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2019.12.22

2020年末以降に日本投入、何が進化したのか

VW「8代目ゴルフ」実際に乗ってわかった実力

フォルクスワーゲンゴルフがフルモデルチェンジして第8世代となった。12月にはドイツで発売を開始。日本発売は2020年末以降になりそうだが、はたしてどんな進化を遂げたのか。ポルトガルで開かれた国際試乗会に参加した。

CREDIT :

文/塩見 智

写真/フォルクスワーゲン
記事提供/東洋経済ONLINE
1974年のデビュー以来、45年間で累計3500万台以上を販売し、FFハッチバックのお手本として君臨するVW(フォルクスワーゲン)の「ゴルフ」がフルモデルチェンジして第8世代となった。12月にドイツで、そのほかの欧州市場では2020年1~3月に発売される。

骨格となるプラットフォームを現行型ゴルフから流用しつつも、ガソリンエンジンのマイルドハイブリッド化などによってパワートレーンの効率を高め、空力性能も大幅に向上させて燃費向上を図った。

また、運転席まわりの操作をタッチパネル中心とし、「ハロー フォルクスワーゲン」と呼びかけることで起動する流行の音声入力アシスタントを備えるなど、デジタライゼーションが進んだ。日本導入は1年後の2020年末以降の予定。熟成度を増した現行型を買うべきか、新型を待つべきか、という観点をもってポルトガルで開かれた国際試乗会に参加した。

“居心地のよさ”を進化させた

新型はほかのVW車同様、折り目正しいプロポーションをまとって登場した。ひらがなの「く」のようなCピラーまわりのデザインは初代から続くゴルフの伝統であり、今回も守られた。チーフデザイナーのクラウス・ビショフが「数百万もの人々にとっての“居心地のよさ”を進化させた」と語るように、欧州を中心に世界中で売られ、街の風景の一部となりうるゴルフは、突拍子もないデザインを採用して悪目立ちすることは許されないし、その必要もない。
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新型ゴルフのヘッドランプ。
写真/フォルクスワーゲン
ただし目新しさは求められるため、新型では複雑な形状となったLEDヘッドランプ&テールランプをはじめ、サメのエラのような段付きデザインのフロントパンパーを採用するなど、凝った部分も見られる。

サイズは、全長4284mm、全幅1789mm、全高1456mm、ホイールベース2636mmと、現行型に対しわずかに(+26mm)長くなり、大幅に(-36mm)低くなった。それ以外はほぼ変わらない。全高が36mmも低められたのは、一にも二にも空力性能を向上させて燃費を稼ぐためだ。

これによって前面投影面積が小さくなったほか、Cd値も0.3から0.275へと大幅に向上した。それによって室内が狭くなったかというとそんなことはなく、前後ともに頭上空間には余裕がある。荷室容量は数値上ではわずかに狭くなったが、見た感じはほぼ変わらない。

運転席に座って感じるのは、インパネデザインの未来感。ランプ類やエアコンを操作するダイヤルスイッチはなくなり、タッチ式のスイッチのみに。その数も大幅に減った。インフォテインメント系の操作はたいてい8.25インチスクリーンをタッチして行う。

ATセレクターがシフトバイワイヤー(トランスミッションとケーブルでつながっていない)となった。このため、例えばまだ停止せず、わずかに前進している間にレバーをRに入れても不具合を起こすことはなく、きちんと停止後にバックする。
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多岐にわたるエンジンラインナップ

ベストセラーカーだけあって、本国でのエンジンラインナップは多岐にわたる。まずガソリンは最高出力90ps、110psの1リッター直3ターボと、同130ps、150psの1.5リッターTSI直4ターボ(気筒休止システム付き)の4種類が設定される。

すべてが新開発の6速MTと組み合わせられる。このうち110ps、130ps、150psのエンジンでは、マイルドハイブリッドのeTSI(48Vシステムとベルト駆動式スタータージェネレーター付き)版も選べる。eTSIの場合は自動的に7速DSGとの組み合わせとなる。eTSIの場合も最高出力や最大トルクの値は変わらない。追ってGTIやRなどのスポーティーバージョン用に2リッター直4ターボエンジンも加わるはずだ。

48Vシステムを採用すると、高電圧化により電源ケーブルを細くしても高い電流を伝送できるようになり、それが馬鹿にならない軽量化につながるほか、減速時の回生能力が上がる。また通常のオルタネーターに代えて発進時の駆動をアシストするベルト駆動の小型モーター(eTSI)が備わるため、アイドリングストップから再始動する際の振動を著しく低減できる。

