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2022.05.29

日本を代表する高級車「クラウン」は21世紀を象徴するクルマとして蘇れるのか?

1955年、復興期の日本に誕生したクラウンは当時の日本人を驚かせる素晴らしい性能を誇った。夢中になった筆者は後に自らも購入、所有歴の中で数少ない国産車の一台となった。思い出深いクラウンとの日々。そして今、低迷に悩むクラウンに思うこととは?

CREDIT :

文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽

岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第185回

強く心に残るクラウンとは?

トヨタ・クラウンは1955年に誕生。以来、日本の高級車を代表し続けてきた。「いつかはクラウン!」という宣伝のキャッチコピーがあったが、これは、日本の多くの人たちの思いと重なっていた。

67年前、初めてクラウンを見た時、初めてクラウンに乗った時、、僕は「やっと日本に本物の乗用車が生まれた!」と思った。

その姿も、走り味も、乗り味も、それまでの日本製乗用車の印象を大きく塗り替えるものだった。

ちょっと厳しい言い方になるが、クラウン以前の日本製乗用車を、僕は「乗用車のフリをしたトラック」と思っていた。

トヨペット・スーパーもマスターも、ダットサン110型も、、ゴツくて、遅くて、乗り心地が悪くて、煩いクルマだった。

当時の乗用車需要のほとんどはタクシー業会に支えられていた。だから、「タフさと安価さ」という点では、市場の要求に沿ったものだった、、ともいえるだろう。

とはいえ、その見返りとして、乗客とドライバーに強い負担を強いた。とくに、長時間運転し続けなければならないドライバーの負担は厳しいものだったに違いない。
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トヨペット・クラウンは、そんな状況を一転させ、日本製乗用車の「夜明け」を告げた。1960年代に大きな飛躍を遂げることになる日本自動車産業の扉を開いたとも言える。

ピラーは細く、ガラス面積は大きく、線も面も優しく、、それまでの「乗用車のフリをしたトラック」とは完全に別世界にあった。

クラウンが多く見られるようになると、街の景色も変わった。クラウンは急ピッチで進む戦後復興の、ある種象徴的存在にも見えた。

子どもの頃、親と街に出ると、タクシーに乗せてもらうのが楽しみのひとつだった。でも、日本製タクシーには乗りたくなかった。

日本製でも、ライセンス生産のオースチン、ヒルマン、ルノーを選んで乗せてもらった。

そんな小生意気な僕が、日本製で初めて乗りたいと思ったのがクラウンだった。

乗用車専用の低床シャシーを採用したクラウンは、乗り降りもしやすかったし、乗ると、ホッとするようなくつろぎ感もあった。

トラック等と汎用シャシーを共用した乗用車のキャビンは、物理的にも感覚的にも狭苦しかったが、クラウンのそれは別世界だった。

クラウンは、サスペンションもまた、トラックとの共用に別れを告げていた。

フロントはコイルスプリングを使ったダブルウィッシュボーン式独立懸架。日本車も「ようやく輸入車に近づいてきたな!」と思ったものだ。

リアはリーフスプリングのリジッド方式だったが、バネの枚数は3枚に抑えられ、乗り心地を良くしていた。
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当時、まだ中学生だった僕が、シャシーやサスペンションに詳しいはずもない。、、が、なぜか、クラウンのあれこれに感心したり喜んだりしたことは、妙に覚えている。

日本初の「真っ当な乗用車」の出現にうれしくなって、あれこれ資料を読み漁ったりしたのだろう。とはいっても、今のように、どこにでも資料があるという時代ではない。

カタログを何度も読み返したりしたのだろうか。その辺りは定かではないが、、。

兄とデーラーに行き、運転席に座らせてもらったことをなんとなく覚えている。残念ながら、試乗させてもらうまでにはいかなかったが、カタログはゲットできたのだろう。

だから、走っているクラウンに乗ったのはタクシーが初めて。乗り降りが楽で、ホッとするような寛ぎ感があって、、といった印象も、タクシーで感じとったことだと思う。

乗り心地も良かった。それまでの日本製タクシーとは雲泥の差だった。低いフロアも、たっぷりしたクッションのシートも、窓外を流れる景色の広がりも、、みんなよかった!

