2020.01.28
私たちはいつだってラブストーリーが必要なのだ。
「ロミオとジュリエット」が大好きだったはずの青年も、そろそろいいオッサン? いまでも無垢な魂を持ったジュリエットは、男の心のなかに居場所を持っているのでは。そんなテーマを抱えた著名なファッションフォトグラファーのパオロ・ロベルシ氏が撮った作品が今年のピレリカレンダーになった。
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取材・文/小川フミオ
愛の物語「ロミオとジュリエット」がカレンダーに
そんなテーマを抱えた著名なファッションフォトグラファーのパオロ・ロベルシ氏が、「ジュリエットを探して」というテーマで作品を撮った。ジュリエットを演じるなかには、「ハリー・ポッター」シリーズで人気が出たエマ・ワトソンも含まれる。
ロベルシ氏によるジュリエットがフィーチャーされたのは、イタリアのタイヤメーカー、ピレリによるいわゆる「ピレリカレンダー」の2020年版だ。毎回、世界的な活躍をするファッションフォトグラファーに依頼するアートブックのようなカレンダーだ。
「ロミオとジュリエットが私がもっとも好きなラブストーリーです。私が最初にこの物語を読んだのは子どものときですが、とても印象に残っています」
「ジュリエットは、すばらしい女性だと思います。14歳で、とてもシャイで、とてもフラジャイルで、世間については無知で……ところが彼女が強い女に変身するわけです。世間に対して敢然と向き合うわけです。それが愛のためなんですね」
ロベルシ氏の作品はケイト・モスなどトップモデルのヌードを撮影しても、肉感的というより、透明感が強い。そぎ落とすところに美学がある、とかつて語っていたように、シンプルな美を追究してきた感がある。美しい写真を撮るひとだ。
物語は、欧州各地にあった男女の悲恋の物語を16世紀に、英国のシェイクスピアが戯曲にまとめあげたもの。出世作と言われる。ベローナを舞台に、対立するキャピュレット家のジュリエットと、モンタギュー家のロミオが恋に堕ちる話だ。
ロミオは両家の争いに巻き込まれ、キャピュレット家の人間を刺殺し、街から追放されてしまう。そのあとジュリエットは父親から望まぬ相手との結婚を強要されるが、ロミオへの愛が消えることはない。
ロミオには、ジュリエットのからだが置かれた安置所へと戻ってくるタイミングで、彼女が仮死状態から目覚めると伝えられるはずだったが、手順を説明した神父からの手紙が届かなかった。
こっそりベローナに戻ってきたロミオだが、再会の喜びを分かち合うべきジュリエットは息をしていない。ロミオは彼女が死んでいると思い込み、絶望して自害。ジュリエットは目覚めたものの、血を流して横たわるロミオの姿を見て、自分にも短剣を突き立てる。
彼女たち(実際はTheyとして性を区別していない)にはシェイクスピアの一節を朗読してもらうと、それが自身の体験や記憶を呼び覚ますようで、すばらしい瞬間を撮れた、とロベルシ氏は語る。
なんと132ページに及ぶ今回のカレンダー(これがアートブックに比されるゆえん)に登場する9人のジュリエットは下記のとおり。
女優では、エマ・ワトソン(英)、クレア・フォイ(英)、ミア・ゴス(英)、インドゥヤ・ムーア(米)、ヤラ・シャヒディ(米)、クリステン・スチュワート(米)。シンガーは、クリス・リー(中国)、ロザリア(スペイン)。アーティストはステラ・ロベルシ(イタリア系フランス人)。
「カレンダーでは、ジュリエットとロミオの、出合い、結婚、そして死という物語の流れにあるていど沿って、場面ごとにジュリエットを演じてもらっています。最期の死のシーンでは、撮影中に感きわまって涙を流すモデルもいて、感動的でした」
なんだか、昨今、ちょっと忘れてしまっていたような感情ではないだろうか。私たちはいつだってラブストーリーが必要なのだ。そのことを改めて思い起こさせてくれた。あいにくこのカレンダーは市販されない。それがまことに残念である。
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● 小川フミオ / ライフスタイルジャーナリスト
慶應義塾大学文学部出身。自動車誌やグルメ誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。活動範囲はウェブと雑誌。手がけるのはクルマ、グルメ、デザイン、インタビューなど。いわゆる文化的なことが得意でメカには弱く電球交換がせいぜい。