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2020.05.11

4000人の力で開発から製造までできる理由

フェラーリに学ぶ「少量生産メーカー」の生き方

世界的に自動車需要の減少が予想されるなか、年間1万台強程度の少量生産をコンスタントに続けてビジネスを成功させているフェラーリ。数の拡大だけを目指してきた自動車産業にとって、フェラーリの進めている戦略を分析するのは大きな意味があるはずだ。

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文/越湖信一(PRコンサルタント、EKKO PROJECT代表)

記事提供/東洋経済ONLINE
マラネッロにある本社のフェラーリ・アトリエにて(写真:フェラーリ)
世界の経済活動を停滞させているコロナ禍にある今、ハイパフォーマンスカーの王者であるフェラーリも例外でなく、5月3日までの予定で組み立てラインの操業停止とテレワーク勤務が続いている。

製造ラインは4日から動き出すとされているものの、開発部門とF1部門は引き続きテレワーク勤務となる予定だ。株価を見ると、3月14日に組み立てラインの操業停止が発表されたときこそ瞬間的に下落したものの、さすがはフェラーリ。すぐに従来の水準に持ち直した。
フェラーリは、2019年の年間生産数において、初めて1万台超えの1万0131台を記録した。トヨタの900万台余りという数字と比較すると非常に少ないが、1980年当時を振り返ってみると、なんと2400台にすぎなかった。

これは連載の中でも述べてきたが、ブランドの希少性を維持するため、絶えず市場動向を見ながら適切な数量を供給するという考え方にのっとっている。

フェラーリたるもの、バックヤードに在庫車が余っているわけにはいかないのだ。顧客は自分の好みに応じてさまざまなカスタマイズをオーダーし、それをイタリアのマラネッロ・ファクトリーで生産するという工程を踏む。
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従業員数、約4000人の適正規模

現在では、発注してから納車まで早ければ数カ月だが、バックオーダーがたまっているモデルは“2年待ち”というケースもありうる。

さらに限定生産車両は、生産開始前に“優良顧客”へお披露目され(それはスケッチ1枚のこともある)、一般への発表時にはすでに完売をアナウンスする。フェラーリのようなラグジュアリーブランドにとって、このような“希少性の維持”は何よりも大切なのだ。

フェラーリは、過去の大きな経済危機によって需要が激減した経験からも多くを学んでいる。それこそ1970年代のオイルショック時には、あっという間に市場が消滅したし、リーマンショックにおいても大きく需要は落ち込んだ。

そういったことから、彼らは企業の適正規模をしっかりと考えている。現在、フェラーリで働く総従業員数は、全世界で4285人と発表されている。

フェラーリ社がFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)グループからスピンアウトし、独立企業として株式公開した2015年以降、その数が一気に増えたとはいえ、自動車メーカーとしは破格の少人数体制だ。
マラネッロ・ファクトリーで働くのは約3000名とされ、その中でもF1レーシング部門に1000人ほどを割いているから、純粋に市販車製造に関わる人員はそう多くない。

このコンパクトさを維持することは、 フェラーリのような少量生産メーカーにとっては経営を安定させる最も重要なファクターでもある。いかなる景気変動にも対応できる柔軟性を持っているのだ。
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カロッツェリアへの外注から内製へ

かつてのフェラーリは、当地エミリア・ロマーニャに属するマセラティ、ランボルギーニ、デ・トマソなどと同様に、特殊な製造プロセスを取っていた。元来、彼ら(ランボルギーニは除くが)のルーツはレーシングカーで、そのシャーシに顧客の好みにあったスタイルのボディを架装するスタイルで、市販車両ビジネスが始まった。

フェラーリでいえば、マラネッロ(本社)工場で作られたエンジンがシャーシと合体され、トリノのカロッツェリアへと送られた。カロッツェリアとはピニンファリーナ、ベルトーネのようなボディ製造工房である。

このカロッツェリアは、そのシャーシにボディを架装し、内装を仕上げ、再びマラネッロへと送り返した。そして、最終仕上げの後、顧客の元へと届けられたのだった。

そういったいわば“古典的”な製造スタイルが比較的近年まで生き残っていたのだが、フェラーリは1977年に深い関係にあった、近隣モデナのレーシングカーボディ製造工房であるカロッツェリア・スカリエッティをフェラーリのボディ製造部門として取り込んだ。

そして、従来発注していたピニンファリーナやトリノのボディサプライヤーが行っていた作業を逐次、内製化していった。そのおかげで、マラネッロでのオペレーションが、かなり効率的になったのだ。

ホワイトボディ(完成した車体骨格)製作からペイント、そしてエンジン製造、最終アッセンブルまで、すべての製造工程を内製化する体制が確立。さらにカロッツェリアなど、外部デザインスタジオとの連携で行われてきたスタイリング開発も内製化が進み、それに対応するデザインセンター棟も新たに完成している。

現在のマラネッロ工場は、フェラーリが創立された1947年当時と同じ場所に位置するが、その敷地は大きく拡大されている。

旧エントランス付近に残された一部を除いて、近代的なレイアウトのビルディングへとリノベーションが行われたし、近隣のフィオラノテストサーキットに沿っての拡張計画もあるようだ。
フェラーリファクトリーの全景(写真:フェラーリ)
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25万平米の敷地内は、市販車生産部門とF1レースカー開発・製造部門、そして 開発部門へと大きく分かれる。構内は充分な広さの通路が確保され、それぞれの“道”には 「エンツォ・フェラーリ通り」というように、フェラーリのヘリテイジにちなんだ名前が付けられる。

元来、エンジン開発にルーツを持つレース屋であるフェラーリだけに、エンジン製造工程には大きなこだわりが見られる。エンジン・アッセンブリー部門だけで、鋳造、エンジンパーツ仕上げ、エンジン組み立てのための3つの建物が敷地内に存在している。