ディーゼルエンジンは、最高出力が115psと150psの2種類の2リッター直4ターボが設定される。6速MTもしくは7速DSGとの組み合わせ。基本設計は現行型ゴルフの日本仕様のエンジンと同じだが、新たにVWが「ツインドージング」と呼ぶ、直列された2つのSCR触媒の両方にアドブルーを噴射するシステムが付き、排ガスがより一層クリーンになっているという触れ込みだ。当然最新のEU排出ガス基準のユーロ6dをパスしている。ガソリンのGTI同様、スポーティーディーゼルのGTDが後から発売される。

プラグイン・ハイブリッドモデルは最高出力204psと245psの2バージョンが追加される。いずれも1.4リッター直4ターボエンジンと6速DSGの組み合わせ。新型ではバッテリーの総電力量が13kWhと、ゴルフ7GTEに対し50%増しとなり、EV走行距離が延びる。さらに天然ガスとガソリンの両方に対応する1.5リッターTGI直4ターボエンジンも設定される。
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この非常に幅広いエンジンラインナップのうち、ドイツで発売と同時に購入できるのは、最高出力が130psと150psの1.5リッターTSI直4ターボ(いずれもMT)、150psの1.5リッターeTSI直4ターボ(DSG)、115ps(MT)と150ps(DSG)2リッターTDI直4ターボの5種類。そして肝心の日本仕様は150psの1.5リッターeTSI直4ターボと150ps2リッターTDI直4ターボ(いずれもDSG)の2種類の予定だ。

試乗会では、日本仕様として予定されているモデルに乗ることができた。ガソリンの1.5リッターeTSI直4ターボは、何の気なしに乗ると現行型ゴルフの1.5リッター TSI直4ターボエンジンと変わらぬ印象。注意深く観察すると、マイルドハイブリッド用のモーターがさまざまな場面で渋く活躍していることに気づく。

発進時に一瞬最大50Nmのトルクを発してタイヤの転がり始めを助太刀し、減速時には同じモーターがエネルギーを回生し、次回の発進アシストに備える。アイドリングストップからの再始動時、モーターが威力を発揮し、振動のない再始動を可能とする。国産メーカーではスズキ、マツダ、スバル、海外メーカーではメルセデス・ベンツ、ジャガーランドローバーあたりがこぞって同種の機構を採用するが、用いる電圧が各社まちまちのためアシスト能力も異なる。

ディーゼル(TDI)の印象は現行型のそれに近い。発進加速、中間加速ともに2リッター前後の4気筒ターボディーゼルとして標準的な力強さを味わわせる。力感にあふれるタイプではなく、5000rpm近くまでシューンと気持ちよく吹け上がり、ディーゼルのわりには回転によって馬力を得るタイプだ。エミッション対策の変更は特に乗り味には影響していない。

静粛性の向上、ボディ剛性の高さ

印象的なのは車体の素晴らしさだ。まずガソリン、ディーゼルを問わず静粛性が格段に向上。驚いたことに高速走行時にのみならず低速走行時もディーゼルのほうが静かかもしれないと思わせた。ガソリンだからといって静かというわけではないと言ったほうが正確か。
写真/フォルクスワーゲン
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街乗りで不整路面を通過する際にも、また120km/h前後で高速道路のコーナーを通過する際にもボディ剛性の高さを感じさせる。そこそこ高価格のクルマでも、何に起因するのかわからない振動を発するクルマもあるが、ゴルフにはそれがない。現行型は発売から7年たった現在も依然としてクラスをリードする乗り心地とハンドリングを得ているが、新型でまた一段レベルを上げた。つまりこれこそが、今後各社がこのセグメントで目指すレベルになるのだろう。

しかし新型ゴルフの進化の度合いは動力性能や環境性能よりも、ユーザーインターフェイスやインフォテインメントのほうが大きい。運転席まわりから物理的なスイッチを大幅に減らし、多くの操作をタッチ式スクリーンによって行うようになった。

また音声認識で呼び出し可能な機能も増えた。アレクサが組み込まれており、音楽やニュース、天気予報などを誰かに話しかけるように呼び出すことができる。ゴルフ自体のボイスコントロールも備わり、「ハロー フォルクスワーゲン」と呼びかけ、会話するように目的地設定やエアコンの温度調整などができる。ただし、アレクサは日本語対応の予定がない。ゴルフのボイスコントロールは導入までに日本語対応させてくるだろうが、集合知によって性能が変わってくるため、発売当初の認識能力がどの程度か気になるところだ。

