• TOP
  • CARS
  • ただ街を眺める旅。ミラノの思い出

2020.04.05

ただ街を眺める旅。ミラノの思い出

世界中を回ってきた岡崎宏司さんが、オフで訪れるお気に入りのひとつミラノ。リゾートよりも街が好きだという、その過ごし方には自動車ジャーナリストとして長年第一線にい続ける秘訣、その審美眼の秘密がありました。

CREDIT :

文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽

岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第131回

ミラノの休日

世界のあちこちを旅してきた。僕ひとりなら、かなり冒険的な旅も少なくないが、家内との旅は穏やかなもの。とくに歳を重ねてからは「レイジーな」とさえいえる旅がほとんどだ。

なにをもってレイジーかというと、いちばんは旅先での行動範囲の狭さ。「徒歩圏内でしか動かない」のが基本になっている。

タクシーやバス、地下鉄等を使って動くこともある。が、それは、どうしても行きたいコンサートやイベントの会場がちょっと離れているときだけ。

僕も家内もリゾートでの寛ぎより、街歩きやカフェでの「人のウオッチング」等が好き。なので、行く先は都市ということになる。

前にも触れたかと思うが、行く先は決まっている。ロンドン、パリ、ミュンヘン、ミラノ、ウィーン、サンフランシスコ、LAといった都市を巡っている。

みんな素敵な街だし、何度繰り返し訪れても飽きない街だが、今回はミラノの話しをする。

ミラノには度々行っているが、最近の定宿は2004年に開業したパークハイアット。
それ以前は、歴史あるエレガントなホテル、プリンチペ・ディ・サボイアを使っていた。

サボイアはミラノの中心街からは少し離れている。でも、中心街へ行くまでの間には公園があり、美術館があり、一流のファッションブティックが集まるモンテナポレオーネ通りを通るコースも選べる。
ブッフェスタイルの朝食がとても美味しいのも気に入っていた。老舗5つ星ホテルのプライドを感じたものだ。

パークハイアットは、ドウォーモ広場に直結したガレリアから「ほんの数歩!」とさえ表現できる最高の立地にある。外観はかつての貴族の館の趣をそのままに、内装は上質でモダン。そして「一部屋分」くらいの広いバスルームがなにより心地よい。

ドウォーモ広場とスカラ広場を結ぶアーケード、ビットリオ・エマヌエーレ2世ガレリアは、「ミラノに来た!」という実感がいちばん味わえる場所だが、僕は、世界一優雅で洗練されたアーケードだと思っている。
PAGE 2
もちろん、観光客も多いが、有名ブランドの店が軒を連ねるため、ファッション感度の高いミラノっ子の往来も少なくない。

そんなことで、通りに面したカフェで、道行く人たちのファッションを見るのが好きだ。

ある時、僕たちのいたカフェに素敵な中年のご夫婦が入ってきて、近くのテーブルに座った。イタリア語だったし、軽装だったし、粋な装いはミラノっ子に思えた。

装いだけでなく、話し方も、表情も、身の振り一つ一つも洗練されていた。家内も同様に感じていたようで、「素敵だねー!」「ほんと!」と意見はピタリ一致。

ご夫婦が身につけていた時計やアクセサリーにも惹かれたが、とくに目を奪われたのは奥様のネックレスだった。細いプラチナのチェーンに2~3カラットほどのダイアモンド。飾りの一切ないペアシェイプのダイアモンドはほんとうに美しかった。

家内に「あのネックレス、素敵だと思わない?」と聞いたら、間髪入れず「素敵ね!最高ね!」と返ってきた。家内も同じ目で、同じ気持ちで見ていたのだ。

「よし、あれと同じようなネックレスを探そう」とその場で決めた。家内には一切内緒で。

日本に帰って、たまたま知り合いにダイアモンドを扱っている人がいたので、すぐ連絡。
探してもらうことにした。イメージ通りのものが見つかるまで数ヶ月ほどかかった。

プラチナのチェーン探しにも時間をかけたし、
ネックレスへの加工細工にも拘った。初めての経験だったが、実に楽しい経験だった。

家内に手渡したのは、お気に入りのレストランでのディナーの後。

パッケージを開け、ケースを開けたとき、家内は驚き、「ダメよ!」「こんな高いものダメ!」といいながら、「これって、ミラノのあのときのネックレスね!」とすぐわかった。もちろん、大喜びで受け取ってはくれたが、「こんな高いプレゼントはだめ!」と、けっこう叱られもした。でもいい思い出だ。
PAGE 3
僕たちの休日の時間はゆったりと過ぎる。目が醒めるまで寝て、ホテルで朝食。

ドウオーモで静かな時を過ごしたり、その周辺のショッピングストリートをブラブラしたり。僕も家内もほとんど買い物はしない。店を見るのが、行き交う人を見るのが好きなだけだ。

好きと言えば、ミラノでいちばん好きな場所はスピガ通り。高級ファッション店が軒を連ねるという意味では、モンテナポレオーネ通りの方が名は知られている。が、僕はスピガ通りの方が好き。

石畳の通りのほとんどは歩行者専用。観光客らしき人も少なく、静かに落ち着いて散策が楽しめる。

瀟洒な石造りの建物、個性と華やかさを競うショーウィンドウも素敵だし、ヴォーグから抜け出てきたような女性によく出会うのもスピガ通りの魅力。

2015年まで、VWグループ全体のデザインを率いたワルター・デ・シルバはミラノ出身。
あるインタビューの折、「ミラノは大好き。中でもスピガ通りがいちばん好き!」と言ったら、「あなたの目は間違いない!あなたのデザイン評価なら安心だ」と大喜びされたことがある。ちょっと嬉しい思い出だ。

ランチでお気に入りは、スカラ座の直近にあるトラサルディ・レストラン。大通りに面したビルの2階にあるが、通り沿いの窓際の席を予約する。ミラノでももっとも多くの高級車が往き来する通りなので、それを眺めながらのランチは楽しい。

カフェはミラノでの楽しみの一つなので、いろいろなところに行く。ほとんどは行き当たりばったりだ。が、静かに寛ぎたいときはスカラ座に隣接するカフェ・スカラがいい。

ちなみにスカラ座は、オペラ好きでなくても1度は行ってみるといい。18世紀の豪華かつ華麗な建築を観賞するだけでも価値はある。

ディナーは手軽な店のピザやパスタですませることが多い。歳を重ねると、コース等のメニューは重いし、気軽に済ませたいからだ。でも、アルマーニビルの「NOBU」には時々行く。日本食だからヘビーではないし、お洒落な来店客を見ながらのディナーは楽しい。

ピックアップした場所はすべて、パークハイアットから徒歩圏内にある。お喋りしながらぶらぶら歩いている内に、なんとなく着いてしまう距離だ。タクシーに乗るのはブルノート・ミラノに行くときくらい。

若い人たちではエネルギーを持て余してしまうかもしれないが、僕たちには心地よいミラノの休日の過ごし方だ。

● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト

1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

登録無料! 最新情報や人気記事がいち早く届く! 公式ニュースレター

人気記事のランキングや、Club LEONの最新情報などお得な情報を毎週お届けします!

登録無料! 最新情報や人気記事がいち早く届く! 公式ニュースレター

人気記事のランキングや、Club LEONの最新情報などお得な情報を毎週お届けします!

この記事が気に入ったら「いいね!」しよう

Web LEONの最新ニュースをお届けします。

SPECIAL

    おすすめの記事

      SERIES:連載

      READ MORE

      買えるLEON

        ただ街を眺める旅。ミラノの思い出 | 自動車 | LEON レオン オフィシャルWebサイト