熟練工が手作業で作るV8、V12エンジン

マセラティを傘下に入れた2000年に大きなリノベーションが行われ、かつて外注に頼っていた部分も、独自の最新技術により内製化を実施。それによって品質も飛躍的に向上した。施設内は当時、フェラーリのトップであったモンテゼモロ会長の好みで、竹をはじめとするグリーンが植え付けられ、作業環境や周囲の環境に対する配慮も行われた。
最終的なエンジンの組み立てが行われるアッセンブリーライン(筆者撮影)
鋳物施設でアルミ合金が鋳型に流し込まれ各エンジンパーツ形状となったものが、エンジンパーツ最終仕上げ施設に到着すると、金属加工作業へと進む。切削、研磨、洗浄や表面熱処理加工が実施され、エンジン組み立て施設へ搬入され、最終的な組み立てが行われる。

超低温でのバルブシートの挿入など、いくつかのロボット作業はあるものの、ここで作られるV8、V12エンジンは、熟練工の技による手作業の比重が一般メーカーと比較すると、とんでもなく大きい。エンジンは完成後にベンチテストが行われ、それに合格したものだけが初めて完成品となる。

2013年にFCA資金にてマセラティ用6気筒エンジンの組み立てラインが設けられ、ここでは作業のオートメーション化が比較的、進んだ。

しかし、FCAグループからフェラーリが離れたことで、フェラーリとマセラティの関係は薄くなり、フェラーリによるマセラティへのエンジン供給は近い将来、終了されると公式にアナウンスされている。

そうなると、この6気筒エンジンの組み立てラインはどうなるのだろうか。また、フェラーリでもハイブリッド・パワートレインの積極的な導入が予定されており、現在はその対応のため、新たなファシリティも建設中である。
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8気筒系と12気筒系、2つのラインで柔軟に

絶え間ない投資によって少量生産に最適化されたファクトリーとなったマラネッロであるが、1台のフェラーリを完成させるためにかかる時間は、いまだ限りなく長い。

どこからの製造をカウントするかによっても異なるが、1台を完成させるには3カ月かかるともいわれる。少し前に組み立てラインのマネージャーを取材したときには、概算で一日に8気筒が24台、12気筒が8台ほどラインオフしているとのことであった。この数値は、現在ではもう少し増えていると思われる。

組み立て棟は、大きく8気筒系と12気筒系のラインによって構成されている。
8気筒エンジン搭載モデルの組み立てライン(写真:フェラーリ)
1階に設けられた8気筒系の組み立てラインでは、「F8トリブート」系、「ポルトフィーノ」などのモデルがフル生産されている。先だって発表された「ローマ」の生産も始まっているようだ。

上の階で「812スーパーファスト」やデリバリーが待ち焦がれている「812GTS」などが並ぶ。8気筒系のラインは、「カリフォルニア」の登場に合わせて、それまでのほぼ倍の規模となっているから、1万台前後というルーティンな製造数量は、フェラーリにとってそう難しいものではないと想定される。

また、生産計画と合わせて、製造ラインも柔軟に対応できるように設計されている。例えば8気筒系のライン、12気筒のラインを部分的に混在させ、需要の多いモデルの生産を増やし、供給が足りているモデルの製造は控えめにというコントロールが可能となっている。

ワーカーたちは、どのモデルの製造も担当できるスキルを身に付けているという。組み立て工程において、COMAU社(FCAグループ)製ロボットを用いて、効率よくボディとドライブトレインを合体させる省力化システムも導入されているが、主体はあくまでも手作業だ。

構内に設けられたペイント棟も、自動化された中に職人技を生かすというポリシーが生かされている。フェラーリならではの独特の手法が、至る所に今も生きているのは間違いない。
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ペイント棟で塗装されるボディ(写真:フェラーリ)
また、「ラ・フェラーリ」といった限定生産の“スペチアーレモデル”は、基本的にレーシングカー部門で組み立てが行われる。数十台、数百台という非常に小さい製造ロットに対応するノウハウがあるのだ。

ラインを出ていく完成車両のクオリティには、もはや少量生産車というエクスキューズはまったくない。組み立てラインを出た車両は、工場内にある8kmのテストコースを走行し、あらゆる路面状況でのテストが行われ、適切な挙動を実現するための調整を行う。

そして、マラネッロ周辺の一般道でボディプロテクションを装着しての最終テストドライブを行う。これら走行テストを含む部外者立ち入り厳禁のQCセクションで、すべてのフェラーリは完璧に仕上げられ、それに合格した車両のみが顧客の元へと旅だっていく。

フェラーリの持続的なビジネスに学べ

日本においては、500台の限定生産を謳ったレクサス「LFA」、はたまた一日40台という“非常識”な少量生産を謳ったホンダ「S660」やトヨタ「センチュリー」といった限られた少量生産モデルを見いだすことはできる。
内外装のオーダーメイドにより世界で1台だけのフェラーリを作ることができる(写真:フェラーリ)
しかし、フェラーリのように少量生産をコンスタントに続けることによって、持続的なビジネスを進めていくメーカーは存在しない。

もちろん、今や自動車産業で少量生産を行うことは容易なことではないし、日本国内においてはなおさら難しい。それを行うためのサプライヤー網、人的資源、法的な整備など課題が山積みだからだ。

しかし、これから減少が予想される自動車需要を考えると、自動車メーカーは数の拡大だけを目指して生き延びていくことができるのだろうか。そういった将来に対する展望も踏まえ、フェラーリの進めている戦略を分析するのは大きな意味があるはずだ。
当記事は「東洋経済ONLINE」の提供記事です
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