ちなみに、1.5ℓ・48psのエンジンは、トヨペットスーパーから受け継いだもの。振動騒音の軽減等にはもちろん取り組んだのだろうが、とくに記憶に残っているものはない。

以来67年、、現在のクラウンは15代目に当たるが、その間、「成功者が乗る」クルマとして、「成功者を夢見る人たちが乗る」クルマとして、その地位を保ち続けてきた。
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ところが、、3年ほど前から徐々に売れ行きは下降線を辿り始めた。そして、今やどうみても「低迷」と考えざるを得ない状況にまで入ってきている。

そんなクラウンの今後については、様々な憶測が流れているが、この件については敢えて触れないことにする。

が、僕個人の単純な希望、あるいは夢としては、「デザイン的にも技術的にも、時代の最先端を走り、日本の象徴となるような」、、そんなクラウンの誕生を期待している。

「いつかはクラウン!」と、多くが想い、憧れたクラウンを、21世紀の先端を疾るデザイン&パッケージと技術で再び蘇らせてほしい、、そう思っているということだ。

ところで、、僕はクラウンのオーナーだったことがある。かなりの台数になる所有歴の中に占める国産車は6台だけ。

その内の2台は、一時期夢中になって取り組んでいた「タイヤテスト」のために選んだもの。もう1台は経済的理由も含めた諸々の事情で、仕方なく選んだものだった。

つまり、「ほしくて買った国産車は3台だけ」ということになる。内1台は「ルーチェ1500」。ベルトーネが関わったデザインに魅了されて買った。

もう1台が、初代「ホンダ CR-X」。デザインも好きだったし、ホンダのエンジニアがチューニングしてくれた走りも最高だった。

そして、残る1台がクラウン。1971年にデビューした4代目だ。僕にはどうにもピンとこないのだが、俗称「クジラ」とも呼ばれた。
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スピンドルシェイプ=紡錘型と称する、角を丸めた空力的フォルムに、ボディと同色のビルトイン式カラードバンパー、、保守的であることが常識だった時代の高級車としては、異例の斬新さを纏っていた。

「エレガンツ・クラウン」というキャッチコピーも、「世界が見つめる」というサブキャチコピーも斬新だったし、TVCMはかなり大胆なものだった。

(アメリカ?の)富裕層の女性がドレスアップして集まるパーティーシーンのTVCMは、今見ると照れくさくなる。でも、当時の僕は憧れの気持ちで見ていたのだと思う。

こうした異例づくめのアプローチは、高級車ユーザーの間に賛否両論を巻き起こした。僕はもちろん賛成派だったし、歓迎派だった。

でも、保守派には抵抗感が強かった。クルマ好きの個人客には歓迎派も少なくなかったが、とくに法人需要と営業車需要は急降下。

結果、オーソドックスな日産セドリック/グロリアに敗北するという、いわば「異常事態!?」が起きてしまったのだ。

モータージャーナリストとしての僕には注目すべき事態であり、取材もしたし記事も書いた。、、が、個人としての僕は、エレガンツ・クラウンに強く惹かれた。

とくにモスグリーンの2ドアハードトップが気に入った。強烈に「ほしい!!」と思った。ステーションワゴンにも惹かれて、少し迷いはしたが初志貫徹。単純に、華やかさで勝る2ドアハードトップを選んだ。

納車された時は有頂天だった。「カッコいいだろう!」と、あちこち見せて回りたいような気分だった。、、、ところが、予期しなかった問題が浮かび上がった。
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ノンパワーステアリングの重さだ。たしかに重かった。当時のパワーステアリングは、このクラスでもまだ、上位モデルかオプションか、、といった時代。

僕は仕事上、多くのクルマに乗るので重いステアリングにも慣れていたし、受け容れられた。が、家内はそうはいかなかった。

運転はできたが、楽しくなかったようで、「トラックを運転してるみたい!」、「腕が太くなっちゃう── 」と悲鳴をあげた。

よく覚えてはいないが、たぶん、、予算がギリギリで、パワーステアリングまでは手が届かなかったのだろう。

、、、そんなことで、エレガンツ・クラウンとの蜜月時代は短時間で了ってしまった。

でも、、僕の心に強く遺るクラウンは? といえば、今でも、初代と4代目の2ドアハードトップにとどめを刺す。

● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト

1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

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