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2019.11.09

フェラーリが、客にあえて1台少なく売る理由

フェラーリの創業者エンツォ・フェラーリは日頃から「欲しがる客の数よりも1台少なく売れ」と語っていたという。その言葉にはどんな意味があるのか? マーケティング戦略コンサルタントであり、『売ってはいけない』の著者でもある永井孝尚氏が、フェラーリの価値づくりをひもときながら、付加価値の本質について語った。

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文/永井孝尚(マーケティング戦略コンサルタント)

記事提供/東洋経済ONLINE
フェラーリの価値づくりにみられる、付加価値の本質とは?(撮影:今井康一)
商品が売れ始めると「品切れは絶対ダメ」と考え、生産量を一気に増やす会社は多い。しかし商品が余って売れ残り、価格も下がってしまうのもよくあることだ。

マーケティング戦略コンサルタントであり、『売ってはいけない』の著者でもある永井孝尚氏によると、「機会損失を怖れ商品を潤沢にそろえることだけ考えているから、自ら価値を下げている。ゲーム理論を学び、『あえて少なく売る戦略』も検討すべきだ」という。そこでフェラーリの価値づくりをひもときながら、付加価値の本質について語ってもらった。(本記事は、同書の一部を再編集したものです)

その行動、商品の価値を下げてます

ユミさんはかわいいアクセサリーを手作りし、ネット販売している。ユミさんが作るアクセサリーには、根強い人気があった。でも彼女のアクセサリーは、決して品切れしない。

ユミさんいわく「『欲しい』というお客さんを悲しませたくないので、『これくらい売れる』という数よりも、2~3割多く作っています」。品切れさせないために徹夜もいとわないという。だから必ず売れ残りが出る。

そこでユミさんは定期的に「感謝セール」を行い、半額で売っている。しかし最近、「これくらい売れる」と思った数が売れなくなってきたという。感謝セールを待って、半額で買おうとするお客が増えてきたためだ。

多くの日本メーカーが行っていることは、ユミさんが行っていることと同じだ。商品が売れ始めると多少無理をしてでも生産量を増やすが、供給過多になり売れ残る。そして在庫一掃セールにより自ら価値を下げ、価格も下がってしまう。

「機会損失」という言葉がある。本来売れるのに商品がないため売れない状態のことだ。ユミさんも多くの日本メーカーも、この機会損失を怖れて多めに作っているのだ。しかし、そのために自ら商品の価値を下げ、結果として価格も下げている。

多くのコンビニエンスストアは、機会損失を極度に嫌う。だから、コンビニの棚にはコンビニ弁当やおにぎりなどがあふれかえっている。しかし、賞味期限切れの食材も出てくる。そこで、賞味期限切れ間近の商品は、店舗の負担で泣く泣く廃棄してきた。

世間から「食べられるのに捨てるのは問題だ」と批判され始めたことで、例えばセブンは賞味期限切れ間近の食材をポイント還元して売り始めている。機会損失を怖れて多めに売ることで、いろいろな問題が起こってくるということだ。
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「欲しがる客の数よりも1台少なく売れ」

この逆を徹底しているのが、フェラーリだ。フェラーリは「欲しがる客の数よりも1台少なく売る」という考え方なのである。フェラーリの歴史をひもときながら、考えてみよう。

スーパーカーとしての性能を別にすれば、信頼性や品質面では、フェラーリよりも日本車やドイツ車のほうが高い。しかし、フェラーリは高いモデルで1億円以上。中古も高い。フェラーリは特別なクルマなのだ。

創業者のエンツォ・フェラーリは、レースドライバーだった。彼の最大の関心は「レースに勝つこと」。クルマを市販したのはレースの資金集めが目的だった。顧客にとってフェラーリを買うことは、フェラーリのF1活動を支援する意味があった。フェラーリの原点はここにある。

