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2019.06.28

レクサスにあえて「ミニバン」が加わった意味とは?

いよいよと言うか、ついにと言うか、レクサスにミニバンが登場することになった。人も荷物も積める便利一辺倒の実用車だったミニバンは、いまやその出自を忘れたかのように、高級化が進みリムジンに替わる存在にまで進化しつつある。果たしてレクサスが作る高級ミニバンの中身とは?

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文/御堀 直嗣(モータージャーナリスト)

記事提供/東洋経済ONLINE
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4月の上海モーターショーでお披露目されたレクサス初のミニバン「LM」。
今年4月に開かれた上海モーターショー。そこで一躍注目を集めたのがレクサスブランド初のミニバン「LM」だ。トヨタの人気ミニバンであるアルファード/ヴェルファイアを基に、レクサス用に仕立てられた高級ミニバンで、中国およびアジア地域での販売を目的としている。

その仕様は、単にフロントグリルをレクサス用に付け替えただけでなく、レクサスに見合った仕立てとなっている。中心となるのは、内外装や室内空間の構成、そして快適装備であるという。最も顕著なのが、ミニバンで当たり前の3列シート構成ではなく、セダンのように後席は2列目のみで、1人ずつ腰かけるキャプテンシートとなっている。

また、前席との間には仕切りがあり、アメリカで栄えたストレッチリムジンのように運転者など前席の人とは隔離された個別の後席空間がある。まさに、ストレッチリムジンのミニバン版というつくりだ。
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LMの先駆けとなる「室内のつくり」

こうした考え方は、実は、2008年にアルファードが2代目へフルモデルチェンジした際、LMの先駆けとなる室内のつくりがあった。7人乗りで、2列目がキャプテンシートである場合、いったん座席を中央側に寄せ、後輪のタイヤハウスを避ける位置にすることで、後ろへ最大83cmもスライドさせることができる超ロングスライド仕様があった。

これにより、車体全長が4.8mを超えるミニバンの空間をぜいたくに使った後席空間が得られたのである。この時点で、ミニバンを実用で使うのではなく、空間を快適に使う発想がトヨタから発信された。
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レクサスLMの後席。
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ほかにも、ゆとりある寸法の後席としたエグゼクティブラウンジでは、ナッパの本革が使われ、足をのせるオットマンが備わり、折りたたみ式のサイドテーブルは3D木目調パネルや金属調素材で飾られた。助手席においても、最大1.16mのスーパーロングスライドシートなどの仕様もあった。これは、1列目と2列目の座席のスライドレールをつなげることで実現している。

アメリカで生まれたミニバンではあるが、ホンダがオデッセイを出したことにより、ただ大人数で出かけられるクルマの価値だけでなく、より乗用としての快適性や、アルファードのような空間をぜいたくに利用する新しい価値が日本で追加されてきた経緯がある。

トヨタは、永年にわたり“80点主義”の可もなく不可もない安心で壊れにくいクルマづくりをする自動車メーカーと思われていた。だが、多くの量販車種がそうであったとしても、時に斬新で革新的なクルマを市場に出し、消費者に従来にない喜びを提供してきた歴史もある。

そもそも、「80点主義」という言葉もその意味から言葉を一部省いて伝聞された経緯がある。もとは、初代カローラを開発した長谷川龍雄主査の「80点主義プラスα」という開発概念にある。あらゆる性能において80点を超える完成度でありながら、さらにプラスアルファの価値をもたせ顧客を喜ばせるという趣旨だ。
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時代のニーズをくみ取ったクルマ

これまでにないクルマの発想としていくつか例を挙げると、1970年に誕生した初代セリカでは、フルチョイスシステムという注文の仕方を導入した。これは、それまでのスタンダードとかデラックスといったグレード分けではなく、顧客の好みに応じて、エンジンや内装を選び、注文することができる。

オーダーメイドというほど個別の特注とはならないが、ある程度の装備の中から好みの組み合わせができるイージーオーダーのような販売手法だ。もとは、1964年のアメリカ・フォードの「マスタング」で採り入れられた方法であり、それをセリカに導入したのであった。

1990年のエスティマでは、それまで前席下にエンジンを搭載するキャブオーバー式ワンボックスカーから、同じ前席下でも搭載するエンジンを72度横に傾け、室内空間を大きく広げるミッドシップ配置を採用した。その後のミニバンの登場で、エスティマも前輪駆動となってゆくが、初代エスティマの存在はワンボックスカーの空間の利用に新鮮な価値をもたらした。

同じく1990年に誕生したセラは、エンジン排気量1.5Lの小型車でありながら、ガルウイングドアを備えるスペシャルティカーである。

ガルウイングドアといえば、1970年代のスーパーカーブームを牽引した、イタリアのランボルギーニ・カウンタックなど、高価なスポーツカーでしか経験できないドアの開閉法であったが、セラは新車で160万~170万円程度で買える小型車である。これによって、ガルウイングドアが実は狭い場所での乗り降りに便利であることを広く知らしめた。

このように、必ずしもゼロからイチを生み出す発明ではないかもしれないが、市場動向や顧客の用途や嗜好に合わせた新たな価値を付与する意味で、トヨタは市場をよく観察しているといえる。そして、要望に合わせた車種を開発・販売する力をもっている。

レクサスLMについて、レクサス広報は「常にお客様に驚きと感動の体験を提供し続けるとの想いのもと、LMは新たなモビリティ空間を提供し、お客様の期待を超える豊かなビジネスシーンやライフスタイルにお応えすることを目指している」と話す。

実際にアメリカでストレッチリムジンに乗ったことがあるが、迎えに来た際の驚きと、室内のぜいたくさに感心させられはしたが、その居心地は必ずしも快適ではなかった。4ドアセダンを基に車体全長を伸ばしただけなので、天井が低く、窮屈な印象が否めない。しかしミニバンを基にするなら、天井が高く、自宅のリビングでくつろぐような快適さを味わえるだろう。そこに新鮮な喜びがあるはずだ。
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中国で求められるクルマ

そもそもアジアでは、アルファードが高級車として認知され、憧れのクルマとなってきた経緯がある。そして経済成長が著しい中国においては、それがさらに加速し、アメリカのストレッチリムジンのような成功者の証しを表明できるクルマが求められるようになったのだろう。
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横から見たレクサスLM。
欧米の自動車メーカーは、馬車の時代から続く伝統的な価値観が根底にあり、また合理的な発想をするため、既存の概念から逸脱するかのような発想は生まれにくい。しかし日本は馬車の時代がなく、海外から持ち込まれたクルマという移動手段に対する固定観念がない。そこに、人をもてなすという奉仕の精神が加わることで、これまでになかったクルマの価値を生み出すことができる。

今や世界最大の自動車市場となった中国にレクサスLMが投入されれば、そこにまた新たなリムジンとしてのミニバンの価値を提供する自動車メーカーが競合しはじめるかもしれない。

今の時代にあって、一台一台を手作りするセンチュリーもあり、斬新なクルマの価値を生み出す自動車メーカーの1つとしてトヨタを見ると、世界最大の自動車メーカーとしてしのぎを削る姿とは別の好奇心に満たされるのではないか。
当記事は「東洋経済ONLINE」の提供記事です
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