2020.04.05
2020年中に日本国内でEV「タイカン」を発売へ
あのポルシェが「電気自動車」に乗り出す意味
スポーツカー専業のメーカーとして世界トップの販売台数を誇るポルシェが、あえてエコの象徴でもあるEVの販売に乗り出す。巨額な投資を行ってまで、いま、電動化に踏み切った理由とは? ポルシェの電気自動車に勝算はあるのか?
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文/中野 大樹(東洋経済 記者)

ポルシェといえば、言わずと知れたドイツの高級自動車メーカー。スポーツカー「911」やSUV「カイエン」といった主力車種を持ち、現在は同じくドイツのフォルクスワーゲン(VW)グループに属する。
スポーツカーと聞いて、エコを想像する人は少ないだろう。一般的なスポーツカーは、大量のガソリンを燃やし、圧倒的な走行性能を誇る。「スポーツカー=燃費が悪い」は当たり前。そんなスポーツカーを手がけるポルシェが、あえてエコの象徴でもあるEVの販売に乗り出す。
背景に何があるのか。まず1つは、世界中で厳しくなる環境規制への対応だ。ポルシェの本社がある欧州や販売台数が最も多い中国においても環境規制が強化されている。ポルシェはVWグループ全体として規制数値をクリアする必要がある。「規制への対応が出来ているかがビジネスの成否を分ける時代になった」(ポルシェジャパンのミヒャエル・キルシュ社長)。
ただし、それだけが理由ではない。キルシュ社長はT型フォードの登場で人の移動手段が馬から車へとわずかな期間で入れ替わったことを挙げ、「今回も(ガソリン車からEVへの)急速な変化が起きる」(同)と危機感を示す。
911に劣らないスペック

デザイン面ではむしろ自由度が増す。ポルシェジャパンのマーケティング部プロダクトマネージャー、アレキサンダー・クワース氏は「内燃エンジンのスペースが不要なので、ボンネットをさらに低く設置できた。メリハリのある高低差で一層ポルシェのクラシックモデルを想起させるデザインになった」と話す。

具体的には音響装置を使って走行音を作り出すという。「ポルシェエレクトリック スポーツサウンド」と呼ばれるこの機能は車内外でエンジン音とは異なる独自の走行音を作り出すことができる。
キルシュ社長は「EVの正しい音については議論を尽くした。GT3(ポルシェの旗艦エンジン)のコピーではない。パワフルなスポーツカーの音の新しい解釈だと思う」と、音への自信を示す。
スポーツカーでもエコといえる
ただT2Wの場合、発電時のエネルギー消費や排出を考慮していない。そこで日本が2030年の燃費規制から導入を予定しているのがWell to Wheel(油井から車輪まで、以下W2W)だ。W2Wは、通常のT2W方式の排出量に加え、そもそもどのように燃料が消費され、エネルギーが作られたのかも含める。
では、W2Wでのタイカンターボの燃費はどうなるのか。ヨーロッパで公表されているタイカンの航続距離を基に計算してみたい。少々乱暴になるものの、調査会社のIHSマークイットの波田野通アナリストが作成した日本国内でのW2Wでの燃費計算式(6750÷電費【Wh/km】=ガソリン燃費【km/L】)で試算すると、タイカンの燃費は32.6km/Lとなる。
この数字は、トヨタの「カローラスポーツ」のHVモデル(30km/L)以上の燃費になる。他方、日産のEV「リーフ」は43.5km/Lであり、EVの中ではやや見劣りするともいえる。とはいえ、タイカンはスポーツカーというカテゴリーということもあり、比較するのが酷なのも事実だ。スポーツカーでこの水準の達成は十分、エコといえるだろう。
ポルシェは、非常に特殊な立ち位置のブランドといえる。多くの高級スポーツカーブランドは販売台数が極端に少ない。例えば比較的台数が多いフェラーリの販売台数でも世界全体で1万0131台(2019年)にすぎない。
一方で、ポルシェの販売台数は28万台余り。加えてVWグループ傘下でもあり、グループとしての販売台数は多い。工芸品的側面が強い小規模ブランドの中で唯一、工業製品ともいえる規模だ。

電動化に約7500億円の投資
生産規模が小さくないメーカーでありながら、性能の追求と贅を尽くすラグジュアリーブランドとしての立場を持つポルシェ。タイカンは、走る喜びを追求する人たちにも受け入れられるだろうか。