エンツォは、ビジネスマンとしての能力も高かった。顧客は、F1レースで勝ち続けるフェラーリのマシンを周囲に見せたいために買うのであって、車本体の完成度を必ずしも求めてはいない、と見抜いていた。

そこで市販車では遮音や空調はせず、仕上げ品質にもこだわらず、生産コストを下げるためにピニンファリーナという車の設計・生産委託会社に市販車の開発と生産を委託し、作ったクルマにフェラーリのロゴを付けて売り、その利益でレース活動資金を得ていた。

その後、後任のルカ・ディ・モンテゼーモロがトップに就任するとフェラーリは大きく変わった。「全世界から最高の部品を集約し、最高品質を目指す」という方針の下、開発体制を一新し、市販車の品質を向上させた。

「スペチアーレ」という、フェラーリの節目の年に出す限定生産モデルをシリーズ化したのもこの頃だ。どんなに大金を積んでも「スペチアーレ」は買えない。過去にフェラーリを最低数億円買った顧客のみが「スペチアーレ」を買う権利を持つ。しかも、厳重な審査を通らないと売ってくれない。2013年発表の「ラ フェラーリ」は、限定499台で1億6000万円。しかも、発売前に即完売した。

しかしなぜ「限定499台」なのか? フェラーリはかつて「フェラーリF40」という車を発売していた。当初400台の生産をうたっていたが、人気だったので最終的に1000台以上を生産。その結果、中古市場に大量のF40が出回り、特別感が消えてしまった。

そこで、後継のF50は「限定生産台数349台」とアナウンスされ、すぐ転売しない優良顧客のみに販売。即完売だった。そして、349台で生産を打ち切った。

もともと創業者のエンツォは、日頃から「欲しがる客の数よりも1台少なく作れ」と語っていたという。

エンツォは正確な既存顧客リストを基に、何台の市販車が売れるかを見極め、生産台数をそれより1台少なく設定したうえで、販売価格を決めていたのである。

この方法はメリットが大きかった。不特定多数に興味を持ってもらう必要がないので、宣伝販促は不要になるからだ。私たちが普段見かけるフェラーリの広告は、フェラーリではなく、販売代理店が自腹を払って出しているものだ。
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顧客が「買わせてもらえますか?」とお願いする戦略

コモディティ化しかけたF40から学んだフェラーリは、創業者エンツォの考えに舞い戻って、F50の生産台数を絞ったのである。

限定販売モデル「スペチアーレ」は億単位の買い物にもかかわらず、わざわざ顧客が代理店に電話して「買わせてもらえますか?」とお願いするという。フェラーリは売り込みをしないのだ。これも、フェラーリがまず大事な顧客を選び、そして特別感を持ってもらうというように、戦略的に考えた結果だ。

「あえて顧客を選んでいる」から、フェラーリは高く売れるのである。

フェラーリは中古の下取りでも高く売れる。2014年、1962年型フェラーリ250GTOは39億円で落札された。
フェラーリが中古でも高く売れるのには、仕組みがある。社内の中古専門部門が「価値あるクラシックカー認定制度」を運営しているためだ。

フェラーリの中古車の審査を依頼すると、専任スタッフが部品1つひとつをキチンとチェックし、基準を満たしていれば「本物」と認定する。改造されたり状態が悪かったりすると、オリジナル状態にレストアしてくれる。だからフェラーリの中古は値崩れしない。結果、フェラーリのブランド価値は高まる。

こうして高まったフェラーリのブランドは、ビジネスにも大きく貢献している。2018年の総売り上げは34.2億ユーロ(4170億円)。うちブランド関連売上は5.06億ユーロ(617億円)。これはフェラーリの「跳ね馬」マークのブランド使用料で、総売上の15%を占める。コストがかからないので、まるまる利益になる。

