独善的な仕事はしない。顧客のニーズを如何に的確なカタチに仕上げるかという視点はGG御大が80歳を超えようとも、他の誰よりもシャープだ。GGはこれからも私達の目を楽しませてくれる作品を描き続けてくれることであろう。

●越湖 信一(えっこ しんいち)

PRコンサルタント、EKKO PROJECT代表。イタリアのモデナ、トリノにおいて幅広い人脈を持つカー・ヒストリアン。前職であるレコード会社ディレクター時代には、世界各国のエンターテインメントビジネスにかかわりながら、ジャーナリスト、マセラティ・クラブ・オブ・ジャパン代表として自動車業界にかかわる。現在はビジネスコンサルタントおよびジャーナリスト活動の母体としてEKKO PROJECTを主宰。クラシックカー鑑定のオーソリティであるイタリアヒストリカセクレタ社の日本窓口も務める。著書に『Maserati Complete Guide』『Giorgetto Giugiaro 世紀のカーデザイナー』『フェラーリ・ランボルギーニ・マセラティ 伝説を生み出すブランディング』などがある。

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