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2020.05.17

ポルシェ911の後部座席に大男は乗れるのか?

ポルシェ911の定員は「4名」。車検証にもそう書いてあります。かといって、後席に大人がまっとうに乗れるスペースではないんですよね。ところが、思わぬところで、911の後席に大人が乗るのを経験したというお話し。さてさて?

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文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽

岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第134回

911の後席は大男でもOK ! ?

ポルシェ911の定員は「4名」。車検証にもそう書いてある。かといって、後席に大人がまっとうに乗れるスペースはない。

小さな子供は別として、後席はコートやジャケット、バッグや買い物包みの置き場と理解するのが普通で、誰もがそう思っている。

わが家では、兄と僕と息子で述べ5台の911を所有したが、僕は後席に人を乗せたことがない。兄や息子も同じだろう。

ところが、思わぬところで、911の後席に大人が乗るのを経験した。最初は1992年、2度目は1999年。

92年は964 カレラRSの試乗会でベルギーのゾルダー・サーキットに招かれたときのこと。
日本から招かれたのは、僕と写真家の小川義文さんの2人だけで、ポルシェ広報部の方がブリュッセル空港まで迎えに来て下さった。

駐車場まで歩いて行くと、そこに待っていたのは911。広報部の方はドイツでは標準的体格だろうが、身長は185cmくらい。大きい。

「エッ、911に3人と荷物!?」、、僕も小川さんも驚いたが、広報部の方は馴れている様子で、「さあ、どうぞ!」とケロリ。

小川さんが僕に助手席を譲って下さったのだが、2人とも大きな荷物を持っていなかったのが幸い。意外にすんなり乗り込めた。

僕はできるだけシートを前に引き、後席膝元の余裕をとるようにしたが、小川さんが窮屈な姿勢を強いられたのはいうまでもない。

空港からゾルダー・サーキットまでは小一時間ほどだったと思うが、小川さんが気になってけっこう長く感じたものだ。

サーキットに着いて後席の感想を聞くと、「いや、思ったよりきつくなかったですよ。大丈夫です。ご心配なく」と笑顔で返されてホッとしたことを覚えている。

911の後席は小さな子供か身の回りの荷物専用と思っていたが、少なくとも、大人3人までなら「けっこう使える」ことがわかった。

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2度目の大人3人乗りは1999年のこと。この時、僕は直接立ち会ってはいない。立ち会ったのは家内だ。

前にも書いたが、ミュンヘン近郊で開かれた996前期型GT3の試乗会が終了した夜、僕が急病で倒れ、緊急入院したときのことである。

持病の喘息で発作を起こし(身動きできないほどの激しい発作は初めての経験だった)救急車騒ぎになってしまったのだが、病院に着いたら、安心したせいか、発作症状は急速に収まっていった。

だから、僕はすぐ帰国したい旨を医師に伝えたが、許されなかった。「しっかり検査をしてから答えを出します」。「順調なら、退院は4日後くらいだと思います」と言われた。

その夜、家内に電話した。ことの次第は、すでにポルシェ広報から詳細な連絡が行っていたので、家内は落ち着いていた。で、「明日の朝の飛行機で行くからね」と。

「もう大丈夫だし、4日だけだから来なくてもいいよ」と言ったのだが、「絶対に行くわ!」と譲らない。

入院していたのは、ミュンヘンから南東に40kmほど。ランツフートという小さな町にある大学病院だったが、とてもいい雰囲気の町だった。

試乗会で僕が泊まっていた部屋を、ポルシェがそのまま押さえてくれていたので、家内もそこに泊まれるようお願いした。

家族経営の小さなホテルで、美味しい食事(家庭料理風)と、暖かなホスピタリティは
普通のホテルでは味わえない心地よいもの。

そして、オーナーの娘さんが家内の面倒を見てくれるということで、安心感も倍増。ポルシェの細やかな心遣いに感謝感謝だった。

ポルシェは家内をミュンヘン空港まで迎えに行ってもくれた。本社広報のSさんと、試乗会に同行していたポルシェ・ジャパン広報のAさんのふたりで。

この独日の広報スタッフ、「いい男コンテスト」でもあれば、どちらも優勝間違いなしといえるほどカッコいい。もちろん背も高い。

そんなふたりに迎えられたのだから、家内も嬉しかっただろう。「ポルシェって、クルマだけじゃなくて、人もカッコいいのね!」とは家内の言葉だ。


で、ここからが本題だが、カッコいい長身のふたりが、家内を迎えにミュンヘン空港に乗りつけたのは911。

今なら、4人の大人とたっぷりの荷物が積める、カイエンも、パナメラも、マカンもある。でも、当時のポルシェには、まだ911しかなかった(カイエンのデビューは2002年)。

家内も、出迎えてくれたクルマが911だったのには「カッコいい!」と感激したという。でも、同時に「911の後席きつそう」と思ったそうだ。当然、小柄な自分が後席に乗るものと思っていたからだ。

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ところが、日本広報のAさんが後席に。家内は恐縮して、「私、小さいから後ろに乗ります」と言ったらしいのだが、Aさんは「いえいえ、ご心配なく」と、、。

「911の後席、あんなに大きい人も乗れちゃうんだ、、ビックリしたわ!」と家内は言っていたが、僕もビックリした。

上記のように1992年にも同様なことを体験していたが、なにせAさんは180cm超えの長身。

後に、そのことを謝ったら、Aさんは「いや、僕、身体柔らかいですから、、」と笑顔で遮られた。

ただ、「奥さまが軽装で助かりました。Sもそう言ってましたよ!」と言われた。

軽装といっても、短パンにスニーカーといったことではない。小さめのショルダーバッグに、最小限の身の回りのものが入るくらいのトートバッグだけ、ということ。

元々、家内は旅の荷物が少ない。僕の小型トランクかボストンバッグにチョコチョコっと着替えを詰め込むくらい。必要なものがあったら旅先で買えばいい、、といった考えだ。

911に3人乗る、、そんなとき、いちばん困るのは大きな荷物だろう。そんなことで、軽装な家内はポルシェ広報Sさんに気に入られ、クリスマスには、Sさんから家内宛にカードとプレゼントが届けられた。

プレゼントは、美しい赤、素晴らしく上質なカシミヤのストール。今も愛用している。

「素敵な男性ふたりにエスコートされて、ポルシェ911で出迎えられて、クリスマスカードとプレゼントまでもらって」、、「あの旅は素晴らしかった!」と、家内は今も言う。

911に大人3人で乗った、、他愛もない話しだが、忘れ難い思い出になっているのは、やはり911の魔力ゆえなのだろう!

● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト

1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

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