地域の壁による残念な話題がもう1つある。新型には彼らが「Car2X」と呼ぶ車々間通信、路車間通信を活用した機能が備わる。半径800m以内にある同じ機能をもつ車両と通信したり、信号をはじめとする交通インフラからの情報を取得することで、事故予防に役立つ情報をやりとりする仕組みだ。

自車が事故または故障で路上に停止した場合、他車のメーターにバーチャル三角板を表示して注意を促すほか、先行車両がブレーキランプを点灯させると、(ブレーキ操作の有無にかかわらず)即座に自車のブレーキランプも点灯し、後続車両にいち早く減速を伝え、追突の可能性を減じるのだが、EUと日本では通信規格が異なるため、この通信機能は現時点では日本では使えない。
写真/フォルクスワーゲン
古くは右ハンドル/左ハンドルの違い、最近では排ガス基準の違いから欧州車が得意とするディーゼルエンジンを導入できなかったことなど、輸入車ビジネスにはさまざまな課題があった。その都度各企業の努力で解決してきたほか、近頃は市場ごとの規制の違いをなくして輸出、輸入の壁を減らそうというワールドハーモナイズドの考え方が浸透してきたが、ここへきて通信規格や言語の壁など、新しい、しかし根本的な課題が発生してきた感がある。輸入車販売業者は何か新技術が実用化されるたびに新たな課題を抱えることになる。
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使えない「ライフ」という名称

さてVWファンは「トレンドライン」「コンフォートライン」「ハイライン」というグレード名に長らく親しんできたが、新型ゴルフ登場を機に、それぞれ「ゴルフ」「ライフ」「スタイル」へと置き換わる。

最もベーシックなゴルフ(グレードのほう)でも、LEDヘッドランプおよびテールランプ、キーレススタート、デジタルコックピット、モバイルオンラインサービスなどが標準装備される。しかしここでまたもや日本仕様に関して問題がある。「ライフ」は国産自動車メーカーが商標をもっているため、国内ではその名称を使えない。インポーターは従来のグレード名の継続使用を含め検討中だそうだ。

新たな取り組みとして、ACC(アダプティブクルーズコントロール)、ライトアシスト(ハイビームコントロール機能)、Wi-Fiホットスポット機能などの一部装備を購入後でも装着可能になる。ACC用のレーダーをはじめ、これらを作動させるのに必要なハードウェアはあらかじめ備わっており、オンラインで契約すると利用できるようになる仕組み。ただし一部は日本仕様では標準装備されるだろう。

ところでゴルフの幅広いラインナップから、BEV(純電気自動車)のeゴルフがラインナップから落ちた。代わりにBEV専用モデルのID.3が発売されることが決まっている。「代わりに」というより、eゴルフがID.3としてゴルフファミリーから独立するといったほうが正しい。

かつてハイブリッド専用車のトヨタ・プリウスがカローラからベストセラーの座を奪ったように、いつかはID.3がゴルフに取って代わる時代がくるのかもしれない。もちろん、内燃機関を有するクルマが将来すべてEVに切り替わるわけではないように、すべてのゴルフがID.3に取って代わられるわけではないだろうが、市場ごとの電力事情と政策次第で“主流”が切り替わる市場は意外に少なくないのではないだろうか。
写真/フォルクスワーゲン
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お手本と言われてきた存在としての意地

総合的に考えて、新型ゴルフはハッチバックのベンチマークになると思う。けれどもライバルの台頭によって以前ほど図抜けた存在ではなくなった。メルセデス・ベンツA/Bクラス、ミニとBMW1シリーズ、トヨタ・カローラ、マツダ3など、先に出てなお新型ゴルフを上回る部分をもつ存在も少なくないが、ゴルフの上質で快適な乗り味からは長年お手本と言われてきた存在としての意地を感じた。
新型ゴルフ(一番手前)と歴代のゴルフ。
写真/フォルクスワーゲン
冒頭に示したゴルフを検討している人は現行型を買うべきか新型を待つべきかについて。日本導入が本国での発売丸1年後というのは、はっきり言ってファンを待たせすぎだ。とはいえ、前述した通り日本仕様にフィットさせるために必要な作業が多いのも事実。ただし待ってもここに紹介した機能がすべて日本仕様に盛り込まれるわけではなさそうだ。

そのあたりにやきもきするくらいなら、熟成極まり、モデル末期で好条件を出しやすい現行型を買って今すぐ楽しむべきだと感じた。静粛性を中心に快適性では新型は現行型を上回るが、根本的な違いではない。1年後に新型が出て、その価格と仕様に魅力を感じたら、まだ新しい現行モデルを下取りに出して買い替えを検討すればよい。僕ならそうする。

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