さらにフェラーリは景気に左右されない。図は2004年から2018年のスーパーカー全体とフェラーリの販売台数推移だ。2008年から2009年のリーマンショックの時、スーパーカー市場の販売台数は下がったが、フェラーリへの影響は少なかった。これもフェラーリが顧客を選んだ結果である。
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フェラーリが欲しがる客よりも1台少なく作る理由は、ゲーム理論で考えるとわかる。

こんなゲームを考えてみてほしい。
あなたは1万円で仕入れた超人気の高級ワインを11本持っている。このワインは超品薄でまず入手できない。あなたはこの高級ワインを知り合い限定で転売できる権利を持っている。ただし第三者には転売できないし、買い手同士は情報交換できないものとする。

【ゲーム1】「この高級ワイン、どうしても欲しい」というワインマニアの知り合いが10人いる場合

あなたが知り合いに「この超高級ワイン、2万円で買わない?」と提案しても、相手から「1万円で仕入れたんでしょ。高すぎるよ。1万1000円なら買うよ」と言われると、値切り交渉に応じざるをえない。仮にほかの買い手9名全員が買ったとしても、売り手のあなたの手元にはワインが2本余る。相手と交渉が成立しない限り、このワインをお金に換えられないからだ。

次にゲーム1を少しだけ変えてみる。

【ゲーム2】あなたは超高級ワイン11本のうち2本を飲み干し、手元には9本しか残っていない

途端にゲームは一変する。なんとあなたのほうが圧倒的に有利になるのだ。

あなたが知り合いに「超高級ワインがあるんだけど、2万円で買わない?」と提案すると、相手は受け入れる以外に選択肢はない。ほかの買い手9人と交渉が成立してしまうと、残ったワインはゼロ。あなたの知り合いは、超高級ワインを入手する機会を失ってしまう。だからあなたの立場は圧倒的に強くなる。相手はあなたの言い値で買うしかない弱い立場に変わる。

あえて「欲しがる客よりも1台少ない」状況を作っているフェラーリは、ゲーム2と同じ状況を作っているのである。

心理学でいう「心理的リアクタンス」を喚起している

フェラーリが、欲しがる客よりも1台少なく作る理由は、心理学で考えても説明できる。

人間は「希少性があるものは、いいものだ」と思ってしまう。人は本能的に自由を求めるからだ。入手する機会が減ると「入手する」という自由を失ってしまう。人はこれを嫌う。要は「人は、自分で決められないのが嫌」なのだ。だから「欲しいものに希少性がある」と知ると、無性に欲しくなる。これを「心理的リアクタンス」という。
これと同じ考え方で高値を維持している事例は多い。

私たちは「ダイヤモンドが高いのは、希少性があるからだ」と信じている。しかし、現実にはダイヤモンドの採掘量は増えている。ダイヤモンド流通を独占するデビアスが流通量を意図的に減らしているため、ダイヤモンドの希少性は維持されている。

『売ってはいけない』

マーケティング発想へ切り替えることで「売らなくても儲かる」仕組みの作り方を詳説。ネスレ、マクドナルド、ジャパネットたかた…売らないことでV字回復を遂げた企業の意外な戦略とは?身近な具体例からゲーム理論、ブルーオーシャン戦略などの基本を学べる入門書。 
著者/永井孝尚 PHP新書 本体900円+税

フェラーリやデビアスは、人為的に希少性が高い価値を生み出しているのだ。必要以上の数を売ることは、自ら希少性を手放しているのと同じだと言ってもよい。希少性を生み出せば機会損失が生じるが、価値は高まる。

ただし条件が1つある。「顧客が何としても手に入れたい商品」であることだ。顧客が「なければほかの商品でもいい」と思っている場合は、1個少なく売ったとしても、顧客は別商品を買うだけのことだ。

だから、まず「顧客がどうしても欲しい」という商品を作ること。1個少なく売るべきかどうかを考えるのは、その次である。
(参考文献:『フェラーリ・ランボルギーニ・マセラティ 伝説を生み出すブランディング』越湖信一より一部引用)
当記事は「東洋経済ONLINE」の提供記事です

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